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幕間1−1 母への贈り物

幕間1はユイ視点の物語です!

今後の投稿は不定期になります。

「ねぇ、ミツキ」

「ん」

「ミツキったら」

「ん」

「もう!ミツキ!」

「え、・・・・・・ああ!ごめん、どうした?」


 やっと気付いてくれた。


「どうした?じゃないでしょ。さっきからずっと呼んでんだから反応してよ・・・・」


 ミツキは「悪い悪い」と謝罪しているが、反省しているようには見えなかった。

 そんな彼に、ユイは呆れて溜息を吐いた。



「もうわたしお会計済ませたんだけど、まだ決まってないの?」


 ユイは赤いカーネーションの花束を持っている。


「ああうん。どうしても決まらなくてよ」


 ミツキも同じく自分と同じ花束を持っている。

 その場にしゃがみ、陳列する花束を見ていた。



「正直、どれも一緒に見えるんだけど」


 種類も色も同じ花で、違いが全く分からない。


「そうなんだけど、一番いい奴を選ぼうって考えると悩んでさ」


 頭を搔きながら気難しい表情を浮かべている。



「こういうのって、気持ちが一番大事なんじゃない?」

「だからって粗末なもの渡す訳にはいかねぇだろ?」


 今のミツキの発言で、思わず振り返ってしまう。

 店員の一人が訝しげにこちらを見ていた。

 ユイは苦笑いを浮かべながら頭を下げる。



「それによ、こういう日にしか会う機会ないし、やっぱりちゃんとしたいっていうか・・・・」


 そう言って、言葉を濁すミツキ。

 そんな彼の生真面目な性格に物珍しさを感じたが、呆れもした。

 が、気持ちが分からないことはなかった。



 自分も同じ境遇だから、今日がミツキにとって特別な日であることは理解しているつもりだ。

 会ったことがない人でも、それでも彼にとっては掛け替えのない大切な人であることには間違いない。

 だから____。



 ユイは片方の手でスカートの裾を押さえながら、ミツキの隣にしゃがんだ。


「これなんていいんじゃない?」


 一緒に選ぶことにした。

 本来なら赤の他人である自分が選ぶのも妙な気がするが、ミツキも赤の他人の母親に花を贈ろうとしている。

 だから、お相子という意味で口出しすることにした。



 さて、ある程度買い物を済ませ花屋から出ると、一台の車が停まっていた。


「買い物は済んだか?」


 車窓から顔を出す青年は兄である時島ツバサだった。


「ごめん、遅くなって」


 ユイが謝罪すると、ツバサは寛容な態度で答えた。


「いいっていいって、それくらいプレゼント選びに熱心になってたってことだろ?なら責める理由なんてねぇよ。それに可愛い妹たちの帰りを待つのも兄貴の役目だしな」

「シスコン?」

「誰がじゃ!」


 不意に呟いたミツキの一言と、それに反論するツバサ。

 ユイは思わず吹き出してしまう。



「てかさ、俺はお前の弟になった覚えはねぇんだけど」


 ミツキは眉を顰めてそう言った。

 そういえば、彼がツバサのことを『兄さん』や『兄貴』と呼んだところを一度も見たことがない。


「今更何言ってんだ?お前俺より年下だろ?もう三年も一緒に住んでいるんだし、もう兄弟みたいなもんだろ」

「俺はお前のことを兄貴だと思ったことは一度もない」


 結構辛辣な一言だった。

 横で聞いている自分でも少し引くくらい冷たい。

 そして、その言葉を諸に喰らったツバサはというと、結構傷付いている様子だった。


「さ、さあ早く移動しましょ!こんなところで油を売っていると通行人の迷惑だし・・・・」


 ユイは無理やり話を終わらせて、ミツキを押してさっさと車の中に入った。



「・・・・・・」

「ほら乗ったよ、兄さん。早く車を出して」

「・・・・なあユイ、お前は俺のこと兄貴だと思ってくれているよな?」


 今にも泣きそうな声で縋るように尋ねてくるツバサ。

 相当ショックだったのだろう。


「・・・・・・思ってない訳ないじゃない」

「ううぅ・・・・・・、やっぱりお前は昔からいい子だよな」


 あれ?もしかして泣いてる?


