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もう一度魔王様に会いたい  作者: んまい棒
第一章
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第9話「歴史上の出来事」

「さて、続きを教えてあげよう。残念ながら魔王討伐に関しては専門の歴史書というのはうちには無いんだよね。だけど、学校の図書館にあって、それを読んだこともあるから色々教えてあげられるはずだよ」


 夕食の後、私の部屋でケインとお茶を飲みながら話を聞く。


「では、まずは魔王は本当に死んだのかということについて」


 一番気になるのはこれだ。魔王は死なないと伝えられていたが、そこまで追いつめられることはなかった。それが本当であれば魔王様はまだ生きてはいるのかもしれない。


「魔王の事? 勇者様の事ではなくて?」

「はい、魔王の事です」

「絵本や物語の中では、魔王は倒した、または死んだと語られるけど、専門的な歴史書にはそうは書かれていないね。今では誰もが死んだと思っているだろうけど、歴史書には封印したと書かれている。つまり、実際にはまだ死んでないと言われていた」

「死んで、いない……」


 魔王様は死んでない。封印されているということは、何とかすれば封印を解くこともできるはずだ。つまり、また魔王様に会える……?

 魔王様が眠っている場所はわからないが、もしかしたらという希望が見える。

 しかし、今のケインの口調に少し違和感を覚える。


「魔王は死んでいないと言われていた? というのはどういうことでしょうか」

「単純な話、封印されてから300年も経って復活の兆しがなかったんだ。人類にとってみれば50年も経てばただの歴史になるということだね。封印したのは当時の聖女様だけど、この方も女神様の加護を受けていたらしいから、その封印が強すぎて力尽きたんだじゃないかと思われていたんだ」

「はっきりしませんね。今はどうなんですか?」

「……実は、半年前に女神様から神託を受け取った人がいるんだ。女神様曰く、魔王の封印が解かれようとしていると。魔王復活の兆しありと」

「復活の兆しあり……! 魔王様は生きている……?」


 運命かと思った。魔王様にもう一度会いたいという願いが届いたのかと思った。我々に神を信仰する風習は無かったが、今だけは神がいたのかと思うほどだ。しかし、それを悟られるわけにはいかない。喜びの感情を抑えて話を続ける。


「その神託から国中は騒ぎ出してね。なんせ、300年前のことだから記録にはあっても詳しい事を知る人はいないんだ。当時どうやって倒したのか、何があったのかなんて詳細は誰にも分らないからね」

「それはそうでしょうね。勇者の手記などは残っていないのですか? 書いているような人であればですが」

「いい所に気付くね。実は、王宮で厳重に保管されてはいる。賢者様の生み出した魔法で時間の経過を遅らせているらしくて、状態もいいと聞くね。だけど、それ以上に問題があってね……」

「問題? 厳重に保管され過ぎて誰も手に取れないということですか?」

「いや、魔塔や王宮の司書であれば複製されている物を閲覧できる。なんならうちの学校の図書室にもあるよ。うちの学校は王国の運営だからね。だけど、問題は読めないということだ」

「字が汚いということでしょうか?」

「書かれている字が、この国の言語じゃないんだ。数字は同じものらしくていつから書き始めているかとかはわかるんだけど、その内容がさっぱりでね。ほぼ間違いなく勇者様の世界の文字だと言われているんだ」

「この国の言語ではない……」


 せっかく残っている手記も、読めなければ意味がない。重要な資料だから厳重に保管はされているのかもしれないが、これでは手掛かりにもならないという事か。


「一応これまで研究はされてきてたけど、未だに手掛かり無しだ。他国の言語に明るい学者も招集して解読しようとしているらしいけど、僕が聞いた限り進展はないみたい」

「他の方は残していないのですか?」

「一応賢者様の物はあるけど、内容は全部魔法に関することばかりだね。魔族の使っていた魔法は当時の人達が使った事のないものばかりだったそうだよ」


 当時は魔法というのは高度な技術だったそうで、訓練された人にしかうまく扱えなかったらしい。それも、攻撃魔法ばかり。

 しかし、大鎌達にとって、魔法は生活の一部だった。恐らくそれを見て記録していたのだろう。今では一般魔法と呼ばれており、火をつけたり、洗濯物を乾かす等便利な魔法があるらしい。生活の一部となっているそうだが、そのほとんどは賢者によって確立されたようだ。


