第10話
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あー、眠い。学校ある日に夜更かしするんじゃなかったな。
頭の中でそう言葉を並べて勝手に言っただけだが、今日は水曜日。あのゲームが運営を開始してから、5日目となる。土曜から毎日ログインしては、依頼をこなしてお金を貯め続けている、そんな生活だ。土日休みは全く問題なく長時間プレイが出来たが、学校帰りにログインしてゲームをすると、流石に疲れも増す。
昨日の話だが、こんなことがあった。
「よーし、いったんオフィスに戻るかー…って、ん?なんだ?」
突然、システムからまるで警告音のようなものが発せられた。結構大きな音だし、俺が意図しないところで勝手に開いたもんだから、流石にその場で驚いた。この音、周りに聞こえていたのかな。
よく確認してみれば、それはシステムの接続ページから、危険度表示タブが開いている。赤枠で囲まれたメッセージには、注意と書かれている。
『注意!中度の頭痛が発生していると思われます。このままゲームプレイを続行されますと、身体の安全上から、強制終了コールがされる場合があります!こまめにセーブをしておきましょう』
いやぁ、あの時は驚いたが今思えばすごい機能だ。それを見て俺は早めにログアウトしたんだが…ホントに疲れからなのか、頭痛が起きていてまた驚いた。凄く優秀な機能だ…というか、便利だなーって、思ったもんだよ。
「おいす零治!…おー?なんか今日眠そうにしてるな!らしくない~」
「なんでらしくないんだー…???」
ただ疑問でしかなかった。そりゃそうだろ!俺いつもシャキッとしてたかな。俺とテツが話していた時に、俺のすぐ近くに席がある、永倉さんがやってきた。彼女には、寝不足なんて言葉は無縁なんだろうな、きっと。話によると、ここからそう遠くない場所に住んでるんだとか。
「相坂君眠そうだね、今日」
「皆から言われるよ、ははは」
「でもたまにはあるよねっ」
そう言って笑みを浮かべれば、椅子に座って1限目の教科書とルーズリーフを取り出し、机の中に入れた…っぽい。
「そういや零治、お前SFG買ったか!?パソゲーするお前だったら見逃しはしないだろう?」
そういえば、テツが初めてSFGの話を持ってきたのは、この時だった。5日経過してるけど、ゲーム界では毎日のように話題が持ち上がるSFGだ。高校生の間でも人気だから、テツも知ってたんだろう。テツは、俺が何度か家に入れた時に、俺がパソコンのゲームをしてるってことを、知ってる。そばにいた永倉さんには、初めて知られたのだが。
「あぁ、やってるよ。あれ買ったおかげで、来月までは余裕なしだ」
「やってるか!おぉー俺もだやってるぞ!どっちの陣営だ!?」
「え、テツやってるのか!」
永倉さんも話は聞いていたようだが、まずSFGという単語が出た時点ではてなを浮かべるような表情をしてたから、この話は全く分からないだろう。今初めて知った。テツもプレイしているとは…良いな!
