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魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る  作者: kadochika
6.人湖、擾乱

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6.12.今のうちに

 地底湖の畔でファリーハが愛を告白する傍ら、黒い鎧からプルイナが言った。


『残念ですが、悪魔が接近しています。それと……』

『すまないが、当機はここまでのようだ。エネルギー残量が、省エネルギーモードでも残り30分を切った』

「あの大砲を使ったからか……!」


 エクレルの報告に、アケウは一転、再び愕然とした。


『本機の残量を分けようと提案はしたのですが』


 プルイナがそういうと、エクレルが補足する。


『判断が難しいところだが、当機は黒い鎧の活動時間を温存した方がいいと考える。

 アケウ、お前は黒い鎧の交代要員になるのがいいだろう』

「そんな……何かないか、何か……?」


 そこに声を上げたのは、メイエだった。


「それならば、我々に提案がある」


 それは人間の声ではなかったが、確かに言葉を聞き取れた。

 恐らくは、地底湖が湖水を振動させて音を出しているのだろう。


「悪魔を退けてくれたこと、まずは礼を言わなければなるまい。ありがとう、異邦人たち。

 だが再び悪魔が近づいているのならば、もはや我々にはここにいること自体が危険だ」

『魔術紋様の設置は終わっていますので、ひとまず転移してしまいましょう。

 インヘリトでの受け入れ準備には一週間以上かかる見込みですが、それでもこのままよりはいいかと』


 プルイナの返答に、メイエが応じて言う。


「それも解決するための提案だ。我々は、お前たち異世界の鎧に融合しようと思っている」

『融合? 融合するとどうなる?』

(魔術炉を形成する。すでにホウセやファリーハの記憶から読み取らせてもらったが、お前たちの寿命を延ばすことができるだろう)


 疑わしげなエクレル、更に説明するメイエ。

 アケウもそこに、疑問を投げかけた。


「本当にそんなことができるのかい、メイエ?」

「お前たちの描いた転移の魔術紋様を描き替えて、既に準備はできている。

 元に戻るのは難しく、悪魔の贄になるのも御免だ。ならばせめて、お前たちの力になりたい」

『少し待ってください、検証の必要が――』


 すると、湖水が渦を巻いて巻きあがり、異世界の鎧たちに襲いかかった。

 黒い鎧と白い鎧は無人のまま、半ば反射のように防御を固める。

 しかし、先に攻撃を受けた時とは勝手が違うのか、大量の湖水はすさまじい勢いで鎧へと吸い込まれていく。


「お、おい待てお主ら! わしはどうなる!?」


 エスコドゥスが悲鳴を上げるが、湖の勢いは止まらない。

 二つの制御人格は、未知の事態に困惑しつつも電子通信を行った。


『何だ、この感覚は……? これが、魔力だとでもいうのか!?』

『分かりません。しかし、不明なデバイスが接続されて、ドライバーもなしに本機に電力を供給しています』

『残り稼働時間――不明……?』


 それは、プルイナとエクレルにとって、この世界で魔術を現象として観測して以来の驚きだったと言える。

 数分と経たず、大量の湖水は全て鎧の中へと入り込み、地底湖は広大な洞窟となった。

 ディゼムが驚愕する。


「マジかよ……」


 鎧たちの内部で、メイエが言った。


(これで我々は、お前たちの力の源となった。

 以前ほどではないかも知れないが、存分に振るってくれ)

『……互換性が不明瞭なのは不服ですが、しかし、これは利益と言えます。

 質量の増加もないようです。ありがとう、メイエ』

『まぁ、正直なところ、稼働時間の延長はありがたいが……

 残り時間が不明なのが不満だ。

 このエネルギー、自己複製プリンターに分け与えることもできないようだしな』

(人間が己の血の中に魔力を生み出すように、お前たちも我々を介して魔力を生み出すことが可能となる。

 あとは、お前たち次第だ……我々は、新しい住処に慣れるために、しばし眠りにつく……)

