表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/65

7章 2話 神の威光

 翌朝、俺とアプロテは、教皇からの使者に案内され、中心区に向かう壁を衛兵に誰何(すいか)される事すらなく抜ける。

 目の前には、英雄物語の中で英雄王カーンが建てたとされている、要塞のように無骨なアドレアの城と、その隣にひたすら高い塔が四本組み合わさったような教会本部、巨大な二つの建物しかなかった。


 何より印象的なのは、教会の巨大な扉が開きっぱなしになっていることだった。


「教会は来る者を拒みません」


 俺が扉を不思議そうに見ていたのに気がついたのか、使者が説明をしてくれる。

 その開きっぱなしになっている巨大な扉に使者は入り、広間奥の教壇脇の扉を抜け、聖家族教会本部の一室に俺たちを案内する。


「お連れしました」


 使者が扉をノックして告げると、中から通すように返事があり、そのまま扉を開けて、俺とアプロテだけを通す。


「ようこそおいで下さいました。私はアドレア聖家族教会の司教、アブロール6世。以後よしなに」


 長いテーブルの真ん中辺りに座っていた男、教皇アブロールが立ち上がって俺たちを笑顔で迎える。

 アドレアは聖家族教の総本山であり、そこの司教であるアブロールは、教会の最高位、教皇だった。

 その姿勢や言葉は柔和な中に威厳を示そうとしているのだが、どことなく落ち着かない様に見えるのは、視線が俺とアプロテの間で泳いでいるからだろうか。


「今、アプロテ様にお仕えする者をお連れしますので、しばしお待ち下さい」

「ん」


 アプロテは一言だけ声を出すと、何も言わずに進み、長テーブルの一番端、上座に座る。

 俺はそのまま後ろに立とうと思ったが、アプロテがいきなり立ち上がり、並んでいた椅子の一つを取り、上座の椅子の横に並べ、座面をぽんぽんと叩く。

 俺は思わず横目で教皇の顔を伺うが、その顔には僅かに困惑が浮かぶが、それも一瞬のことで、又元の柔和な笑みに戻る。


「本当に下界は面倒だわ。こんな椅子一つ動かすのに、体を使わなければ動かないんだもの」


 口では面倒くさそうに言いつつ、アプロテはクスクスと笑う。そんな事ですら、今は楽しくて仕方ないようだ。


「よろしいのですか?」


 俺がアプロテの横に同列で座る事で、アプロテの威光に傷が付くような気がしたのだ。


「神に仕える者は、どんな形であれ、神より力の恩恵を受けているわ」


 アプロテが小声で、どこを見るというわけでもなく、顔を正面に向けたまま、俺が見たこともない無表情で語る。


「彼は、私のお父様に仕え、僅かではあるけれど、その傘の下に入って恩恵を受けているの」


 アプロテが、表情を変えずに俺を見る。


「国王が配下に向けていつも遜って(へりくだって)いたり、臣下が王に向けて不遜な態度をとるような国は、どうなると思う?」

「先は長くない、でしょう」

「あなたは私の唯一無二の使徒。そういうことよ」


 アプロテの言いたいことは理解できた。教会にいる人間に取り、アプロテは信仰の対象そのもので、そのアプロテの使徒である俺も、畏敬の念を持って接するべき存在だと。

 そう言われて頭では理解できても、すぐに慣れることは難しい。


「ええい、何をしている」


 教皇の柔和な表情が崩れ、少し苛立ったように扉の方を見る。どうも先ほど言っていた「お仕えする者」と言うのが、遅れているようだ。

 しかし、本来なら聞こえないような小さな声だったが、アプロテから力を貰ったそのとき以来、体のあらゆる部分が鋭敏になっているようで、つぶやくようなその言葉も捕らえることが出来ていた。


 アプロテが来るためか、人を遠ざけているのだろう、教皇は「少しお待ち下さい」と言うと席を立ち、自ら扉を開けて外へ出る。


「な、何をしている!」


 余りに驚いたのだろう、教皇の張り付いたような柔和な表情が崩れ、驚愕と困惑に取って代わられている。

 扉を開けたまま廊下へ姿を消した教皇の行動が、余りにも不可思議だったため、思わず俺も扉に近寄り、廊下をのぞき込んでみる。


「どうしたというのだ!」


 そこには、廊下の遙か向こうに伏せているシスターに、駆け寄る教皇の姿が見えた。


 あ、この光景、見たことがある。というか、多分、知っている人だ。

 俺は少し迷ったものの、教皇の慌てっぷりが少し可哀想になり、廊下でひれ伏したまま動かないシスターアンナの元へ駆け寄る。


「シスターアンナ、私です、ポラルトのラフエルです」

「あぁ!聖者ラフエル様、光が!この建物を覆わんばかりの光が!」


 僅かに顔を上げかけたが、またまぶしいと言うより恐れ多いとでも言うように、また伏せてしまう。


「あ〜、ちょっと待ってね」


 俺はおろおろする教皇とひれ伏すシスターアンナを残し、部屋に戻る。


「アプロテ様」

「何が起こっているの?」


 アプロテがその可愛らしい眉を顰め(ひそめ)る。


「シスターアンナは覚えておいでですか?」

「あなたの守護神選定の場に、行かせた子達の一人ね」

「あ、やっぱりアプロテ様の手引きだったんですね」

「むぅ!そうでもしないと、あなたお父様を選ぼうとしていたんだもの!」

「そんな事はいいんですが」

「そんな事じゃないし!」

「そのシスターアンナがそこまで来ているのですが、どうもアプロテ様から光のようなものが出ていると」

「なんだ、そんな事」


 そう言ってアプロテは少し集中するように目を瞑る(つむる)