「今では当たり前の一般魔法だけど、昔はそんなことに魔力を使うなんて発想はなかったんだよね。だけど、賢者様によって世に広がって、親から教えられるくらいには当たり前のものになってるんだ」

「なるほど……。先ほどの、魔族という呼称は?」

「魔族というのは、魔王のいた土地に住んでいる者達の事だね。これは勇者様が名付けたらしいよ。魔法を巧みに操る種族、もしくは魔王に魅入られた種族を略して魔族。当時は恐るべき人だとか、呪いの種族なんて呼ばれていたみたいだけど、僕らと比べて魔力は強大、寿命も長いということで、別の呼び方がいつの間にか浸透してたんだ」


 中々上手い名付けだと思う。魔力に関してはよくわからないが、寿命は200年くらいだ。人の寿命は今では100年くらいだそうだが、当時は60まで生きていれば長寿と言われていたらしい。


「魔王が封印された後は、魔族はどうなったのでしょうか?」

「勇者様から魔王討伐の報告があった後、魔族の残党を討伐するために軍が派遣されたそうだけど、成果はそこまでだったらしいよ。残党とはいえ、相手は魔族だったからね。被害はむしろ軍のほうが多かったんだ。そういう訳で、魔族は全滅はしていない。まぁ、魔族のいる土地と人類の住む土地とでは結構離れているから、当時はもう手は出さないという事で今の今まで放置されているよ。ここ数十年は確認されたという報告もないからね。魔王が封印されて大人しくしてるんだろう」


 魔族に取っては例外なく、魔王様は絶対的な存在であり象徴だ。その魔王様が封印されてしまったと知った魔族の心境は痛いほどわかる。だが、魔王様を封印された魔族が大人しくしているというのも考えにくいのだが……。


「最近は大人しくしているそうですが、魔王が復活するとなると、生き残っている魔族がまた現れるのではないですか?」

「そうだね。それも懸念されている。だけど、普通の魔族は今となってはそこまで脅威ではないと思われている。賢者様の貢献は何も一般魔法だけじゃないからね。当時とは比べ物にならない程魔法は進化したし、今なら魔法に特化した軍もいる。今なら殲滅も可能だと思われているよ」


 現在の人類の魔法がどの程度の物なのかわからないが、魔族の魔法を甘く見ているようにも思える。大鎌はどちらかと言えば魔法は苦手な部類ではあったが、それでも竜巻を起こすくらいであれば、簡単にできた。

 子供であればいざ知らず、大人であればそう簡単に殲滅なんて考えられない。魔王様を封印させられた魔族の恨みが、そう簡単に鎮まるものとも思えない。


「そういえば、神託があったという事は聖女が現れたという事でしょうか? それと、勇者も?」

「勿論どちらもいるよ。聖女は勿論神託を受け取った人だ。名前をルナリア・ファーレント。歳は16歳で、リーファ教の神官。元々は平民だったらしいけど、聖魔力を元から持っていたらしくて、孤児院から教会所属になって今では魔法学院に通っている。

 勇者は、キリュウ伯爵家のブルーノ・ユージ・キリュウ。僕と同い年で17歳。神託の後王宮で保管されていた聖剣を握って力を与えられたそうだから、血筋というのは凄いよね」

「随分と若すぎやしませんか? そんな若者ばかりで魔王を討伐できると?」

「確かに若いけど、女神の加護を貰った聖女と勇者だよ? それに、昔の勇者様も17歳だったらしいし、他の方々も同じくらいだ。仲間は聖女様が選ばれたということだし、他の人も選ばれたら加護がもらえるんじゃないかな?」

「加護というのは便利な物ですね……。他の人は? 騎士とか魔法使いとか」

「他はまだ未定だね。勇者と聖女は女神様によって選ばれるけど、他は聖女と勇者が選ぶ。何人か声をかけているらしいけど、まだ決めかねている。なんせ、死ぬかもしれないからね。そんな簡単に決められるものでもないから」


