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第六十七話 明日を守る者

「何がどうなっているんだ?」


 俺は目の前の光景に唖然としていた。

 地に膝をつき、壊れた機械のように動かなくなったマキナ。

 その両肩を何度も揺さぶって、必死に呼び掛けるユイ。

 命を狙っている人間と命を狙われている人間、のはずだ。

 しかし、今はそんな関係であることが嘘のように、奇妙なことになっていた。



 俺はケルベロスの導きにより、ユイの所へ案内してくれた。

 道中で分かったことだが、どうやら分離している状態でも、互いに意思疎通ができるらしい。

 そのため、ユイを追いかけた一体の足取りを、残り二体は把握しているそうだ。

 まあ、もともとが同一の存在のため、そういうことができても不思議には思わなかった。

 とはいえ、分離できること自体は今朝初めて知ったことだが。



 そして今、目の前では思いもよらなかった事態が起きている。

 ユイはマキナの名前を何度も呼ぶが、彼女は反応する素振りは一切見せない。

 肩から力が抜けているようで、意識があるかも怪しかった。



「ユイ」


 状況を詳しく把握するため、二人の方へ駆け寄った。

 この時、召喚していたケルベロスたちもハデスの魔道具に戻しておくことにした。


「ミツキ!」


 ユイはここで俺の存在に気付いたようで、こちらに顔を向けていた。

 瞳に涙を溜めていて、今にも零れ落ちてしまいそうだった。

 表情を見れば分かる。

 これは助けを求めている時の顔だ。


「どうしよう・・・・さっきからずっと声を掛けているんだけど、全然反応してくれなくて。どうしたらいいか分からなくなって、それで・・・・」

「一回落ち着け。もう大丈夫だから」


 俺は傍に座り、混乱しているユイを宥めた。


「何があった?」



 それからこれまでの経緯を聞いた。

 マキナと直接話すために、単独で行動したことを。

 彼女の真意を確かめるために、撃たせるよう仕向けたことを。

 突然、マキナがパニックになって動かなくなったことを。

 そんな無茶な行動をしたことを咎めたいところだが、生憎自分にも落ち度があるためそんなことはできない。

 それに、今は動かなくなった彼女の様子が気になる。



 俺はマキナの生死を確かめるべく、首筋にそっと触れようとした。


『脈は正常に動いています。ただ気を失っているだけかと』


 突然、背後から声が聞こえ、咄嗟に振り向く。

 反射的に首に下げている魔道具を握った。



 見ると、複数のドローンが飛んでおり、その内の一機から音声が発信されていた。


「お前は・・・・」

『失礼しました。わたしは黒鉄マキナ様によって作られたサポートAIのアテナと申します』

「サポートAI、ねぇ・・・・」


 SFもので出てきそうな奴だが、まさか現実でお目に掛かれるなんて思ってもみなかった。



 俺はその胡散臭いAIを警戒しながら、いくつか質問をしてみることにした。


「マキナはただ、気を失っているってだけなのか?」

『そうですね。恐らく、パニック症状かと思われます』

「何でそうなった?」

『理由は分かりませんが、そちらにいる方が精神的圧力を掛けたのが原因かと思われます』


 アテナがそんなことを言ったため、ユイがワナワナと震え出す。


「それは考えられないんじゃないのか?」

『と言いますと?』

「こいつは俺たちに合うや否や、問答無用でユイに発砲している。それが今更殺すように仕向けたくらいで、動揺するか?それも気を失っちまうくらいに」


 俺はそこが引っ掛かっていた。



 確かにユイやアテナの言う通り、圧力を掛けた直後にそうなったことは事実なのだろう。

 しかし、ただそれだけの理由なのだろうか。

 もっと重要なことを見落としているような気がする。



 取り敢えず、詳しい話は後で聞こう。

 意識が戻った後で、マキナからの話も聞きたいしな。


「とにかく、早くこいつを病院に」


 そう言って、立ち上がろうとした時だった。



 突風が吹いたのだ。

 それも不自然で、それぞれ別方向のものが二つ。

 砂埃が巻き上がり、目に砂が入ってしまう。


「何だ、これ」


 目を擦りながら、瞼を開こうとする。

 そして、煙の中から巨大な影がこちらに迫ってきていることに気が付く。


「危ない!」


 咄嗟にユイとマキナを勢いよく押し倒した。

 倒れ込む二人を下敷きにし、自分もうつ伏せに倒れてしまう。



 痛みを実感する前に、すぐさま顔を上げて周囲の状況を確認した。

 遠くの方でドローンが無残な姿になって、破壊されているのが見える。

 どうやらあの奇襲で、攻撃をもろに喰らってしまったようだ。



 俺は次の攻撃に備えるため、身体を動かそうとした。

