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第五十三話 鋼のソルジャー

第三章スタート!

 改めて見ると、本当に綺麗な目をしていた。

 まるで宝石のように透き通っている。

 一切の汚れはなく、彼女自身の心を象徴しているように感じた。



 そんな美しい瞳に見惚れている俺は、ユイを押し倒していた。

 地面に手を付いて、華奢な体を覆い被さるように四つん這いになっている。

 起き上がったばかりのためか、あの柔らかい感触は未だ残っている。

 ほんのり甘い香りは尚も鼻を刺激していた。

 白い肌を仄かに赤く染め、恥ずかしさと困惑が混じったような表情をしていた。



 ここまで説明した状況なら、確実にあらぬ誤解を招いていただろう。

 しかし、銃口を向けられていなければ_____。



 直後、甘い香りをかき消すように焦げ臭いにおいがした。

 視線をそちらに向けると、アスファルトの地面に野菜や果物が転がっている。

 その中で、象徴的に細い煙が上がっていた。

 反対方向を見ると、マキナがこちらに銃を向けていた。



「随分と大胆なことをするんだね、君は?」


 心底呆れたような口調で答える。


「お前がそうさせたんだろ?」


 俺はたった今発砲したマキナを睨んだ。


「邪魔しなければ良かったのに」

「お前・・・・」


 理由はどうあれ、ユイを撃ったことに対しては許すことはできなかった。



「何でこんなことをする?」


 立ち上がり、ユイを庇いながら問い掛ける。


「彼女が脅威になるかもしれないからだ」


 悪びれることなく、淡々と答えるマキナ。


「彼女が魔物を呼び寄せている。その可能性があるからね。今のうちに始末しておこうと思ってね」

「協会の指示か?」

「違う、僕自身の意思さ。彼らはまだそのことを知らない。知る由もない」


 マキナは銃口を向けたままだった。

 今にも二発目が発砲されそうだ。


「なら、何で俺に?」


 新たな疑問に問い掛ける。

 だが、答えてくれなかった。

 真っ直ぐこちらを見据え、照準を合わせ始める。


「話は終わりだ」


 そう答えると、マキナは二発目の弾丸、というよりレーザーを放った。

 どうやら交渉決裂のようだ。



「ヘルメス!」


 すかさず魔装し、即席で生成した障壁で光の線を防ぐ。

 ピチュンッと花火のように弾けて散った。

 まるでSFものに出てくるレーザー銃のようだった。


「あの一瞬で高度が高い障壁を錬成するとは、流石錬金術師の家系は伊達ではないということか・・・・」


 感心しながら、マキナは手に持っている端末を操作し始めた。


「なら、これはどうだい?」


 すると、彼女の周辺に魔方陣が八つ出現し、八機のドローンを出現させたのだ。



 あれはマズイ!


 そう直感した俺はユイに呼び掛ける。

 上半身を起こしたまま茫然としている。

 状況を上手く理解できていないのだろう。


「今すぐ魔装して逃げろ!狙いはお前だ!」


 すると、我に返ったようにユイは俺の方を見た。


「え、どういう・・・・」

「俺が引き付けているから、上手いことずらかれ!」


 早口で要件を伝え、周辺の障害物から二本の剣を生成した。


「でも・・・・」

「早く!」


 ユイは躊躇ったが、俺の言葉に促されるまま、魔装してその場から立ち去った。



「追え」


 マキナは六機のドローンを追跡に向かわせようとした。

 俺はそれを阻止しようと動くが、二発のレーザーによって阻まれてしまう。


「行かせないよ」


 ユイに向けていた銃口は、俺に向けられていた。

 どうやらマキナは俺を相手にするらしい。


「いいのか?いくら武器を持っているからって、生身で俺と戦うなんてフェアじゃねぇだろ」


 見たところ、マキナの容姿は普通だ。

 何の変哲もない高校の制服。

 つまり、生身ということだ。

 マキナが相手をするのは超人同様の存在。

 身体能力も全く段違いだ。

 本気で殴ってしまえば即死は確実だろう。


「心配する必要はないさ。ボクだって不利な戦闘に無闇に参加する程愚かじゃないよ」


 なぜだろうか。

 なんだか自分に言われているみたいで、胸に刺さるものを感じる。



「それでどうするんだ?」


 問うと、マキナはポケットから端末を取り出した。

 スマホのように見えるが、奇妙なパーツが散りばめられている。

 マキナは端末を耳に当てた。


「アテナ」


 そう呟くと、彼女の足元に魔方陣が出現した。

 だが、俺が今まで見てきたものとは違い、電子的なものとなっている。

 PCのウィンドウのようなものが周囲を取り巻き、鋼のアーマーが出現する。

 直後、アーマーはマキナの全身に装着された。

 ライトグリーンの細長いエフェクトが、弾けるように散布する。


「これでフェアになったでしょ?」


 鋼の装甲に身を包んだマキナがそう言った。

 これが彼女の魔装らしい。



「驚いたな、まさかこんなのもいるのか・・・・」


 俺が知っている中で、ここまで機械的なものは存在しなかった。

 いや、そもそも存在していなかったのかもしれない。

 現にマキナが使っている魔道具が端末であること自体おかしい。

 装飾品や小物のようなものしか見たことがないのに。

 つまり、マキナの魔装はこれまでもものとは別のものということになるのだろう。


「お前、もしかしてそれ自分で作ったのか?」

「まあ、正確には改造したって言った方が正しいかな」


 得意げにそう答えてしまった。


「マジか・・・・」


 驚くしかなかった。



「何?怖気づいたの?」


 マキナは挑発的な態度を示してきた。


「まさか、そんな訳ねぇだろ」


 俺は腰を落とし、剣を構えた。


「お前が何を考えているか知らねぇが、俺の友達に手を出したこと後悔させてやる!」

「そうこなくては面白くない」


 夕暮れを背に、俺とマキナは対峙する。

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