 後部座席に座っているため、後ろ姿しか確認できない。

 唯一それが叶うのは、前の助手席に座っているミツキだけだ。

 そんな彼は頬杖をついているようだった。



「・・・・・・はぁ」


 前の方から誰かの溜息が聞こえた。

 多分、ミツキだろう。

 それを皮切りに話し出す。


「言っておくが、別にお前に限った話じゃねぇからな。ユイのことも妹とも姉とも思ってねぇし、ユカリさんだって母親だとは思ったことねぇよ。だってそうだろ?俺は時島家の人間じゃないし、居候の身で一時的に住んでいるだけだしな」


 ここでも辛辣な言葉が発せられた。


「だけど、嫌っている訳じゃねぇからな。寧ろ感謝している。ユイとは兄妹じゃねぇけど友達だと思っているし、ユカリさんも俺を引き取ってくれた恩人だと思っている」


 口々に話すミツキは、どこか照れくさそうにしている様子だった。

 以前の彼とは考えられないくらい素直になっているような気がする。

 ゴールデンウィークの逃亡劇の時もそうだったが、もしかすると負い目を感じると自分の本音を言うのかもしれない。



「因みに、俺は?」


 恐る恐るツバサが聞くと、


「お前は『ユイの兄貴』っていう認識だな」


 と、あっさり答えてしまった。

 もし自分の仮説が本当なら、これがミツキのツバサに対する認識なのだろう。

 あくまで『友達の兄貴』として見ているだけだと。


「・・・・そ、そうか。まあ嫌われている訳じゃなくて安心したよ」


 ツバサは微妙な反応をすると、


「よし、じゃあ行くか!」


 そう言って、ウィンカーを出して道路に出ると、ミツキのガイドのもと車を発進させた。



 一時間後。

 漸く目的地に到着した。

 といっても、残り二十分は渋滞により足止めを喰らったので、実質移動には四十分は掛かったことになる。

 それでも距離はある方だ。



 石垣の上には竹林があり、石畳の階段がある。

 百段くらいはあるだろうか、上るには骨が折りそうだ。


「本当に一人で良いのか?」


 ツバサが車の中から顔を覗かせて訊いている。


「ああ、大丈夫。送ってもらってありがとな」


 花束を持ったミツキがそう答える。


「まあ、こういうのは親族である俺がすることだしな」

「そうか」

「すぐに戻って来るよ」


 最後にそう言って、長い階段を上っていった。



「・・・・・・」

「・・・・・・」

「で?何でお前ついて来てんだ?」


 振り返り、訝しげな表情を向けてきた。


「いや、手伝いたいなって」

「手伝いたいって・・・・・・」


 ミツキは呆れた様子で深い溜息を吐いた。


「花選んでくれたのはいいが、流石に墓参りまで手伝わなくてもいいだろ?」

「そんな訳にもいかないよ。だって、ミツキも母の日パーティーに参加するんでしょ?最後まで付き合ってくれるんでしょ?なら、ミツキの方もちゃんと付き合うのも道理だし」

「随分強引な理屈だな・・・・」

「それにわたしからも『あなたの息子は元気にしています』って言った方が安心するでしょ?ミツキって、大丈夫じゃなくても大丈夫って言ってそうだから、心配しているんじゃないかなって」

