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甘苦  作者: 上坂ふらり
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榊栞

「麗也、ご飯できたよ。」

 重いまぶたを開ける。いつのまにか眠っていたらしい。ベットにから勢いよく降りて階段を降りる。テーブルの上には卵焼きが湯気を立ち上らせ、ふわふわと踊っている。

「夜ご飯に卵焼きってのもなんだから他にも適当に作ったけどなんか……朝ご飯みたいになっちゃったね。」

栞は笑いながらそう言った。確かにテーブルの上にはザ朝食みたいな品目が並んでいる。

「そんなことどうでもいいよ。早く食べよ。」 

 栞を急かすと二人一緒に手を合わせた。

「いただきます。」

 それが合図のように僕は卵焼きに手を伸ばす。箸で掴むとぷるぷると揺れる。誘惑に負けたぼくは一口でそれを頬張る。ふわっとしたもので全身を包まれたあと優しい甘さで一気に満たされる。窒息する感じだった。

 口を開けながら息をしていると栞がちゃんと冷ました?という言葉でなんとか地上に上がれた。熱いのを我慢してなんとか飲み込むとソーセージを食べていた栞がまじまじと見ているのに気付いた。

「味、どうだった。」

「美味しかったよ。お母さんとはえらい違い。」

 母は卵焼きには塩を入れるのだがそれがどうしてもぼくは苦手だ。

「そっか、よかった。」

 今までに何度か栞が作ったご飯を一緒に食べたがこんな風に味のことを聞いてくることなんてなかった。

「どうかしたの?」

 言うつもりはなかったがいつのまにか口から漏れていた。

「どうもしてないよ、ただ久々に作ったから味が変わってないかなと思って。」

「そう、ならいいけど。」

 問い詰めたい気持ちを抑えてもう一つ卵焼きを食べる。動かなくなった卵焼きはどこか塩っぽい味がした。


「麗也、どうしたんだよ。そんな怖い顔して。」

 一時限目の数学が終わって一息着いていた時のこと。一番声をかけて欲しくなかった奴に声をかけられて心底うんざりする。人の気持ちを少しは考えろこのバカ。

「なんだよ一番声をかられたくなかった奴に声をかけられたような顔しやがって。」

 前言撤回、人の気持ちを考えんなこの天才。

「色々とあってな。」

「おぉ、美伶に未練でも残ってんのか、まぁ人は失ってから大切さを知るっていうしなぁ。昨日の放課後会ってたんだろ。」 

 不思議そうに見返すと

「あぁ、すみれが教えてくれたんだよ。あとで謝っておけよ、なんか怒ってたから。」

 すみれめ、あいつ以外に口が軽いんだな。

「麗也くん、掃除サボるなんて許せない。拓也くんもそう思うでしょう。まったくもう!」

 数学はパートが分かれていてたまたますみれはいなかったが、いたら逆鱗を触れるところだったと思うほどのクオリティだった。

 四時限目の体育が終わった後、急いで購買に向かった。その途中でどこからか視線を感じた。美伶と僕から分かれたことを知った女子が見ているのだろうと気にしなかった。 

 うちの学校の購買はメロンパンが特に美味しい。5分すれば売り切れるぐらい人気なのだ。

 購買に着くとそのメロンパンはひとつだけ残っていた。やった、と思わず声を漏らしながらメロンパンを取ろうとすると肩を誰かに強く叩かれた。誰かと思って振り返ると、そこには誰もいなかった。そのあとグシャとビニールが握り締められる音が聞こえた。ハッとして振り返るとあのメロンパンはとられていた。当たりを見渡しても全員がメロンパンを持っているので誰がやったかわからない。高校生にもなってこれか。と悔しさよりも失望が優っていた。それはメロンパンを横取りしたのは女子であったこと、そしてその人から漂ってきた匂いが美伶とよく似ていたのがわかってしまったからだ。


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