ラナから花へ 27
電話にでたとたん、スピーカーから、お母様の叫ぶような声が聞こえてきた。
「ラナ! あなた、今、どこにいるの!? なんですぐに電話にでないの!?
ルリがこんなに大変なことになってるのに、付き添わないで、なにしてるのよ!
まさか、のんきに大学に行ってるんじゃないでしょうね!? お父様が行っていいと言ったらしいけれど、そんな場合じゃないことくらいわかってるでしょう!?
ラナ、あなた、一体、どういうつもりなの!? 今すぐ、病院に来なさい!
……ちょっと、ラナ! 聞いてるの、ラナ!? 返事をしなさい、ラナ!」
お母様の怒りに満ちた声が、「ラナ」と連呼しながら、私の心にずかずかとはいりこんできた。
私の心を踏みつけながら、ラナを捕まえようと暴れまわる、お母様の声……。
気が付けば、勝手に体が震えだしていた。
何か言わなきゃと、と思っても、のどがつまって、声がでてこない。
怒るお母様を前にしたら、ただ怯えるしかなかった、小さなラナに戻りそうになってしまう。
その時だ。
背中にあたたかいものがあたった。
手……?
ふと、横を見ると、にっこり微笑む春さん。
春さんが手をのばし、私の背中をしっかりと支えてくれていた。
あたたかい……。
そえられた手から、あたたかいものが、ふるえる体に流れ込んでくる。
すると、反対側から、今度は、森野君がささやいてきた。
「花……。花は、もうラナじゃない。花なんだ」
森野君のあたたかい声がしみこんできて、私の心を荒らしていた、お母様の声をかき消していく。
あ、そうか……。私は、花なんだ……。
お母様に認めてもらえるように、言うことを聞く必要なんてないんだ……。
それに、私は、もうひとりぼっちじゃない。
今だって、外側からは春さんの手が、内側からは森野君の声が、私のお母様を恐れる気持ちを消していってくれている。
私には、こんなに心強い味方がふたりもいる。
そう思ったら、完全に体の震えがとまった。
私は大きくひとつ呼吸をしてから、口をひらいた。
「ちゃんと聞いています、お母様……。でも、私は、病院には行けません……。というか、行きません……」
「な……ラナっ……!?」
と言ったまま、黙ってしまったお母様。
今まで、お母様の言うことに、反論したことは一度もなかった私。
驚いているだろう気配が、電話ごしにも伝わってくる。
が、すぐに、
「ラナっ! あなた、自分が何を言っているのか、わかって言っているの!?」
と、怒りのあまり、更に興奮したお母様の声が聞こえてきた。
「……はい、わかっています。でも、病院には行きませんし、……私は、もう、お母様の言うことには従いません」
短いけれど、さっきよりは、しっかりとした声がでた。
沈黙のあと、お母様が、いくぶんトーンダウンした声で言った。
「……ああ……なるほど、わかったわ。あなたの気持ちが……。ラナ、あなた、ルリを守れなかった責任を感じて、ルリの顔が見にこれないのね? ラナの役目が果たせなかったから、申し訳なくて、逃げているのよね?
まあ、確かに、その気持ちはわかるわ。ラナとして、一番大事なこと。ルリを守れなかったんだもの。そのためだけに、あなたをひきとって、養女にしたのにね」
「あ……!? 何言ってんだ、こいつ……!」
と、地をはうような低い声で、つぶやいた森野君。
「まだ、だめよ、守。今は、耐えなさい」
森野君にささやくように注意する春さんの声にも、また、怒りがこもっていた。
そんなふたりの声が聞こえていないお母様。私に向かって、今度は、妙に明るい声をだして言った。
「ねえ、ラナ……。あなたに、挽回のチャンスをあげるわ」
「挽回……?」
お母様の言ったことが理解できずに、とっさに聞き返してしまった私。
「そうよ、ラナ。あなたは、当然、ルリを守れなかったことを悔やんでいるわよね。
だから、ラナ。あなたは、ルリの姉として、ルリのためになることをして挽回しなさい。そのためには、ラナにやってもらいたいことがあるのよ。……あなた、ルリから何か聞いていないの? ルリを突き落した女のこと」
え……?
つまり、それは、彼氏をルリに取られた女子生徒のことを言っているのよね?
なんで、私に聞くんだろう……?
時間が戻る前は、お母様にそんなことを一度も聞かれなかったのに……。
とても素敵なレビューをいただき、嬉しくて舞い上がっております!
本当に励まされました!
しまこ様、あたたかいレビューを本当にありがとうございました!!
改めて、活動報告のほうにもお礼を書きたいと思っておりますが、取り急ぎこちらに。




