29 雑談1
このエッセイは上手い具合に、ほとんど誰にも読まれていないであろうと思われるだけに、なんでもかんでも、需要のないことでも、思いのままに書けて良い、と思う。そういう状況はなかなか作ろうとしても作れないものだ。物書きとはいえ、不特定多数の人の目に触れられていると思うと、変な緊張とか、見栄えを気にするといったことになって、なかなか思いのままには書けないものなのだ。
今回は、好きなことを好きだけ書いてしまおうと思う。まず、第一に僕の作品は、ミステリーではあると思うが、ずいぶん変わり種で、一応、本格ミステリーに分類されているのかもしれないが、正確には変格派ミステリーの類だと思う。謎解きが主眼にあるものが本格なわけだから、ヒューマンドラマやキャラクターや文学性を謎解きよりも重んじた場合は、それは変格派ということになると思う。僕のミステリーは、謎解きが漬け物程度にしか入ってこないし、大部分は本筋からの脱線である。こういうのは、本格ミステリーの書き手は絶対にやってはいけない。でも、僕は脱線がメインだから、実は変格ミステリーなのだ。それが本格を名乗ることになったのは、ひとつにはトリックがわりと物語に入ってくるからだろう。そこは分かっているのだ。トリックをなくしてしまうと、読者の期待に答えられないだろうというぐらいのことは。僕は、芸術性を高めたいなどと日頃語っているが、実は大衆娯楽がわりに好きなのだ。だから、読者にとってトリックがあると面白いのなら、いくらでもトリックを考えて入れられる人なのだ。そこはまったく抵抗がないのだ。トリックの創作法は、高校生までに構築したもの以外、もっていない。向上もしていない。心理トリックが好きで、あと叙述トリックも自作では絶対にやりたくないが、読む分には好きである。機械トリック、物理トリックはわりと嫌い。でも、作中で試したことは何回かある。
ちなみに僕の作品は、基本的に心象文学なので、事物のリアリティーというものにはまったく興味がない。リアリティーといっても、心理的なリアリティーは興味がある。だから、ミステリーとはいえ、警察官が突然、宇宙に行ってさつまいもを食べ始めても構わない、と思っている類の人間である。そこのところの頭の硬い部分をポカリとやりたいと思っている人間である。シュールなものにも興味がある。ほとんど読まれていないが、僕の詩はシュールの影響を受けている。だから、警察小説とか、推理小説には本来向いていない。実際、推理小説やミステリーでやってはいけない展開を今まで幾度となく書いてきた。おかげで仲間がいない。
本来、ミステリーのストーリー展開には自由度が低いと思うので、これでは精神を表現できないと思って、結果、ここまで抑制をゆるくしてきた。それで「紫雲学園の殺人」では思いきり、自由なミステリーのあり方で描いた。あれは僕の中では代表作だ。
ミステリーらしくないミステリーを書いているとして、僕の持論を語ると、ミステリーの主眼は「謎解き・真相」だというのが普通の見解であるとするならば、僕は「謎」そのものがミステリーであろうと思う。ミステリーは、キャラクターを動かすエンジンの役割を担っている。ミステリーは、ストーリーを支配しているわけである。ストーリーはキャラクターの精神領域を掘り出すためのものだが、それは何の力も加わらずにいると次第に停滞する。そこで「謎」が物語を突き動かすのである。彼らが活躍するのは魅力的な舞台の上でなければならない。だから、空間の設定はもっとも重要なものとなる。さて、そうなると真相はどういう位置付けになるのだろう。それよりも、僕が気になっているのは、謎と真相だけでその過程にゆとりがないミステリーである。それは問題ではないかと思う。実は問題でもなんでもないのだが、仮にそれが問題であるとするならば、僕がミステリーの面白さだと思っているのは「謎」でも「真相」でもなくて、「謎について悩んでいる時間」なのである。これもあまり、一般的でないかもしれないが、真相が当たっているとかどうとかそんなことは僕にとってはあまり関心のないことで、それが解けてしまう前にどれだけ楽しく悩めるか、ということである。フラストレーションが溜まるけど、それは快感なのである。知恵の輪は外れてしまうと大したものではなくなる。そういうことだ。そして、実はあまりにも論理的な実証主義的な推理は、実際、楽しくないと思っている。それができる人は楽しいのかもしれないが、僕レベルの人間は、ゴシップとかを好き勝手に妄想しているぐらいの適当なものが一番、楽しい。だから、心理的な推理というのは面白い。動機から推理してみると、けっこう妄想できて面白い。しかし、本の外側からでは、足跡や鍵の形状までの精密な推理はぶっちゃけ難しい。読者にゴシップをあれやこれやと妄想させるように推理させることが、非常に世俗的な感覚であるがゆえに、推理を体験させる上では、一番上手い手なのではと思う。というのは、実際、僕の好みの話である。
そして僕は寝ることにした。おやすみなさい。




