神田麗華5
今、何時ごろなのかわからない。何も考えず、自分の部屋に閉じこもったからだ。机の上にはしけったスナック菓子が大量に残っている。カーテンが閉まっている部屋のベッドの上で僕は人形のように固まっていた。
僕はスマホの着信音で起きた。
「もしもし……」
「もしもし、麗也くん?」
ゾワっとした。電話は麗華からだった。
「今どこにいるの、約束したよね?」
「ごめん、急に体調悪くなっちゃって。」
「そうなんだ、連絡がないからどうしたのかなと思って。」
「約束したのにごめんね。」
「それはいいのよ、でもさ、心配だから麗也くんの家行ってもいい?」
嫌だ。
「いや、それは大丈夫だよ。明日はいつもどおり学校に行くし。」
「でも,心配なんだよ。」
これは本心のように聞こえた。しかし、どうしても一人でいたかった僕はどうすればいいか悩んだ。
うかつには追い返せない。海堂愛菜のこともあるし、どうすれば——
「ピンポーン」
インターホンが鳴った。
「ごめん、そういえば今日、お父さんが帰ってくる日だから。」
バレバレの嘘をついてごまかそうとした。しかし、僕は浅はかだった。冷静に考えたらこんな時間にインターホンを鳴らす人なんて数えるほどしかいない。近所にはお母さんお父さんもいないことは知られている。なら誰が?
スマホを耳にあてながらガチャとドアを開ける。全身から血の気がひいた。思わず落胆の声が出る。
「ありがとう開けてくれて。」
右耳にはノイズの混じった声が、左耳には生きた生々しい声がそれぞれ鼓膜を揺らしていた。
インターホンを鳴らしたのは冷夏だった。
僕は呆然とした。
どうやってここを知った?
ただ、その疑問はすぐに解消された。麗華の後ろにはインフルエンザのはずのすみれがいたから。
「お邪魔します。」
礼儀正しく挨拶をして二人が家に入る。リビングには入らせたくなかった僕は自分の部屋に案内した。
「綺麗な部屋ね、男子の部屋とは思えないわ。」
僕が下に行って飲み物を取りに行こうとすると、すみれがそれを制して大きなビニール袋を僕に向けて差し出していた。
中にはペットボトルとスナック菓子が入っていた。
「……ありがとう。」
「うん。」
「お前、インフルエンザじゃないの?」
「違うよ。昨日はインフルエンザの検査に行って、うちの高校って検査だけでも公欠になるからさ、でも今日は普通に咳が出てたから休んでたんだけどね。」
ただの拓也のいい間違えか。
「麗也くんに言いたいことがあるそうなの。」 麗華がお菓子と飲み物を机の上に広げながらそう言った。
すみれが僕に僕に言いたいこと?
あの夜のこととしか思えない。
僕は思い出して少しはにかんでしまった。
「私、昨日栞さんに会ったの。」
なんて言った?
想像だにしなかった言葉が聞こえて顔を歪めた。
すみれの言葉が異国の言語のように聞こえた。ただ、その中の栞という言葉だけが意味をなして聞き取れる。
混乱してている僕を置いてすみれはまた口を開いた。
「前から気になっていたことがあってね。麗也くんさ、栞さんの話になると少し声の調子が変わるよね。最初はお姉さんを大切にしているんだなとしか思わなかったけど、だんだん違和感が大きくなっていたの。」
耐えられなかった僕は一旦すみれを制した。
「どうしたの麗也くん?」
どうしたもあるか、いきなり家に押しかけて来たと思ったらこんな話をきかさせられる。ふざけんな!
「……そもそもさ、なんですみれと麗華が一緒にいるの?」
本当は二人を家から追い出したかったのだが、そんな魔法のような言葉だけがあるわけでもなく、話を逸らすことしかできなかった。
「友達だからよ。」
それに関しては麗華が答えた。麗華はすみれが話している間ずっとスマホをいじっていた。
友達ってこんなんだっけ?
当のすみれは口をキュッと結んでいた。
どうも空気が悪くなって僕はスナック菓子を一つ取って口に放り込む。小学生の頃よく食べていたもので結構好きな味だったのだが、何故か今食べたのは不味かった。それが僕の好みの変化によるものなのか、この尋常じゃない空気空気のせいなのかわからなかった。
麗華が渡してくれたジュースを飲んだ後でまた、すみれが話し始めた。




