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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第五章 色を失くした眼
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第78話




 …その時が来るまでは、まだ…。




 惑星ドーミアでの再会。それはかつての仲間が敵同士で再び会うという、戦場でどれほどの皮肉が込められたものであっただろうか。前に、共和国軍は味方であったNPC兵士たちが武装蜂起して、自分たちの主張を戦うと言う形で示されたことがある。その時と同じような気持ちを受けつつも、彼にはそれ以上に衝撃的であった。NPCであるということ以上に、自分と親しく一緒に仕事をしていた仲間であったから。そして、その仲間が自分が知っている時の姿とは到底思えなかったこともある。彼は、何とかして彼女を救い出したかった。恐らく今の彼女は自分のことをほぼ忘れているだろう。そう思うことさえ彼には辛いことではあったが、いつまでも戦場に居続けさせる訳にはいかない。そうしている時、ドーミア星の中でも巨大なレーダー基地に、彼女が撤退した可能性があるという情報を手にした。それだけではない。ドーミアを死守するためにレーダー基地を最前線とし、反抗作戦を展開する可能性さえ上層部では考えられた。

 ダイス長官からの指示。政府からの圧力ではあったが、彼はそれを機にレーダー基地に帝国市民としての偽装を施し、潜入することとなった。



 「…」



 途中まで車の移動が無ければ、かなりの時間を使っただろうな。それに…。



 都市を離れる市民たちの支援に、軍の関係者も集まった。当然郊外に待機し、共和国軍に見つからないように配慮していたが、アレンは偶然にもそれに遭遇した。黒のローブを身にまとい、荷物を持ち、ケーンバークが作成してくれた偽の帝国市民証を持って、車両へと入る。極寒の大陸へ向かっていき、時間は流れる。途中幾度もの休憩を挟んで、目的地へと向かう。こうしている間にも、共和国軍の作戦実行の時間は迫っている。もしかしたら、チェーンがあの基地にはもういないかもしれない。早く進みたいという気持ちが前面に出るが、それを行動に移す訳にはいかなかった。



 「あまり猶予はないが…それでも、やってくれると俺は信じる」

 「そうですね。彼なら、なんとか…」



 軍内部の目的とは別に、彼自身の役目を果たさせるために見送ったサイクスであったが、あのように言ったとしても、心の奥底でずっと残り続ける妙な不安というものは消しきれそうになかった。ケーンバークも同様に、何か良くないことが再び起こるのではないか、と危惧したが、今は彼の動向を見守ることくらいしか出来なかった。すぐにも、共和国軍の作戦のため、軍内部の準備が行われる。今回は戦闘指揮がいない。フューリーが先頭となり、レーダー基地の対外武装を排除することになる。態々生産基地の作戦にいたフューリーを呼び戻したのも、アレンがいない時のためである。陸戦部隊も同時に投入される。極寒の地にある高性能レーダー基地。帝国軍からの増援が来る前に、奪取しなくてはならない。多くの情報が筒抜けになっているだろう今、猶予はそう無かった。

 大型アップデートが実行され、新しい機能が次々と登場する。中でも、このゲームの本質と言える戦争を、更なるゲーム感覚のように楽しめる新モードは、初日から多くの人で賑わった。しかし、その裏で物語として戦争を続ける者たちがいることを、忘れてはならなかった。



 「あ、すみません。セーブポイントを探しているんですが…」



 一方。アレンは無事に基地へ到着し、帝国市民たちとはじめは行動を共にしていた。しかし、基地内部である程度自由が許されると、早速潜入任務を開始する。危険と隣り合わせであるこの任務だが、これからやってくる共和国軍の攻撃のためには、どうしても情報が必要であった。



 「あー、えっと突き当りを左に進んで、3本目の十字路を右に行けば、小広間に出る。その近くにあるはずだ」


 「なるほど、どうもです」

 「なんか…お前の顔、どっかで見たことあるんだよな…?」



 アレンの動きが一瞬だけ止まる。ただセーブポイントを探すという嘘を話すためのだけに兵士と会話したが、まさかそのようなことを言われるとは思ってもいなかった。背筋が凍り、どこか気持ちの悪い汗をかく。自分が帝国軍にとって脅威な存在であること、そんな男が潜入任務をしているなどと、帝国軍兵士が思うはずもない。



 「気のせいか。すまんな、止めて」



 とはいえ、自分は帝国の市民ではなく、共和国の兵士である。既に名前も知れ顔も分かっているだろうから、油断は禁物であるということを再認識させられた。彼は顔に多少の細工をして、更に黒いローブを身にまとっているから、それらでカムフラージュは出来ている。とはいえ、それを見抜く人だって中に入るかもしれない。

 小広間…と言われたが、アレンはそこへは行かなかった。十字路で無数の部屋を探索する。が、ほぼすべてのドアに鍵がかけられているため、正面からでは入ることが出来ない。



 「…ゲームだが、お手洗いまで設計しているとはな」



 彼は、男性用のトイレの中へ入り、その中を少し見回す。そこに通風口らしきものを発見すると、すぐに彼は鉄格子を取り外し、慎重にやや広い中へと入って行く。トイレの中に入ったところは誰にも見られておらず、ここに入ったという形跡も残してはならない。極力音を立てずに、ゆっくりと真っ暗闇の中を進んでいく。腕時計のわずかな光を頼りに進むが、途中何度も交差点に出会う。が、とりあえずは近くの部屋に通じているであろう鉄格子を再び開け、誰もいないことを確認してからゆっくりと下りた。この基地内部は部屋の名前が書かれていないようなものばかりである。ここも恐らく同様だろう。ただの小さな部屋のようだが、誰かが使った形跡は残っている。勤務のための部屋なのか、それともログアウト出来るようなセーブポイントつきの休憩室なのか、よく分からなかった。