俺は共和国であることをテツに告げると、テツはめっちゃ喜んだ。あいつも共和国を選んだらしい。だが残念なことに、初回の中立都市がコロッセオではなく、テツは何でもキャンベルリバーってところだとか。あれって、確か北米の…。
「なんだよー残念だなー!でもフレンド登録は出来るし、中立都市なら安い値段で移動が出来るな!今度一緒になんかやろうぜ!」
「もちろんだ!」
「なんだか、楽しそうなお話だね。ゲームかな?」
俺とテツが、同時に頷く。それを見た永倉さんは笑った。永倉さんも新しいゲームが出たという話は聞いていたそうだが、SFGの存在はここでハッキリと知ったそうだ。
「どうだい、ぜひ永倉さんも俺と一緒に、プレイしないかいー!?」
「やめとくよー、高いしちょっと勇気もいるしっ」
さらっとテツは永倉さんを誘ったが、さらっと断られ、テツは悔しい顔をした。それを見た俺ら二人は、テツに笑ったんだ。ここでハッキリと彼女には伝わった。今後寝不足があるようだったら、それはSFGをプレイしているせいだ、と。
「それに、原田君良いのかな?この間の抜き打ちテストっ」
「あーややややや聞きたくない言うなー」
あぁ、永倉さんにも、こう一面があるんだな。って、何考えてるんだろ。
それからの話だったが、とりあえず発売から一週間が経過し、SFGは特に大きな問題はあがっていなかった。致命的なバグが発生したり発見されたりするという話は無く、出だし順調というところだろうな。
8日目のことだった。なんとテツが有り金、コロンの4分の1を使って、コロッセオまで来てくれた。よくまぁそんなことしたもんだ…なんてったって、ゲーム内通貨は大切な資金だ。何かをするには、コロンとゲーム権利が必要だ。テツは移動に必要な資金とは別に、俺と同じように自由組織から依頼を幾つもこなして、資金を集めていたみたいだ。
「いやー、コンコルドみたいに速かったぜ。乗り心地もそこそこ、お金もあんまかかんなかったしな!」
「テツは、これからもコロッセオにいる?」
「あぁそのつもりだぜい。フレンドが近くにいるとやっぱ楽しいからな、ゲームは!」
現実でも俺はテツと呼んでいるが、この世界でも同じように呼んでいる。あいつがキャラクターネームをテツにしているから、呼び名を変える必要がない。対するテツは、俺と二人でいるときは零治と呼び、そうでない時はアレンと呼ぶ、と自ら言ってきた。レイジ、というキャラもいそうだなーって、今更ながら思った。
一瞬、テツをゼウ商会へ招待しようかと考えた。だけどそこで思いとどまった。テツはキャンベルリバーで商会の勧誘を受けたらしいが、どこにも入らなかったらしい。ソロプレイの気質があるんだったら、無理やり引き込むこともない。俺自体、勧誘は苦手で。
その日は一緒に自由組織のクエストをやろう、と約束していた。俺が商会の任務を終わらせて、待ち合わせ場所にやってきた時には、既にテツが待っていた。そして、今掲示板の前にいる。
「にしてもなんだな、こっちの中立都市はめちゃ広いな」
「キャンベルリバーってとこは、どうだったの?」
「とにかく雪雪雪!綺麗ではあるが、ここまで大きい街ではなかったぜ。さて、どいつを片付けるか?」
中立都市で気候も変わってくるんだな。まぁ、実際の地球を真似て表現しているんだから、これだけ距離が離れていると多少は変わってくるか。
俺たちは掲示板を見た。相変わらず夜の掲示板で辺りに人はいないため、依頼は溜まってる。あ、あの集積所の廃棄物撤去、今日もあるんだな。
「おい零治、これ見ろよ」
「うん…ん、なんだろ、この星マーク」
掲示板にあった依頼の一覧で、一際目立つものがある。依頼の名前の横にマークがあって、その依頼のとこだけ他とは違う色で表示されてる。
『★ 射撃訓練場でのお仕事色々。-トライアル協会』
『注意!この依頼は限定イベント依頼です。一度だけ依頼を受けることが出来ます』
…という、詳細表示。しかも、これ時間がわずかに1時間だ。今は22時だから、30分前には表示されてたんだな。22時30分を過ぎれば、この依頼は消えてしまうのか。
「イベント依頼か。零治、これを逃す手はないぞ!」
「だね。やってみよう!」
なんとなく、推測でしかないんだが、恐らくこういったイベント的な依頼はどこの掲示板にもあるだろう。種類は違うだろうけど。だが普通のと違うのは、有効時間があまりに短いものだ。もしかしたら、出現頻度もかなり低いのかもしれない。この一週間掲示板を見続けて、初めて見たからな、これ。
という訳で、俺たちはトライアル協会の保有する射撃訓練場に来た。
「お待ちしておりました。アレン様、テツ様。射撃訓練場へようこそ」
おー…音が聞こえる。実弾っぽい音と…少し高めの実弾とは思えない音がするな。射撃訓練場だ、恐らく訓練しているんだろう。NPCに案内された俺たちは、訓練場の裏手に回り、大量の段ボールが積まれた部屋へ案内された。この部屋、本来何に使う予定だったんだ?
