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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第一章 キッカケが整うまで
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第9話




 別に今更不思議とは思わない。それに対して過度な反応を見せることは、あまりしたくない。一度考えれば謎の穴に落ちていく。よくあることなんだ、現実世界では。

 こっちでは、現実よりも…ってことも、ありえそうだな。



 「PKか」


 プレイヤーキル。画面の向こうを操作するオンラインRPGゲームには、よく言われる言葉だ。実際にオンラインで操作するプレイヤーをプレイヤーが殺害する行為。ゲームの開発者や運営は、このPK行為をとめているわけではない。しかも、イベントやクエストによっては、PKをしなくてはならないときもある。あるゲームでは決闘が出来て、条件下で相手を殺すこともできた。倫理上問題のあることでも、この世界では出来てしまう。ゲームという楽しい環境の中で、平気でそういうことができるんだ。リアルと直結させてはならない点の一つだと、俺は思う。


 「この世界では、俺たちはスキルを使わず、自分の手足で相手を攻撃することができる。そういう意味では、現実と同じだ」


 「だから、PKに対する恐怖心があって、おかしくないと思う。私だって怖いし…ペナルティはやだし。リアルのプレイヤーは、リアルで人を殺すことと変わらない行為を、このゲームで出来る。戦争でないところでも」


 「戦争となれば、相手国のプレイヤーを倒したところで何ら問題はない。しかし、中には同国のプレイヤーを倒す人もいる、ということだ」



 このゲームは当然、プレイヤーがあらゆる面を操作する。今日の運営開始で、プレイヤーが何人にまでなったのかは分からないが、明らかに大規模なゲームになるのは見えてる。大勢のプレイヤーがいるなら、そういう奴がいてもおかしくはないって、ことだよな。

 俺が前にやっていたゲームでも、PKは普通に行われていた。ただ、PKをしたキャラクターはいつしか犯罪者リストに掲載され、たとえば賞金首にさせられたり、自由警察組織の的になったりしてた。この世界ではどのように処理されるのか、まだ分からない。


 「ならば、なおのこと、自分の身は自分で守れる手段を整える必要がある。宇宙を舞台にしたゲームなら、武器も相応のものになるだろう」


 「武器かーそういえば、考えたことがなかったな。二人とも持ってるの?」


 二人は口をそろえて、ないと言った。何か物を買うときには、ゲーム権利値をあげている必要がある。これは勝手に上昇していくものではなく、ゲームをプレイしてあらゆることをしていかなきゃ、あがるものじゃない。俺はまだ2しかない。武器を買うにも恐らく、ある一定のゲームプレイが必要なんだろう。


 …だとすれば、効率よく、時間長くプレイしている人は、権利を高く所持している。武器や防具なども揃えるのが早いってことになる。この世界には、たとえば技を発動するようなスキルはないから、地道にレベルを上げて能力値を高くしていかなきゃならない。もちろん低い能力値を助けるための装備は沢山あるらしいが、すぐに手には入らないだろうからな。


 自分の身は自分で守る、か…確かに必要なことだ。




 「まぁ、でもさ!一様殺されても生き返りはするんだから、そこは安心だよね!…あ、着いたみたいだよ」


 にこっと笑ったチェーンがそう言うと、車両の大きなドアが開き、俺たちは車外へ出た。約2時間の仕事だったが、有意義なものだった。一回にかかる時間は多いかもしれないが、それでも楽しい。楽しいと思えばこそ、また次がある。なんて考えてる俺。でも事実だからな。