 確かに、いくら加護があったとしても死ぬときは死ぬのだろう。魔王討伐が簡単な訳がない。よほどの覚悟が必要になるはずだ。


「神託があってから半年と言ってましたが、魔王が復活するのはいつ頃なのですか? 加護があるとはいえ、そう悠長にしていられるものでも無いと思うのですが」

「復活は今から約1年後だ。確かに時間はあまりないのだけど、無理強いするのは最終手段だと現王がお決めになった。昔は勇者様達しか踏み入れられなかった魔族の土地も、今なら軍もあるし、王命で無理やり選んで加護が貰えないなんて事になれば討伐どころの話じゃなくなるしね」

「確かにそうですね。人にとっては過酷な道程になるでしょうし、そこをただの人が踏破できるとは思いません」


 あの土地は魔族ですら油断はできない。魔獣は多いし、気候もよく荒れる。だからこそ魔族は強くなるのだが、平和な世で生活している現代の人に加護も無しでは相当難しいだろう。おまけに、情報もろくなものがないだろう、未知の土地であるというところも更に悩みどころだろうか。


「そういう訳で、今は先の短い平和の中で誰しもが鍛えている頃さ。勇者パーティーに選ばれなくても、討伐軍に入って功績を上げようと奮起している若者もいるしね。優秀な人材であれば若くても選んでくれるかもしれないと」

「そういうお兄さ……お兄ちゃんはどうなんですか?」

「あぁ、無理にお兄ちゃんと呼ばなくてもいいよ。お兄ちゃんという呼び方は5歳くらいまでだったからね。眠る前は兄さんと呼んでいたよ」

「は?」

「僕は次期当主だからね。討伐軍に参加するつもりはない。騎士としての実力は相当な物だよ? 同世代ならトップ争いに参加できるくらいだとも」


 聞き捨てならない事実がさらっと判明したが、何食わぬ顔で話を進めるケイン。

5歳の時の呼び方をあたかも最近までそう呼んでましたよという反応だった気がする。

 出会ってからそんなに呼んでいたわけではないが、恥ずかしくなってきた。誰でもいいから止めてくれてもよかったはずなのに……。絶対に一度痛い目に合わせてやろうと心の中で誓い、話を続ける。


「呼び方の件は一旦流しましょう。しかし、兄さんは騎士だったのですか? 魔法は?」

「あぁ、まだダリル団長とは会ってないのかな? うちの騎士団に運よくソードマスターがいて、小さい頃から指南して貰ってたんだ。魔法も使えないこともないけど、本職は騎士だね。まだ学生だから所属はないけど、領主になるまでは魔法騎士団に行こうと思ってる」


 そういえば、出会って最初の頃にそんな話をダリルが言っていた気がする。

しかし、騎士か。そうなるとやはり実力が気になる……。


「兄さん、宜しければ明日にでも私と手合わせ願えませんか? 実は起きてから私もダリルに指南いただいておりまして」

「フィオラと僕が手合わせ? 可愛い妹の願いだから聞いてあげたいが、剣なんて今まで習った事はなかっただろう? 教わっているとは言え、多分型とかからだろうし……」

「いいから、騙されたと思って一度お願いします。一度だけ、ね?」

「う~ん、そんなに頼まれちゃ、断り切れないね。いいけど、剣だけがいいのかい? フィオラは純魔法使いだっただろう? 魔法は覚えているかい?」


 言われてみれば、ここ最近剣ばかりで魔法は使ってこなかった。大鎌が魔法に苦手意識があって、鎌の方ばかり使っていたからすっかりそのことを忘れていた。

 魔法が使えれば戦略に幅が出るかもしれない。それに、苦手だったとはいえ昔の人に比べれば魔族の魔法は優れていたらしいし、案外捨てたものではないのかもしれない。試してみるべきだろう。


「魔法はまだ試してませんでした。それでは、明日手合わせの前に教えて下さいますか?」

「いいとも。フィオラの得意だった魔法は全部覚えているからね。お兄ちゃんに任せなさい」


 ドンと胸を叩いて張り切るケイン。頼ってもらえて嬉しいのか、その表情はだらしない笑顔。実力を見ていないので何とも言えないが、本当に頼りになるのだろうか……。


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