 が、それは背後から感じた気配によって、中断することになる。

 次の奇襲が迫ってきたからだ。

 すぐさま頭を深く下げたため、攻撃を掠ることなく回避できた。



 しかし、攻撃の手はすぐに襲い掛かってくる。

 頭を伏せているため、直撃することはないが、こちらが動く隙が全く無い。

 攻撃と攻撃の間が短すぎるのだ。

 高速移動という線も考えたが、生憎気配の方向は同じ時があり、旋回して攻撃している可能性は低そうだ。

 それに先程の突風は、明らかに別方向から吹いていることからある仮説が頭を過る。



 今俺たちを襲撃しているのは魔物で間違いない。

 しかし、今回は今までと違う。

 黒い穴が二つ出現し、そこからそれぞれ別の魔物が現れたということだ。

 つまり、敵は二体いることになる。



 そして最悪なのが、俺たちの戦力だ。

 一人は意識不明の状態で、もう一人は顔を青ざめて精神が不安定な状態でいる。

 まともに戦えるのは俺だけということだ。



 とにかく、この状況を何とかしねぇと・・・・。


 俺はポケットからハデスの魔道具を取り出した。


「ケルベロス!」


 叫ぶと、傍らに魔方陣が展開され、一匹の猟犬が姿を現した。

 丁度襲ってきた魔物に突進し、攻撃の魔の手から逃してくれた。

 これにより隙ができ、起き上がると同時に俺は魔装した。

 二人を抱えて、その場から距離を取る。



 この時、二人が逃げれるような経路の近くに着地した。

 俺は改めて周囲の状況を確認する。

 まず視界に入ったのが、二体の獣だった。

 俺に背を向けて低い唸り声を上げているのが、召喚した使い魔のケルベロス。

 それと対峙するのが、四本の足で獣の胴体を支え、巨大な翼に鷲の頭を持つ魔物だ。


「グリフォンといったところか・・・・」


 そしてはもう一体は、翼を翻しながら優雅に着地している。

 見た目は普通の鳥だが、翼が燃えるような赤であり、全身は金色に身を包んでいた。


「そっちはフェニックスか?いや、ガルーダか?」


 見た目だけでは判断し辛かった。

 まあ、個体名なんて特徴が似ているからという理由のため、本物である確証はないが。

 とにかく、明らかに敵意があることには間違いないようだ。



「ユイ」


 背後にいる少女に声を掛ける。


「お前はマキナを連れて住民の避難をしろ。こいつらは俺が引き付けておくから」


 そう指示を出すが返事がない。

 後ろに目をやると、まだ動揺している様子だった。

 俺は膝を付き、ユイの両肩に手を置いた。


「しっかりしろ!お前が決めた行動の結果だろ?狼狽えてんじゃねぇよ!」


 柄にもなく暑苦しい言葉を言っているような気がする。


「そもそもこいつはお前を殺そうとしたんだぞ!お前はそんな理不尽な目に遭わせようとした奴に仕返しをしただけだ!そいつが傷付いたからって、お前が落ち込む必要なんてねぇんだよ!」

「・・・・でも」


 何か言いたそうにしているが、一刻を争う状況なので自分の考えを伝えておくことにした。



「今は私情に構っていられる余裕はねぇんだよ。今もこうしている内に、大勢の人の命が危険に晒されてんだ。分かるだろ?」


 別に戦いを強要している訳ではない。

 俺はこいつの意思を尊重していくと決めている。

 だから、迷った時は背中を押してやりたいと思っている。



「お前昨日の夜言ったよな?自分が一番やりたいこと、やらなきゃいけないことをやっていけばいいって」


 ゆっくり立ち上がり、二体の魔物に向き直る。


「言われた直後ずっと考えてた。俺がやりたいことって何だろうって。ちょっと前まではクラスで友達を作るとか考えていたけど、今ではそうでもなくてよ。もしかすると、本気じゃなかったかもしれねぇな」


 懐からヘルメスとゼウスの魔道具をそれぞれ取り出す。


「結局思いつかなかった。多分俺にはやりたいことはないんだろうな」


 二つの魔道具を重ね合わせる。


「でも、やらなきゃいけないことはすぐに思いつく。目の前の敵と戦って、身近にいる誰かの明日を守りたいってな」


 中央のクリスタルが黄色に輝きだし、放電する魔方陣が出現する。


「ゼウス!」


 直後、俺はゼウスの力を纏った魔装形態へと姿を変えた。



「ユイ、マキナを連れて住人の避難をしろ」


 振り返り、もう一度指示を出した。

 ユイは目を逸らすと、何かを考えるような素振りを見せる。

 そして、迷いが吹っ切れて覚悟を決めた顔になり、力強く頷いてみせた。

 ユイは魔装をすると、マキナを抱えて瞬間転移をした。



 俺はその様子を見届けた後、手に持っている大型の斧を構える。


「さて、時間稼ぎと行くか!」

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