 その後、俺たちはオフィスに戻った。他愛ない話をしながら。それもなんだか有意義に思えた。ゲームでのことを沢山話せて、何かしらの影響を受けた。


 「商会以外にも、自由な組織は幾つもある。掲示板をあたってみると良い。俺たちゼウ商会は、自由組織の依頼を強制したりはしてない」


 「自由組織か。金稼ぎにはその依頼をこなすというのも、ありなのか」

 「ただ、どんな仕事かは日によって変わるし、危険が伴う可能性もある。俺たちゼウ商会の仕事も、そうだがな」



 ここに来るまでの話で、どの商会にも言えたことだが、万が一の対応が出来る準備を整える必要があることを、俺は理解した。ただ自分の身を守るだけではなく、オフィスや輸送路の把握などもする必要がある。エコーズの話では、このゲームの商会に入ったからといって、商会だけに時間を費やす必要はない、ということだ。特に最初は色々な街の姿、人の動きを見てほしいって、言ってた。エコーズ本人は、どう思っているんだろうか。

 彼も、プレイヤーだ。



 「お疲れ様。あっちから無事に製造に入ったと、連絡があった。どうだ、うちの仕事は」


 「もっと、色々経験してみたいですね」

 「そう言ってもらえると、ありがたいもんだよ」


 オフィスに戻り、依頼が無事完了したことを幹事長であるゼウ本人に伝えた。ゼウも直接仕事に参加する時もあるが、普段は依頼情報や商会同士でのやり取りに専念している。エナは情報収集などの担当なので、あまり数多く仕事をこなす機会はないらしい。となれば、俺やエコーズといったメンバーが主力になっていく可能性がある。


 「ついでもう一つ頼みたいんだが、いいか?アレン」

 「はい。受けますよ!」



 俺がそういうと、少し笑みを浮かべて、引き出しの中から封筒一枚を取り出した。そして、中身を確認してから、俺に渡す。


 「そいつを、この下町の北側にある運輸統計局のハリーって奴に渡してきてくれ。それが終わればとりあえず今日はおしまいだ。…あぁ、それからさっきはすまんな。実は依頼は基本承諾形式で受けることが出来る。が、商会に入ったら、最初の依頼は絶対強制なんだ。言うのを、忘れてた」


 ははは、なんて後から笑い出すゼウを見て、俺も何だか妙な安心感を得た。その封筒をもらって、俺は事務所を後にする。一日で二つ、この短時間で仕事が出来て、おかげでお金もほんの少し溜まった。リアルの時間は…22時か。まだ余裕はあるな。明日は日曜日…特に用事もない、このまま夜更かししても良いくらいだ。

 …北側、歩いてきたは良いが、この街は本当に廃れた感が否めない。上を見れば、まるで天空まで届くかのようなビルが見える。遥か彼方の、まるで同じコロッセオとは思えない街の光景だ。良いように言えば、少し味のある街なのかもしれんな。

 今日俺に話しかけてきた、あの何とか商会は…上層の奴らなのかな。


 「おぉ、ゼウからか。ありがとう、わざわざ代理で持ってきてもらって」

 「いいえ、どうぞまたご利用下さい」

 「ゼウは仕事は的確だが中々自分自身の足は使わないからなー…それでも周りからの信頼が厚いから、羨ましいもんだよ」


 なんて、少しだけハリーさんと話をして、俺は運輸統計局を後にした。ここはこの地区の物資流通の状況などを確かめたり、輸送路を管理したりしているそうだな。こういう、ゲームとしての機能を担う役所みたいなのは、恐らくプレイヤーは入らないんだろうな。

 さて、今日はゼウ商会の活動が終わった訳だし、何をしようかな…。



 「んー…」


 さっきエコーズが言ってた、自由組織の依頼ってのも、気になるな。この街にあるかどうかは分からんが…ちょっと探してみるか。


 「あ」


 おっと、その前に見つけてしまった、あの石碑。ラッキー!街の北側はまだプレイヤーがあまり来てないと見た!…というか、初日でこんな下層に来る人、いるんだろうか。


 『未公開のセーブポイントを発見しました!-セーブポイント発見ボーナス:耐久度の高いスポーツシューズ×1-』



 …もっと、良い名前あるだろ、普通。

俺は今バッグを持っているが、この世界の優しいところは、アイテム入手をした時、自分で所有するか、Web倉庫という機能を使って保管しておくか、を選択できるとこだ、と俺は思う。バッグの中に入り切るものであれば、いくらでも持っていられるけど、そうもいかない。そんな時、この倉庫の役割はとってもありがたい。だけど…これ、いつでも保管を選択できる割には、いつでも倉庫から取り出せないんだな。ある場所へ行けば引き出せるのか、まだゲーム権利とやらが足りないのかどうなのか…まぁ、とりあえずいいか。



