円徳寺 ラナ 40
リュウではなく、何故、ルリを刺そうとしたのか、どうしても気になって、遠野さんに聞いてみた。
「遠野さんは、その占い師さんの言うことを信じたのよね。……それなら、遠野さんが刺す相手はルリじゃなくて、リュウってことじゃないの? 忘れてしまいたい人を刺すんでしょう?」
遠野さんの瞳が大きく揺れた。
「そうだよね。そう思うよね……。私が忘れてしまいたい相手は先輩で、忘れられなくて苦しんでる……。当然、縁を切ったほうがいいのは先輩。それは頭でよくわかってるんだ。でも、私……その時、迷ったの……」
「迷った……?」
「うん。完全に先輩と縁が切れたら、私は耐えられるのか……って。それよりも、ルリさんを刺して、先輩と私から、ルリさんの縁が切れたらいいのにって……。そうしたら、私はルリさんの替わりじゃなくて、私が先輩の本物になれるかもしれないし。私、ほんと、最低だよね……」
「遠野さん、それは違う。最低なのは、リュウよ……。遠野さんをそこまで追い込んだんだから」
苦し気な遠野さんに、そこだけはしっかりと伝えた。
「円徳寺さんは優しいね……。私は、円徳寺さんに嘘ばかりついてきたのに。それに、妹さんを刺そうとしたんだよ?」
「でも、その占い師さんの言うことを信じるなら、このナイフで刺しても傷つかないんでしょう? だから、遠野さんは実行しようとしたんだよね。それなら、何も悪くないじゃない。私に嘘をついたことも、遠野さんの状況なら仕方がないよ。……それに、私だって、遠野さんに言えないことがあるから」
実際、リュウが私の婚約者であることを、私は、今、遠野さんに言えないでいる。
こんなに苦しんでいる遠野さんに、更にショックを与えてしまうかもしれないと思うと、どうしても、告げることができない。
本当は、はっきり告げたほうがいいと思うけれど……。
「ありがとう……。円徳寺さん」
ぽつりとそう言うと、遠野さんは、また、話を始めた。
「占い師の人はね、そんな私の様子を見て、私が考えていることを全て見透かしたように言ったんだ。『それなら、その短剣に任せなさい。つまり、あなたの思うようにしてみたら良いのです。恋人だった男を刺してもいいし、男が懸想する相手を刺してもいい。さっきも言ったように、この剣は、どうあっても、からまった縁を切ります。剣が持ち手を選ぶから、後は剣にゆだねれば良いのですよ』って……」
「持ち手を選ぶ……?」
ふと、自分の手に、おさまっているナイフに目を落とした。
遠野さんが、そんな私を意味ありげにじっと見た後、言った。
「占い師の人はこうも言ったんだ。『私は今、あなたにこの短剣を渡したのは、短剣があなたを選んだからなんです。だが、この剣をあなたが使うべきでなければ、あなたが刺そうとしても邪魔が入る。そして、他の誰かの手に渡る。からまった縁を切るのに最適な人の手に渡るから、後は、その人に託しなさい』って。……私が刺そうとしたら止められて、今、そのナイフは円徳寺さんの手にある。占い師の人が言った最適な人って、円徳寺さんってことになるのかもね……」
その瞬間、鳥肌がたった。
手にもっているナイフの柄が、私の手のひらに、ぴったりと吸い付いてくるような感じがしたから。