「お前な・・・・・・」


 また大きな息を吐くと、諦めたようで、


「分かったよ。勝手にしろよ」


 と、承諾してくれた。

 それを聞いて嬉しくなり、一段飛び越えながら階段を上り始めた。



 頂上まで辿り着き、まず目にしたのが何もない更地だ。

 真ん中に石畳の通路が敷かれているが、途中途切れている。

 それもそのはずだ。

 元々そこに神社の境内があったからだ。

 ただ、三年前に火事になり建物が全焼し、跡形もなくなくなってしまった。


「行くぞ」


 ミツキは見向きもしなかった。

 いや、正確にはあまり見たくないのかもしれない。

 嘗て神社だったその場所は、ミツキが住んでいた家でもあるからだ。

 ユイは何も言わず、後ろに付いて行った。



 神社の跡地から少し離れた場所に墓地がある。

 数は二百近くあり、団地のような構造をしていた。

 その内の一つの前に立つと、早速母の日参りの準備をした。

 落ちている枯葉を払い、花を生け、火をつけた線香を立てる。

 そして、二人並んで手を合わせた。



「・・・・・・」

「・・・・・・」


 短い沈黙が続き、顔を上げる。


「母さんさ、俺が生まれてすぐに死んじゃってさ。写真でしか顔見たことないんだよな」


 唐突にミツキが口を開いた。


「毎年こうやって墓参りに来てんだけど、今までは父さんに付いて来ていただけって感じだったんだ。でもここ三年は自分一人で行くようになって変わってな」

「どう変わったの?」

「・・・・自分のせいで父さんが死んでしまったこと。それに対する謝罪ばかりしていたかな。こんな最低な俺が生きていてごめんさい、とか不謹慎なこと考えていたよ」



 確かに不謹慎だ。

 とても子供が母親に対して言っていい言葉ではない。

 自分でさえ、母親の前でそんなことを言ったことがないくらいだ。

 でも、そう思ってしまう辛い出来事が過去にあったと捉えることもできる。

 だから、安易に異を唱えることはできない。



「じゃあ、今もそう思っているの?」

「分かんねぇ。けど、今は少し考え方が前向きになったかな」


 表情を見ると、ミツキは僅かに笑みを浮かべていた。


「お前言ったよな?過去に間違いを犯しても幸せになる権利があるし、やり直すチャンスだってあるって。だから、俺もただ悔いるだけじゃなくて前を向いて歩かないといけないって思ってよ」