NPCが箱を一つ下すと、そこには大量の黒光る物が入っていた。
「…これは…!!」
「拳銃…!?」
「はい。射撃訓練場では、こうやって週に何回か、弾薬の入っていない空の拳銃が入ってきます。ここで弾薬…いえ、エネルギーパックをすべて入れるのが、今回お願いする仕事です。いつもは人には頼まないんですよね。この仕事…プレイヤーは一回しか出来ませんし、プレイヤーにとって損なことばかりなので」
…すごい。このNPC、プレイヤーのために仕事の気配りをしている。どのように損するのかは、その場では聞かなかった。とにかくも、俺たちはNPCの指導のもと、恐らく数えれば200にはなるだろう段ボールの山を片すことにした。仕事自体は簡単だ。空の拳銃にエネルギーパックを入れるだけ。
「拳銃にはセーフティーロックというものがあります。その固く小さなハンマーが下に降りていれば、エネルギーパックが装着されていても、作動することはありません」
「んじゃ、これを上にあげりゃ撃てるってわけか」
「その通りです。今の貴方たちでも、簡単に扱えます。ただ、その服装でこのブラスターの弾を受ければ、一発で瀕死か、あるいは死亡となります」
「なーるほどな。こいつを扱うやつは防具もそれなりに整えてるってわけか」
結構、良いこと聞いたかもしれない。俺はあまり話さなかったが、テツがいろいろと聞いてくれるおかげで、俺の耳にも話が入ってくる。少なくとも、このブラスターという拳銃を持っていれば、護身用として役に立つだろう。
自分の身は自分で守る。銃社会の鉄則だ。この世界でも言えることだろう。結局、この段ボールすべてを片付けるのに、1時間30分ほどかかった。あの依頼欄に書かれていた時間は、受付時間だったのか…。
「今日はありがとうございました。うちの運営者も喜ぶと思います。貴方たちがここで仕事をする機会はもう無いかと思いますが、今度はぜひここへ訓練しにいらして下さいね。報酬は、この建物を出たらシステムにお渡しします」
というわけで、俺たちは初めての共同作業を終わらせた。そんなに難しい仕事ではなく、テツと話しながら作業をしてたから、時間は短く感じた。リア友とやる作業も楽しい。俺たちは外に出て、システムをお互いに確認した。そういえば、初回ログインの中立都市が違うせいか、テツのシステムの形は俺とは違う。
『限定依頼を完了しました!-報酬:初期装備ブラスター×1 ※弾薬無』
「さっきのブラスターじゃないか!?これ!」
「本当だ…やったな」
流石に俺もびっくりした。まさかイベント報酬が武器だとは思わなかった。そしてこのイベント依頼…ゲーム権利値がめっちゃもらえる。この一週間で俺は1から5まで上げた訳だが、この依頼で6.5まで上がった。限定イベントとはこういうものか。
それでもまぁ…イベントクリアで自衛手段が手に入ったのは、運が良かったかもしれない。あの人の言う通り、普段人に頼むことをしないのなら、ブラスターは皆自分で権利値をあげて買うしかない。だが報酬となれば、所持が認められる、はず。
「今日は、中々いい仕事したな!…おっと、リアルはもう0時過ぎたか。零治、そろそろ落ちようぜ」
「そうだな。今日も結構活動したし…あ、ちょうどセーブポイントがあるから、記録しておこう。ありがとう、テツ」
「いやいや!俺の方こそありがとな。またやろうぜ!」
こうして、俺たちは依頼を完了させたのち、ログアウトした。ブラスターは、次の機会に試そう。俺たちの、SFG生活は、まだ始まったばかりだ。焦ることはないさ。
「…?」
ん?
いや、気のせいか。
Space Fantasy Game
―リア友と、共同作業―




