円徳寺 ラナ 39
「占い?」
と、思わず聞き返してしまった私に、遠野さんはうなずいた。
「そう、占い。ふらついている間に、自然と大学の近くまで来ていたみたいで……。知っている人に会いたくないから、引き返そうと思って裏道に入ったら、占いのお店が目にとまったんだ。不思議なんだけど、見た瞬間、どうしてもそのお店に入らないといけない、そう思ったの」
大学の近くに、占いのお店があったの?
知らなかった。
遠野さんは私の疑問を察したように言った。
「私も、そこに占いのお店があることも、ましてや、そこに裏道があることすら全然知らなかった。……私は吸い込まれるように、お店の中に入った。すると、ベールをかぶった占い師の人がいて、席に座らされた。……それで、座った瞬間、その占い師の人はベール越しに私の顔を見て言ったんだ。『手放すべき腐った縁をつかんだままでは、あなた自身も腐っていきますよ』って……」
え? なに、それ……。
占いをしてもらったことがないから、よくわからないけれど、そんなことを言われるの?
なんか怖いな……。
「私はものすごく驚いてしまって……。気が付いたら、先輩のことも、ルリさんのことも全部しゃべってた。洗いざらい、心に秘めていた汚い思いをなにもかも吐き出したんだ……。そして、私は藁にも縋る思いで、占い師の人にお願いした。こんな苦しさからぬけだしたい。助けてって。そうしたら、その占い師の人が、『わかりました。手段を問わないのなら、力になりましょう』って、言ってくれたの……」
手段を問わないって、何?
占い師さんがそんなことを言う?
得体のしれない不気味さに、体がぞくっとした。
が、怖くても全部聞かないといけない。
「それで? その占い師さんは何をしたの?」
私は遠野さんに先を促した。
「『あなたには、これを貸してあげます』そう言って、ナイフを差し出してきた。……そう、そのナイフのことだよ」
私が片手でにぎりしめているナイフを、遠野さんがちらっと見て言った。
「なんで……?」
混乱した私に、遠野さんが言った。
「私もナイフを差し出された時は驚いたけれど、そのナイフ、中世の貴族が特別に作らせた特種なナイフなんだって。刺しても刃がひっこむから相手は傷つかないの」
「え……?」
私は、改めて手に持っているナイフを見た。
小ぶりで華奢だけれど、ずっしりと重く、持ち手には、とても精巧な模様が入っている。
しかも、紫色の小さな宝石のような飾りが入っていて、すごくきれい。
見ていると、魅入られそうになる。
素人目に見ても、価値があるように思う。
そんな物を、見ず知らずのお客さんに普通は貸したりしないよね……?
その占い師さん、怪しすぎる。
が、とにかく疑問点はあとで聞くとして、まずは、話の続きを聞こう。
「それで、占い師さんはこのナイフを遠野さんに貸して、どうするように言ったの?」
「『これで腐った縁を切りなさい』って、言ったんだ。私は、意味がわからなくて、どうやればいいのか聞き返した。そうしたら、占い師の人は言ったの。『この小型の剣には特別な術がかかってます。人は切れなくても、からまった縁は切れます。あなたが、忘れてしまいたい人を刺しなさい。刃はひっこむので相手を傷つけることはありません。だから、迷うことなく、思いきって刺すのです』って、言われた……」
え……? ちょっと待って……。
色々わからないことばかりで、頭がぐちゃぐちゃになってきた。
そもそも、現実に、そんな術がかかったナイフが存在するわけがない。
ファンタジーのお話の中にいるわけでもあるまいし……。
でも、あり得ないけれど……、もしも……、本当に、もしも、このナイフで、そんなことが可能なのだとしたら……。
遠野さんの場合、リュウを刺せばいいってことよね?
なんで、ルリを刺そうとしたの?




