いざなわれしもの
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やっと更新です。新章突入です。
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「祠ァ?」
「ええ。記憶が確かならば、ですが」
私はそう言いながらゆっくりと脇道を行く。どこか湿ってひんやりとした温度の風に晒されながら、舗装されていない土を踏み締め、木の根や岩に躓かないよう注意深く歩みを進めた。
その先に待ち構えているものを、想像もせずに。
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通い慣れた西の山、展望台からの景色をふと眺めたくなったのは、あんな夢を見たからだろうか。明け方の嫌な気分を振り払いたくて私は朝食もそこそこに、早朝の散歩にコクウを誘ったのだった。
あんなに居た鴉は何処へ消えたのか一羽もおらず、不思議に思いながらも私は履き慣れた山歩き用のブーツでまだ冷えたアスファルトの斜面をゆっくりと登る。
隣ではコクウが藍の縞地の着流しというラフな格好で下駄を鳴らしていた。いくら常人には姿が見えないとはいえ、少し無防備すぎやしないだろうか、といささか心配になるが、言っても聞く耳は持っていなさそうなので気にしないことにした。
「しかしお前はヒッキーとやらの癖に、山に登るのは嫌じゃねェんだな」
「誰が引きこもりですか、私は静かに過ごすのが性に合っているだけです。それに山に登ることそのものが好きな訳ではないですよ」
「じゃァ何で山? ……そう言やァ初めて会った時も山ン中だったっけか」
私は同意しながら鬱蒼とした木々のトンネルを仰ぎ見る。あの頃と比べると少し木自体が高くなったかな、などと見回していると、舗装された道の途中にぽっかりと開いた空間があった。
どうやらそこは何処かへ続く為に作られた脇道のようだった。道は人が一人歩ける程度の幅しかなく、土が剥き出しのままでごつごつと張り出した木の根や岩が平坦さを失わせている。しかし茂った枝や密集した雑草が行く手を阻んでいる訳では無く、誰かが此処を定期的に通っているのは明らかだ。
「こんな道、あったかな……?」
自問しながら脇道の奥へ目を凝らしていると、朧気ながらもぼんやりと忘れかけた記憶がじわり蘇ってくる。ああ、ここは──。
「確か、小さな祠が……」
まだ子供の頃に山中をタケルと探検していた際、そんなものを見た気がする。その時に既にぼろぼろだった祠はどこか薄気味悪く、大した探索もせず立ち去り、その後二度と訪れる事は無かったように記憶している。
「せっかくなんで、行ってみます?」
「あァ? 上はいいのか?」
「別に。目的があった訳ではないですし、何より暇ですし」
行ってみましょう、と率先して歩き始めた私の後ろを、コクウは首を傾げながらついて来る。
「時々変に活動的だよなァ、お前。散歩って言うから来てみりゃァ、ゴツい靴履いてくるわ変な脇道には入るわ──」
「この先に古い祠があるんですよ」
その言葉を聞き、コクウが怪訝そうな声を漏らす。
「祠ァ?」
「ええ。記憶が確かならば、ですが──」
そして私は子供の頃の思い出を簡単に述べ、更に学生時代の専攻が民俗宗教や地方伝承などの民俗学であることを語った。その為に信仰の跡を探して幾つもの山に足を運んだことも。
そんな説明にコクウは納得した様子だった。私は少しばかりの興奮を胸に、しかし幾ばくかの不安がそうさせるかの如く歩みは緩やかなままだ。
と、いささか唐突に視界が開けた。ゆるり曲がった道の先に現れたのは、木々に囲まれて形作られた円型のスペース。直径数メートル程の砂利敷きの奥、朽ちかけた木製の鳥居の向こうに目当てだった祠が辛うじて建っていた。
「ああ、あれです。一応まだ原型は保って──」
そう言いかけた私の肩を、不意に大きな手が掴んだ。驚いて振り向くと、コクウの金色の眼が細められ鋭い光が私の目を刺す。
「おかしいと思ったんだ。……ちょいと下がってろ」
反論する隙も与えず、コクウは私の身体を押し遣り背中に庇うように前に立った。何が、と言い掛けて言葉はそこで立ち消える。私はコクウの肩越に見えた物をしばし認識出来ず、何度か目を瞬かせた。
「やっぱりなァ。この山にゃァ何も居ねェ筈なのに、穢れた匂いがずっと流れてやがったからなァ」
コクウがバサリ腕を振り風を纏うと、渦のように黄金の淡い光が棚引き、それはあたかも鎧の如く錦の装束となって彼の身体を彩る。最後に一筋鋭く走る金色の線が錫杖の体を成し、重みを取り戻すと同時にコクウの右腕が、しゃらん、と音を立てるそれを掴んだ。
「さあ、此の虚空夜叉の縄張りでふざけた呪いの真似事なんざァやらかした罪、──思い知らせてやらァ!?」
そして堂々と見得を切るコクウの前方、黒く人型に渦巻く霧と、まだ青い紅葉の木々から垂れ続ける赤黒い地の色に、私は言葉を失いただ茫然と立ち尽くすのだった。
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ようやっと何かが起こり始めました。
オカルトとサスペンスとホラーとミステリー、色々盛り込んだ感じにしたいです。する予定。
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