「・・・・そっか」


 少し安堵した。

 生きていることを申し訳ないと思っていたかと聞いた時は焦ってしまったが、その心配はなさそうだ。



「・・・・・・だから、今度は間違わないようにしねぇとな」

「っ」


 いや、やっぱり心配だ。

 さっきまで笑っていたが、根詰めたような表情になっている。

 まるで今度はないと戒めているみたいだ。



「さて、そろそろ行くか。帰ったらユカリさんを出迎える準備をしないといけないしよ」


 墓石に向かって礼をすると、その場を立ち去ろうとした。


「・・・・・・」


 その後ろ姿を見ると、自分の中で不安が膨れ上がってくるのを感じた。


「もし・・・・もしもだよ?ミツキがまた何か壁にぶつかった時、わたしが背中を押してもいい、かな?」


 だから、咄嗟にそんなことを言ってしまったのかもしれない。

 その問い掛けに、ミツキは足を止めて振り向く。

 そして、笑顔を見せると、再び歩き出した。

 ユイも墓石に頭を下げて、後を追い掛けた。



 残りの買い出しを終えて家に帰ると、早速パーティーの準備をした。

 ミツキは料理担当。

 ツバサは飾付け担当。

 ユイはその両方を担当することになった。



 基本的にはミツキと分担して料理することになっているが、ツバサの不器用でその辺の家具を壊し兼ねない。

 良心で手伝ってくれていることはありがたいが、手を掛けたくないのが本心である。

 だからといって、何もしなくていいとは言えなかった。

 そんなハラハラする中なんとか準備を終え、後は母の帰りを待つだけとなった。



「何時くらいに返ってくるんだ?」


 ミツキはテーブルに頬杖をついて訊いてきた。


「えっと、確か六時くらいに帰って来るって、さっき連絡があったよ」


 スマホで確認すると、十七時四十三分と表示されている。

 もうそろそろと言ったところか。


「もう玄関前に居たりするかもしれないな。大量のお土産を腕にぶら下げて」


 ツバサがヘラヘラ笑いながら答える。


「まあ、そうかもね・・・・」


 そう言って、玄関がある廊下に視線を向けた。

 灯りが点いていないため薄暗く、リビングの光が漏れている。

 人の気配は全く感じなかった。

 気長に待とう。

 そう思って、ソファに腰を預けた。



 コンコンッ


 音が聞こえた。

 ほぼ同時に三人が振り向く。

 一部が鎖で飾り付けられたカーテン、その向こうからだ。

 ユイは腰を上げ、徐にカーテンを開ける。


「やっほー!ツバサ、ユイちゃん、ミツキ君。今帰ったよ~」


 満面の笑みを浮かべて手を振る女性。

 窓越しでも大きな声だと思うくらい大きな声で挨拶をしてきた。

 そんな呑気な態度に、呆れながら窓を開けた。


「・・・・お母さん、ここ玄関じゃないんだけど」

「あら、知っているわよ。ちょっと荷物が多くて扉が開けられそうになかったから、ね?」


 足元を見ると、キャリーバックと一緒に大量の大きな袋が置いていた。

 何が入っているのかぱんぱんに詰まっている。

 縁側を軽く埋めていた。


「・・・・・・何買ったの?」

「いろいろ?」

「何で疑問符付けるの!?」

「うん、取り敢えず開けて」


 そんな感じで、数か月ぶりに母が帰ってきた。



 ユカリが風呂に入っている間、三人は貰った土産を見ていた。


「・・・・なぁユイ」


 ミツキは若干引き気味な声で話し掛けてきた。


「何?」


 振り返ると途端に顔を顰めてしまった。

 どこかの民族が魔除けか何かで使いそうな独特な模様の仮面を持っていたからだ。

 サイズはだいたいミツキの顔を容易く覆うくらい、いやそれでも余裕がありそうだ。


「・・・・ユカリさんって、仕事でヨーロッパに行ってたんだよな?」

「・・・・・・・・うん」


 自信を持って頷けなかった。


「あとなんかあっちにも壺とか入ってたんだけど、まさか向こうで詐欺にあったとかじゃねぇよな・・・・」

「・・・・多分」

「それと今気付いたんだけど、なんかこの袋の中に入っている西洋人形から禍々しいオーラが漂っているけど、まさか・・・・」

「あ、ああ!ほら、花柄で可愛いデザインのティーカップとかあるよ!こっちにも馬の置物とか可愛いし、リビングに飾ろうかなって・・・・」


 ミツキの話を遮り、全力で話を逸らすことにした。

 が、そんな気も知らないで、ツバサが追い打ちを掛けるような発言をする。


「おーい、なんかこっちには木刀が入ってたぞ。なんか『琵琶湖』とか彫られてる奴」

「ホントにどこに行ってたの、お母さん!?」



 大量の土産の一つ一つに驚いていると、寝巻に着替えたユカリがリビングにひょっこり現れた。


「どうだった?今回のお土産、ちょっとびっくりした?」


 呑気に声を掛けてくるが、三人(特にユイ)はくたびれていた。


「・・・・まあ、うん、ちょっとどころか滅茶苦茶びっくりした」


 ソファに身体を預けて座るユイは、床一面に広がる土産の山から目を逸らしながら答えた。

 大方見たが、真面そうな土産は二割くらいしかなかった。

 あとはどこで買ったか分からないような怪しい品ばかりだ。


「いやー、珍しい物を見るとつい買いたくなっちゃうというか、その場のノリでね!」


 ユカリは『てへぺろ』と舌を出した。

 もしかしたら、ユカリは仕事ではなく、修学旅行に行ってきたのかもしれない。

 普通、海外まで行って木刀買う?


「気に入った物とかあった?」

「・・・・そうね、強いていうなら花柄のティーカップとか馬の置物くらい、かな?」

「ああそれ?確か『色欲のティーカップ』と『憤怒の馬』って名前だったような・・・・なんか独特なネーミングだけど、デザインが可愛かったから買っちゃったのよね。気に入ってくれて嬉しいわ!」

「・・・・・・やっぱり、いいです」



 結局、たくさんあった土産の中からごく僅かの物だけ貰うことにした。

 ユカリは不満そうにしていたが、流石に許容できないような物もあったので納得してもらった。

 そして、改めてパーティーを開く。


「それじゃ、母さんが帰ってきたお祝いと母の日を兼ねて・・・・」

「「「「かんぱーいっ!」」」」


 ツバサの号令に合わせて、四人は乾杯をした。



 それからは大いに盛り上がった。

 ユカリが海外出張したの高校の入学式前で、約一か月は家にいなかったことになる。

 その間に起きた出来事を話したりした。



 最近ミツキと家事を分担してやっていること。

 ミツキがカオルとマルコと仲良くしていること。

 ミツキがバスケ部の期待のルーキーとバスケ勝負をして勝ったこと。

 その日を境に部活から勧誘を受けていること。

 隣のクラスにいるマキナから友達相談を受けていること。


 あれ?よく考えたら、ミツキのことばかりのような・・・・・・。


 そんなこんなで料理を食べ、ケーキを食べ終わると、最後に花束を贈った。


「あらー、ありがとう!大切にするわ!」


 母の嬉しそうな表情を見て、自分たちも嬉しい気持ちになった。



 さっきまでは少し不安だった。

 この先自分たちはどうなるのか、どんな運命が待ち受けているのか、分からなくて怖かった。

 特にミツキのことも。

 でも今は、この瞬間にある幸せは大事にしたいと思う。

 それが今の自分にできる唯一のことだから。

如何でしたか?

次回は幕間2でエリがメインのストーリーです!

お楽しみに!

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