第五十四話 アテナ・システム
レーザーが放たれた瞬間、すぐさま剣で弾き、そのまま駆け出した。
距離を詰め、俺は剣を水平に振るう。
が、寸でのところでマキナは後退し回避した。
そして、二丁の銃とドローンの機関銃を駆使して乱射した。
俺は大振りの態勢からすぐに動き出す。
一発目。
二発目。
三発目、四発目・・・・・・。
と、確実に剣の柄の部に当て、無力化していく。
その間にマキナとの距離も縮める。
「せいっ!」
目前に迫ったところで、剣を大きく振り下ろした。
マキナは構えていた銃のブレードを展開し、それをクロスさせて防ぐ。
金属と金属がぶつかり合う鈍い音が響く。
擦り合う度に小さな火花が散った。
マキナがブレードを振り上げると、途端に近接戦へと変わった。
俺は錬成で創り出した劣化物の剣を振るい、マキナは刃を展開した銃を振るう。
乾いた衝撃音が地面や塀を反射させて、何度も響き渡る。
機関銃の魔の手は継続しており、俺はそれらの相手もしなければならない。
何度も隙を作ってしまうことがあり、咄嗟に錬成で障壁を作って防いでいった。
だから、気が治まることはなかった。
この時、銃声の音で周囲がざわつかないことに疑問を抱いてもおかしくなかったが、生憎そんな余裕はなかった。
そう思ったのは、この緊迫した状況から抜け出した直後のことである。
「はあっ!」
剣を斜めに振り上げたが、マキナはしゃがんで回避してしまった。
この時、二丁の銃のブレードは閉じており、代わりにライフル形状へと合体変形させていた。
マズイ!
咄嗟に防衛本能が働き、後ろに跳んだ。
その判断が正しかったのか、ライフルから放たれたレーザーはこれまでにない程の速さと破壊力で剣に直撃した。
ガキンッ!
今まで聞いたことがない激しい音がした。
反動が手首で固定できない程強烈だった。
着地して確認すると、右手の剣の刃が跡形もなく吹っ飛んでいた。
先端部が熱で溶解しており、煙を立ち上らせている。
「マジか・・・・」
思わず口に出してしまう。
「どうだい?これが『アテナ・システム』の性能さ」
バイザーで目元は隠れているが口元は露わになっているので、表情は読める。
笑っている。
まるで楽しんでいるようだ。
「じゃあ装甲全部引っぺがせば、そんな派手な動きは出来なくなるのか?」
「君は随分大胆な発言をするんだね?」
胸元で腕をクロスさせるが、本気で恥ずかしがっているようには見えない。
「そういう意味で言った訳じゃねぇんだけどな・・・・」
「まあいいや」、と投げやり言葉を発し、持っている剣を捨てた。
「あれ、降参かい?」
呆気にとられたような声で聞いてくる。
「違ぇよ。ちょっと戦い方を変えるだけだ」
そう言って俺は、一つの魔道具を取り出した。
「それは・・・・」
全体的に白く、中心に窪みのあるエンブレム。
最近手に入れた三つの魔道具の一つ。
名は『ゼウス』だ。
ヘルメスの魔道具を取り出し窪みに嵌めると、黄色く発光した。
「ゼウス!」
直後、足元に魔方陣が出現し、瞬く間に姿を変えた。
ゼウスに魔装・・・・というよりヘルメスを介して魔装したと言った方がいいだろうか。
考えたが、やはりゼウスに魔装したと言った方がわかりやすかったので、そう言うことにした。
ゼウスに魔装した直後、全身から放電現象が発生し負荷を掛ける。
「くっ・・・・・・やはり慣れないな、この姿は」
そう言いながらも、初魔装と比べればまだマシな方だった。
すぐに馴染んで、魔力のコントロールも安定している。
ただ問題があるとすれば、加減が少々難しいということだけ。
「悪いな、まだ二回目なんだ。上手く避けろよな」
俺は右手に持っている大型の斧を両手に持ち替えて、先端を夕空に向けた。
黄昏に黒い曇天雲が渦巻き、雷を発生させる。
マキナも危機を察知したようで、銃口をこちらに向けた。
が、そのタイミングと合わせて二つの雷を落とした。
見事にドローン二機に直撃し、破壊する。
「うっ!」
マキナは怯み、攻撃の態勢を崩す。
その間に俺は巨大な雷の一柱を斧に直撃させた。
至近距離から響く轟音。
本来なら鼓膜が破れてもおかしくないが、魔装の仕様のお陰か平気だった。
バチバチと放電し、光の曲線が端から端へと行き渡る。
そのエネルギーが刃に収束し、淡く発光する。
「行くぜ」
呟くと、俺は勢いよく飛び出した。
速い。
そう感じたのは、ヘルメスの時と感覚が全く違っていたからだ。
風魔法による加速でやっと届くスピード。
それをただ蹴っただけで可能にしてしまったのだ。
ほぼ一瞬で距離を詰め、巨大な斧を振った。
その間にも放電現象が発生する。
マキナはその攻撃を大袈裟に避けて回避した。
ライフルのブレードを展開しているが、それで受け止めようとしない。
俺が振る斧を、只管身体を捻らせて避けているのだ。
どうやら雷に警戒しているらしい。
相手が機械っぽいから、なんとなくそう思った。
それから何度か振り回したが当たる気配がないので、攻撃の手法を変えることにした。
斧を逆手に持ち替え、先端を地面に突き刺す。
すると、先端部を中心にサークル状の雷の衝撃波が広がった。
マキナは咄嗟に腕を構えて、バリヤーのようなものを展開する。
が、それは一瞬にして無力化され、持っているライフル銃を破壊した。
「ぐっ!」
顔を顰めながら、大きく後退する。
着地すると、大破したライフル銃と、損傷し基盤が剝き出しになった両腕部を交互に見据えた。
「一応、対策はしたはずなんだけどな・・・・、どうやらその力は規格外のようだね」
ダメージを受け尚、余裕な態度を絶やさない。
「流石に長期戦は厳しいかもね・・・・」
マキナがそう呟いたその時だった。
突然、空にひびが入り、粉々に砕け散ったのだ。
景色そのものに変化はないが、半透明な破片が飛散していく。
地に着く間もなく消滅した。
「・・・・・・ああ成程、道理で静かだった訳だ」
理解した俺はそう呟く。
以前にも同じようなことがあったからだ。
ドーム状に形成された空間。
外側と内側で認識が阻害され、完全に隔離された場所。
破壊するとガラスのように粉々になる特徴。
認識疎外の結界だ。
「ミツキ!」
後方から呼び声が聞こえる。
振り返ると、ユイが空を飛んでこちらに迫ってきていた。