 「んー、これか…」



 こんな夜遅くだからだろうか、そしてこの街だからだろうか。殆ど人はいない。だが、自由組織の掲示版を見つけることが出来た。システムと掲示板を連動させることで、システム内部の依頼ページに詳細を表示することが出来るみたいだ。もちろん、掲示板を直で見て確認することも出来る。てか出来なきゃまずい。こんな時間だからそうだな…簡単に終わるものがいいな。


 『機械が止まった!修理求む!-ロックウェル第二工場』

 『明日出荷分の食糧パン製造が間に合わないかも…。-フィレパン工房』

 『車のエンジン部品補給求む…停車中につき、連絡求みます。-グルコス(依頼主)』

 『マスドライバーへの貨物輸送補助。-共和国宇宙航空局』

 『下町郊外の廃棄物撤去をお願いします!-クェン集積所』



 なーるほど…商会以外の仕事は基本誰でも出来そう…?でもこのマスドライバーの仕事は本格的な気がするが、こんな掲示板で人募集して良いんだろうか。というか、マスドライバーって?よく知らない俺は工具を思い出したのである。でもなんとなく、SFっぽい名前だ。

 あまり時間のかからないもの、か…そうだな、一番下のゴミ撤去をやってみようか。詳細を見た感じ、不法投棄を集積所に集めてリサイクルしちゃおうって感じの話で、どうやら回収に人手が足りないようだ。早速この依頼をページに追加して…。

 この依頼システム、というか掲示板も優れてるな。掲示板の依頼は二種類あって、一つは急を要するもの、もう一つは短期の時間指定があるものって感じだ。俺が引き受けた依頼は、急を要するもの。つまり、ここ数時間内ってことだ。

 という訳で、実際に依頼会社のところまでやってきて、担当の人たちと一緒に街の郊外へ出た。



 「おー…綺麗だ」

 「そうだろう?お前さんも、いつかはあの星へ行けるかもしれないんだ」


 街の最下層から、郊外へと入って行く。街並みが少しばかり遠くなるが、それでもコロッセオの規模が大きいことに変わりはない。見りゃ一発で分かる。郊外に出ると、街の明かりも届きにくくなり、空には一面の星々が浮かんでいる。

 あの光景を思い出した。地球へ降下する時の、地球の姿。あんな綺麗な光景を見てしまえば、もう一度見てみたいと、思う。今はまだ届かない。金もない。だけど、必ず…。


 「星には未知なる物語があるってもんさ。誰にでもそれを読む権利がある。追い求めるもよし、語りを聞くのもよし」



 廃棄物の量は多かったし、何せ機械類の廃棄物なもんだから、担当の人から静電気除去手袋を借りて作業に当たった。重たいものが沢山あったが、1時間程度ですべて片付けた。だが、実際には廃棄物はこれ以外にも大量にあって、この集積所の仕事は決して絶えることがない、という。


 「ありがとよ、手伝ってくれて。良かったら、また来てくれや。報酬はシステムから確認しといてな」



 『依頼を完了しました!-報酬:2.200コロン、静電気除去手袋』



 下町の地味な仕事。だけど、そんな暗い街の中で始まった、俺のゲーム生活。悪くはない。むしろ、こんなんでも全然良い。楽しめる。目標があるのだから!



 こんな感じに、一日目が終わって、そして今後数日間も依頼をこなしていくことになる。




 Space Fantasy Game

 ―1日の、終わり―




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