 「ん…」



 しかし、デスクのうえに置いてあったキーパッドは、恐らく他の部屋へアクセスするためのものだろう、と彼は直感が働いた。ここにいる人がプレイヤーで、今はログインしていないのであれば、都合がいい。NPCであれば、既にこの基地内部のどこかにはいるだろう。いずれにせよ、事は早めに済ませた方が良い。彼が通風口から通ってきた経路をしっかりと覚え、そのキーパッドとカードキーを盗み出し、再び通用口の中へと入る。大佐からの任を受けなければ、ここでこんなことはしなかっただろう、と彼は溜息を心の中で吐き出す。再びゆっくりと中を進んでいくが、その時だった。

 近くで声がする。彼は出来るだけ近くまで行き、その会話を聞こうとした。



 「なして援軍は来ないんだ?」

 「さあな。俺たちプレイヤーは良いんだが、NPCの連中はどう思うだろうな」

 「くそう…フェデラル司令官は何と言うかな」



 …援軍が来ない。ということは、現状の戦力で何とかしろ、ということか。この星には高性能なレーダー基地がいまだ残り続けているというのに、それを死守するつもりは無いようだな…。


 彼はネクタイピンに付属した録画機能をオンにし、その会話を映像で司令部へ送る。たとえ些細な情報であっても、それが戦力分析のための重要なものになる可能性もある。見逃す訳にはいかなかった。



 「回廊で戦ったゾレル艦隊はどうしたんだ」


 「共和国の連中がどこを目指してるかは分からんが、帝国の中枢を押さえようっていうなら、やっぱエルミアは押さえないとな。既に荒れた海に向かってるって話だぜ。迎え撃つためにな」


 「あの雲海で戦闘しようって!?中々無茶言うもんだゾレル司令も…」


 「他のNPCたちとは豪い違いだ」



 それが比喩による表現なのか、あるいは本当に雲海なのかは分からない。だが、とにかくもここで彼は一つの疑問を取り払った。回廊の戦いで遭遇した相手がフェデラル率いる艦隊ではなく、ゾレルという男が率いる艦隊であったこと。そして、その艦隊が再び共和国軍と対戦するために、既に準備を始めているということを。


 そして、あの司令官もまた、強敵であり、NPCであるということを。



 会話が途切れる気配はなく、彼はある程度の情報を得られたところで別のところへ移動をし始める。いまだにここにいることが誰にも気付かれていない。この狭い道なき道を確認する人がいるだろうか、と疑問に思いつつも、奥へと進んでいく。別の部屋では、基地内部のデータが収録された古びたフロッピーディスクのようなものを手に入れ、更に基地内部の位置情報なども把握し、転送した。



 「避難民がいる位置と施設とは、離れているか…」



 それだけが分かれば、市民を巻き添えにした攻撃作戦を行わずに済む。正確な射撃が出来るかどうかは別にして、避難している市民をターゲットにする必要が無くなるからだ。基地内部があまりに広すぎるため、アレンはそこで今日の偵察は終了にし、再び翌日に備えることにした。



 「あんた、見かけない顔だね。どこから来たんだ」

 「前はエルミアにいました。たまたま仕事を運んでいたら、こんな目に」



 もちろんそれがアレンの嘘であることを、今目の前で話している帝国市民は知らない。集団で生活しながら寝泊まりをするという窮屈な生活、ゲームの中でもまるで現実世界で幽閉されたかのような扱いを受ける。それはそれで貴重であったかもしれないが、自分たちの行いのせいでこうなっているのを実感すると、新鮮味も沸いた。



 「全くだよ。あんたの他にも、商売あがったりだろうさ」

 「残念です。帝国軍はとても強いイメージがあるだけに」

 「強いさ。だがそれは、上の指揮してる人に限るんだろうけどね」



 アレンにとっては、既に幾度も戦っている帝国軍だが、その指揮と戦闘能力に驚かされることは多々ある。特に回廊の戦いで遭遇したゾレル艦隊や、黒い機体に赤のコックピットを操るギニアス大佐などは、その一例である。帝国市民を装いながらあらゆる情報を、市民から聞いているアレン。そこに、気になる情報が入ってくる。



 「指揮官と言えば…上層部しか知らない、統帥権を持った人がいるという噂もある」


 「統帥権?」


 「まぁ、恐らくは国家の重鎮中の重鎮。なんでも意のままに出来るって感じだ」



 …気になるな。この基地でその情報は探れるだろうか。しかし、市民でさえ知らない存在か…ギニアスとかゾレルとか、あの辺りは戦闘でも活躍しているだろうから、知っている人は多いだろう。誰の事だ…?今まで会った奴なのか、それとも…。


 …チェーンのことといい、帝国軍上層部というのは一体…。




 アレンが気にしていた、帝国軍の内情というものに、若干触れたような気もしていた。まだ彼には確認したいこと、確認できていないことがある。そして何より、自分が助けたいと思う存在に、まだ遭遇していない。

 時間は、無限にある訳ではない。



 Space Fantasy Game

 第78話 ―内々の、事情―




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