深淵
勝利、夏侯惇、呂布が一斉に動く。目の前の敵を斬る。それを繰り返していた。
「ふん。こういうことは予想していた。皆の者、出会え!」
どうやら護衛以外にも、兵を用意していたらしい。用心深かったようだ。
「勝利!私のことをさっき見くびっておったな!よく見ておけ!」
夏侯惇は突っ走っている。わざと敵に囲まれ、自分の力を見せつけている。
「夏侯惇、危ないぞ!連携を乱すな!」
勝利と呂布は着実に敵を倒していく。
「…勝利?では、お前が異世界の者か。手練れを用意しておいて良かった。」
二人、威圧感を持った人が出てくる。強い。勝利はそう感じた。
すでに、李儒を含めた三人以外は倒されていた。
「見ておけ!私に敵う者などいない!」
「ばか!」
夏侯惇が二人に向かう。しかし、一人が足止めをしている間に、もう一人は弓で夏侯惇を狙う。
まずい。勝利はいそぐ。弓が放たれる。
間に合わなかった。
「ーーーッ!」
夏侯惇の目に刺さった。やっと追いついた。足止めをしている方が夏侯惇の首を切ろうとしていたが、勝利が跳ね除ける。呂布が、弓を放った敵の相手をする。
「くそ、よくも夏侯惇を!」
勝利は怒りながらも冷静に斬りかかる。数度、打ち合う。相手の腕が飛ぶ。勝負あった。
「なに!?勝利、お前はただの一般人ではないのか!?」
李儒が驚く。しかしそちらに構ってる暇はない。呂布を助けないといけない。
呂布のところへ向かう。
「…必要ない。」
呂布も敵を貫いていた。
「お前…呂布か。くそ、甘く見ていた…」
「答えろ。なぜ俺のことを知っている?」
李儒は天を仰ぐ。
「左慈様…申し訳ありません。」
隠し持っていた短刀で、自分の首を斬る。
死んだ。反応はない。
「くそ…持っていたのか。夏侯惇!大丈夫か!?」
駆け寄る。生きていた。命に別状はなさそうだ。
「勝利…すまない。勝手な行動をしなければ…」
泣いている。片目からは血が流れ、もう片方の目からは涙が出ていた。
「少し痛いが我慢しろ。」
刺さっている弓ごと、目を引き抜く。
「ぐ…」
暫くすると、少し落ち着く。
「私はもう、無理だ。これじゃ、曹操様の役に立つことはできない。勝利、すまないが介錯してくれ。」
「だめだ!」
夏侯惇が手に持った剣を弾く。
「許してくれ、勝利!私の自尊心を保つには、もうこれしかない!」
「俺は曹操軍の軍師だ。勝手な行動は許さない。見ておけ。」
しては目玉から弓を引き抜き、口に入れる。
「な…!」
「これで、俺はお前の目になった。お前の片目の代わりに、俺がお前の目となってやる。そうなった以上、勝手に死ぬことは許さない。俺が死ぬ時と、お前が死ぬ時は、同じでないといけない。分かったか?」
「勝利…、勝利!!」
抱きつく。痛いであろうに、泣きまくっている。
「…勝利、夏侯惇の目になったのなら、泣かないと。」
「…無茶言うな。」
夏侯惇の頭を撫でる。勝利はとりあえず片目の処置をして、眼帯をつける。
「今度可愛い眼帯を買ってくれ、勝利。私の目なんだろう?」
あれ?なんか良いように使われてる気もする。
「元気になったな。それでこそお前だ。」
「ずっと一緒だな、勝利」
…。とりあえず、元気になって良かった。
「よし。ひとまず戻るか。」
部屋を出て王允の場所へ向かった。