「どう?大分少なくなったはずよ」

「どう言うことなんですか?」

「シスターアンナは、神の威光をわかりやすく地上に伝えるため、力を少しだけ与えられた伝道師なのよ」


 俺はその答えで理解したわけではなかったが、まだ廊下で伏せているであろうシスターアンナの元へ戻る。


「シスターアンナ、どうですか?」

「おぉ!光が穏やかになり、まるで、大いなる慈愛に包まれたかのような」


 アンナが感動の余りか、涙を流して祈りはじめる。


「ラフエル殿、これは?」


 突然泣き出したアンナに動揺する教皇アブロール。


「あ〜、とりあえず、部屋へ移動しましょう」


 教皇と二人、両側からシスターを抱えて部屋へ移動すると、そのシュールすぎる光景にだろう、アプロテがすごく驚いた顔をする。すぐに取り繕って澄まし顔に戻していたが。


「醜態をお見せして申し訳ありません、こちらはシスターアンナ、教会の奇跡認定者です」

「あぁ!何という神々しきお姿!初めてそのかいなをお窺い(うかがい)してより、この人生がどれほど幸せに満ちたものであったか!」

「シスターアンナ!落ち着きなさい!」


 教皇に両肩を捕まれて、そのまま強制的に着席させられるアンナ。俺はその間にアプロテの横に戻る。


「普通伝道者は、もう少し皮肉屋みたいに落ち着いた人が多いのだけれど」


 アプロテが俺に囁くように言う。アンナ以外にも伝道者がいるという事実に少し驚いたが、よく考えれば奇跡認定者は、教会全体で10人近くはいたはずで、そのほかの認定者をアプロテが知っていても不思議ではなかった。


「それで、どうなのだ、本物なのか」


 また教皇のささやき声が聞こえてくる。本人は聞こえていないと思い込んでいるはずなので、どういった態度をとるか迷うところだ。


「教皇様、その質問それ自体が不敬となります

「ということは、(まこと)なのだな……」


 教皇がその場で、崩れ落ちるように跪いた(ひざまずいた)と思った瞬間、そのまま流れるように地面に伏せる。


 アンナに続いてあんたもかい!


「数々の無礼、不敬、真に申し訳有りません」

「良い。ただの人の身では詮無きこと。顔を上げられよ」


 アプロテが一生懸命女神ぶっているのが、伝わってくる。


「うるさいわね、久しぶりだから調子が出ないだけよ」

「ぐふっ!」


 少しくすっとしたら、小声で反論されてわき腹をつつかれた。


「どうかされましたか」

「い、いえ、お続け下さい」


 ほら、変に思われた。


「わかりました。……もしよろしければアプロテ様に、懺悔をさせていただければと」

「え、懺悔?あ、うむ、するが良い」


 今度は笑わないようにアプロテから顔を背けたが、又わき腹をさっきより強くつつかれた。やめて下さい、脇弱いんです。


「私は何の力も持たず、神々の威光をその目にすることも叶わないにもかかわらず、教皇という地位にあることに疑問を持つ日々でした。そんな私の在位にこのような僥倖(ぎょうこう)を賜り、我が人生にも光が射すような思いであります」

「うむ」

「アプロテ様!この先を見る目を持たぬ哀れな者に、使命を!」

「え?」

「え?」


 アプロテと教皇が、お互いにポカーンとした表情で見つめ合う。

 使命。神に仕える者が、神よりの啓示により、果たすための目標。

 主に夢などで示され、教会の場合は奇跡認定者により使命として認定される。


「あぁ、そう、使命。そうね信仰を必要としているわ」力を取り戻すための。

「それは常に行っておりますが、教会圏の子神教会を娘神教会に建て替えましょうか」

「それは駄目。今まで通りお兄様が主体で良いわ」

「では?」

「その前に――」


 アプロテは俺の右手を掴むと、机の上に載せる。


「これを見て」

「これは……ラフエル様の指が、壊死しかかっているのですか?」


 俺の右手の指、第2関節より先がすべて、鬱血しているかの如くドス黒く染まっていた。


「これは、呪いよ。あの使徒がロウレスより引き出した力を、力で押し返した代償」

「!!我が命を救っていただいた、あの時の!」

推敲してる時間もありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