旅路002 何もねぇ!
風が吹いた。
草や、湿った土の匂いがする。
目を開ける。
最初に見えたのは、茜色に染まった空だった。
壊れたビルの隙間へ、太陽が沈んでいく。
「……おぉ」
思わず漏れ出た声に、自分でも少しびっくりする。
周りを見渡す。
ひび割れた舗装路。
その合間から生える草。
錆びた柵。
少なくとも、町ではない。
もっとも、町を選ばなかったのは自分なのだが。
「とりあえず、設定弄くるか」
メニュー画面を開くと、いくつか項目が並んでいた。
装備
行歴樹
設定
ログアウト
「……持ち物欄無いんか」
気にはなったが、先に設定を済ませる。
体力バー表示 OFF
判別アイコン OFF
特段変わったことと言えば、この二つをOFFにしたくらいだろうか。
これはゲームだと思いたくなかった。
それから、NPCやPLをアイコンだけで判断したくなかった。
その二つから、表示をOFFに変えておく。
次に装備を確認する。
初心者用服
初心者用ズボン
終わり。
「武器も無いんか」
この時点で、一般的なVRMMOから外れているのは理解できた。
パッケージにでかでかと、
『不便を尊べ』
なんて書くわけだ。
さて。
問題のインベントリだが。
近くに落ちていた木の枝を拾う。
『木の枝を入手しました』
表示が出る。
しかし、手に持った枝は消えない。
入手はしているらしい。
けれど、インベントリに入る様子も、インベントリそのものが出てくる様子もない。
「……なるほど?」
今度は近くの石を拾う。
右手に木の枝。
左手に石。
両手が塞がった。
武器になるかもしれないと思うと、どちらも手放したくはない。
つまり現状。
自分で持てるだけしか持てないわけだ。
「ほんまに無いんじゃなぁ」
ピロン。
電子音が鳴った。
「ん?」
辺りを見る。
特に変わったところは無さそうだった。
メニュー画面なら何か情報があるかと思い、もう一度開いてみる。
先ほどまでの項目に加えて、
チュートリアル
の文字が増えていた。
確認する。
『アンカーに接続してください』
以上。
「……以上?」
どこにあるのか。
そもそもアンカーとは何なのか。
何も書かれていない。
「不親切じゃなぁ」
チュートリアルなら、もう少し手解きをしてくれてもいいだろう。
そう思いながら周りを見渡す。
「おっと」
メニュー画面へ目を戻す。
先ほど気にはなっていたが、触らなかった項目。
行歴樹。
開いてみる。
何もない。
強いて言うなら、何かの芽らしきものが一つ生えている。
それだけのページが表示された。
「なんじゃこれは」
分からない。
パッケージにすら、こんなものがあるとは書かれていなかった。
アンカーも分からない。
行歴樹も分からない。
持ち物欄もない。
武器もない。
手元にあるのは、木の枝と石だけ。
「不便と不親切は違うじゃろうがぁ……」
とはいえ、ここに立っていても何も分からない。
遠くを見る。
夕日を背にした、崩壊したビル。
今のところ目印になりそうなものは、それくらいだった。
「……まぁ、行ってみるか」
木の枝と石を持ったまま。
とりあえず、崩れたビルの方へ歩き出した




