旅路001 絶景にであう
初めまして。恐らく一般的なVRMMOではないと思いますが、完結させられたらいいなぁと言う考えでボチボチ進んでいきます。
いつも通りの町並みだった。
見慣れた道路と、見慣れた建物。
走る車も、歩く人も、いつもと大して変わらない。
いつもと変わらない電気屋。
その前を通る。
店先に置いてあるテレビを、ふと眺める。
ちょうどCMの始まりだった。
画面の中央に収束する光。
一瞬の暗転。
その直後、爆音と共に光と風が走る。
足が止まった。
土を巻き上げ、木々を根元から抜くほどの爆風。
家の屋根が剥がれ、壁が崩れ、道路を走っていた車が投げ捨てられた玩具のように飛ばされていく。
頑丈な高層建築すらも傾いた。
暮らしも。
技術も。
人が積み上げた、栄華を極めた象徴たる総てが。
灰燼と化す。
暗転。
一拍の後。
瓦礫の隙間へ、細い光が差し込む。
差し込んだ光が広がるにつれ、その向こうに崩れた高層建築が見えた。
建物の向こう。
沈みかけた夕日が、ゆっくりと落ちていく。
傾いたビル。
途中で折れた橋脚。
ひび割れた道路を押し広げて伸びる木々。
あれから、幾年か経ったのだろう。
壁面には蔦が這い、割れた窓からも枝が伸びている。
人の消えた建物は、差し込む夕日を拒むことなく、静かに受け止めていた。
風が吹く。
蔦の葉が揺れる。
その隙間から漏れた光が、崩れた床の上を滑っていく。
滅びた町だった。
それなのに。
心を奪われる絶景に見えた。
気づけば足だけでなく、体ごとテレビの方を向いていた。
画面が変わる。
燦々と照りつける太陽。
恐らく、夏だろう。
崖の上から膨大な水が流れ落ちている。
大瀑布。
しかし、その水は谷底にまで届かない。
途中で散り、白い霧となり、風に攫われて立ち消えていく。
相当に引いたアングルだというのに、崖の端も谷底も映らない。
いったい、どれ程大きいのか。
この画面越しでは何も分からない。
鳥が遮る。
翼が画面を覆い、羽根を一枚残して、そのまま通り過ぎていく。
羽根が画面外へ落ちていくと共に、紅く染まる山々が見えた。
秋だろうか。
山の上には、紅葉らしき紅い木々。
その下には、それすらも霞むほどの雲海が広がっている。
カメラが引く。
谷を埋めた雲から、山々だけが島のように浮かんでいる。
朝日が昇る。
山上の木々から伸びた影が、雲海の上へ落ちた。
風が吹くたび、
雲と影が、ゆっくりと揺れ動く。
カメラが動く。
崖の縁を越え、そのまま雲海へ潜る。
白い霧が画面いっぱいに広がる。
霧が晴れる。
雪が降っている。
今度は冬か。
それとも、一年中寒い場所なのだろうか。
見渡す限りの大針葉樹林。
木々の向こうにも、まだ木々が見える。
雪と森。
景色だけなら、一番ありふれているかもしれない。
ただ。
広大だった。
どこまで歩けば抜けられるのか、見当もつかない。
手前の雪面に足跡がついた。
一つ。
深く雪を踏み抜いた跡。
二つ目がつくよりも早く、場面がひっくり返る。
巨大な魔物。
盾を構える人影。
雷や炎。
崩れかけた橋を駆け抜ける者たち。
土煙。
金属音。
ここでようやく、一息ついた。
それまでは息をすることすら忘れていたのかもしれない。
戦闘も、このゲームの見どころなのだろう。
多分、ゲームとしてもこちらを見せたいはずだ。
それでも、目に残っていたのは。
夕日に染まる廃墟。
霧になって消える大瀑布。
それに続く景色たちだった。
気がつけば、また場面は変わっていた。
水底。
深海といっていいほど、とても、とても深い水の底。
光はほとんど届かない。
沈んだ建物の輪郭が暗闇に溶けている。
崩れた鉄塔の間を、魚の群れが静かに抜けていった。
画面がゆっくりと上を向く。
遥か頭上に水面がある。
薄い膜のように揺れている。
その向こう側に、満天の星空が広がっていた。
水底から見上げる星は、水面の揺らぎに砕かれ、またひとつへ戻る。
魚影が横切る。
星が隠れる。
魚たちが去る。
やがて、水面の揺らぎが少しずつ静まっていった。
星々が動く。
一つ。
また、一つ。
見えない線に導かれるように並び、結ばれていく。
星座。
そう思った時には、その形がさらに変わっていく。
ぼんやりとしていた輪郭が次第にはっきりとし、周囲の建造物が暗闇へ溶けていく。
最後に残った星々が、文字を描いた。
ONE MORE NEW EPILOGUE
一拍遅れて、その下に文字が現れる。
好評発売中
CMが終わった。
車の走る音が、意識に戻ってきた。
誰かの話し声。
自動ドアの開閉音。
店内から流れる、別の宣伝。
それでも、すぐには動けなかった。
次のCMが流れ始めたテレビを眺めながら、先ほどのゲームのことを考えていた。
自動ドアが開く。
店から出てきたのは、がたいの良い男だった。
背が高いというより、分厚い。
半袖から伸びた腕も太い。
胸元には店員用の名札が留められていた。
名札には、
椿
の文字。
けれど、それすら気に留める余裕がない程度には浮き足立っていた。
男は一度こちらを見る。
次に、CMが流れていたテレビを見る。
「気になるなら、見ていくかい?」
突然声をかけられ、そちらを見る。
「……中を?」
「見るだけでも構わないよ。まぁ、何を見ていたかは俺は知らないけどね。多分、在庫もまだあると思うし」
男は持っていた幟を台に差し込み、店内へ戻る。
少し迷って、その後を追った。
店に入ってからのことは、あまり覚えていない。
気づけば会計を済ませ、店を出ていた。
手には、先ほどのゲーム。
パッケージには、あの大瀑布がプリントされている。
家に着く。
道中のことも、ほとんど覚えていない。
浮き足立つ心を抑えて、靴を脱ぐ。
自分の部屋へ戻り、中身を取り出した。
ゲームを起動する。
説明に沿って初期設定を済ませる。
PLAYER NAME
四月一日 朔
わたぬき さく
本名、さすがにマズい。
朔。
月の見えない夜。
黒。
猫。
kuroneko
決定を押す。
その名前は既に使用されています
「そうか。」
少し考える。
末尾を消してみる。
kurone
決定。
今度は通った。
深い意味なんて要らなかった。
続いて、簡素な確認画面。
OMNEにログインしますか?
YES / NO
画面の向こうにあった場所が、本当に存在するのか。
自分でも、あそこに行けるのか。
まだ何も分からない。
「まぁ、行ってみりゃ分かるか」
YESを選ぶ。
短い電子音。
続いて、もう一つ画面が現れた。
開始地点を選択してください。
町から始める
誰も知らない場所から始める
二つの選択肢。
町から始める。
恐らく、こちらが普通なのだろう。
もう一方を見る。
誰も知らない場所から始める
しばらく、その文字を眺めた。
どこなのかも分からない。
何があるのかも分からない。
「……まぁ、こっちじゃろ」
選択する。
短い電子音。
LOGIN...
文字が薄れていく。
真っ暗な空間のなかで。
風が吹いた。
何かあればコメントしていただければ返信したいと思います。