『…………メイエと思われる通信源、沈黙しました』

『勝手なことを……』


 鎧たちは彼女たちの内部に起きた事情を、一行に説明した。


「え……じゃあわしは……?」


 愕然とするエスコドゥスに、ファリーハが告げる。


「……申し訳ありませんが、インヘリトに避難してもらうしかありませんね……

 児童一人でしたら、何も問題ありませんので」

「えぇい、児童ではないわっ!」


 そして彼らは魔術紋様を描画し、保護セルごとインヘリト王国へと帰還したのだった。


***


 経緯を総括すると、次のようになる。

 150年前、その地に避難した人々が、魔術の作用で変化・結合し、広大な地底湖・メイエとなった。

 ファリーハたち旧世界探査隊はそこに向かい、意思を持つ湖となったメイエに接触する。

 しかしそれに先行して悪魔が接触しており、メイエは悪魔に支配された湖となって、彼らに襲い掛かった。

 それによってホウセ隊員とファリーハ王女がメイエに溶解するという事態が生じるも、一行はこれを解決し、二人は元に戻った。

 増派も含めた悪魔の部隊に打撃を与えつつ、メイエが異世界への鎧への融合を強行するといった予定外はありつつも、探査隊は取り残された児童一名を保護し、帰還した。


(……少々荒唐無稽ではあるけど、映像もあるし、信じてもらうしかないか)


 ファリーハは報告書をまとめつつ、嘆息した。

 連れ帰ったエスコドゥスの処遇については、正直なところ迷った。

 魔術師としての実力は確かだと思われたが、働き場所を与えるには外見が女児であることが障害となる。

 だが彼女は旧世界探査事業のことを知ると、自分も多少は力になれると言い出していた。

 後日になるが、助言員として探査隊に加えることを考えてもいいかも知れない。


(いやいや、本人の意向はともかく、児童労働だ何だと言われたら困るなぁ……)


 やはり、見かけだけとはいえ子供を危険な旧世界に連れ出すべきではないだろう。

 次はいよいよウィッシェル――地上から隔絶した技術を持つという、天空の都市へと向かうのだ。

 ファリーハは報告書に日付と署名を書き入れてブロッターを当てると、それをファイルに仕舞った。


***


 異世界の鎧にメイエが融合して、五日が過ぎた。

 一行はインヘリト王国に帰還し、事後にすべきことを始めていた。

 ディゼムの場合は、黒い鎧の稼働状況の確認だ。

 無人地帯の上空を飛行し終えて――許可は得ている――、今の彼らは山岳地帯のふもとに設置された、気象庁の観測所近くに着陸していた。

 ディゼムは状況を、黒い鎧に尋ねる。


「プルイナ、残り時間は不明のままか?」

『はい。本機のQGPコア残量にはまだ余裕があるので、白い鎧ほど深刻ではありませんが』

「次の任務中に突然止まったりしたら困るどころじゃ済まねぇんだが、分からねぇならしょうがねぇか……」

『とはいえ、戦闘レベルの行動は問題なく可能です。QGPコアの消耗はゼロ。

 メイエは思わぬ利益をもたらしてくれたと言えるでしょう』

「……白い鎧と折半したとして、二万五千人分の魔力だろうからな」


 彼はそう言って、その重みに思い及んだ。

 当人たちの希望だったとはいえ、人間に戻すことができなかったことが少々悔やまれる。

 プルイナが、報告を続けた。


『奇妙なことですが、あれ以来センサー機器が変性しています。

 もしかしたら、我々にも魔力を直接検出できるかも知れません』

「それって、いいことばっかじゃねぇ気がするんだよな。

 呪いの魔術の影響も受けるようになったりしねぇ?」

『それらも検証したいので、呪いの使える魔術師の協力も仰ぎたいところです』

「それとなんだが……おいアケウ!」


 ディゼムは近くに佇んでいる白い鎧の中の親友の名を呼んだ。

 アケウが応答して、


「ん、何?」


 その様子が気がかりで、ディゼムは口を尖らせた。


「何じゃねぇだろ、ぼーっとしてたじゃねぇか」

「ごめん、少し考え事をしてた」

「姫様の唇の感触かぁ?」

「それも少し……」

「否定しろよ!?」


 ディゼムは下世話な冗談を打ち返されて戸惑いつつ、アケウに説く。


「次はいよいよ、お高くとまってるっつう空の上の国に行くんだろうが。

 気持ちは分かるがあんまり浮ついてっと、何が起こるか分かんねぇぞ」

「……そうだね」


 彼は頷いて、話題を変えてきた。


「でも君も少し、自省するところがあるんじゃないかな」

「何の話だよ」


 すると、アケウはディゼムに、諭し返すように言う。


「メイエに溶けて危ういところだったのはホウセも同じなんだよ?

 もう少しその辺り、労わってあげてもいいと思う」

「何であいつの話になるんだよ……!」

「トラルタ以来、何だか距離感近い気がするんだよね。

 何が起こるか分からないっていうなら、心残りはないようにしておいた方がいいんじゃないかなって」

「それはお前、俺があいつとデキてるって言いてぇのか」

「そこは君の認識次第っていうか――」

『はいはい、そこまで』

『それ以上は危険だ、やめておけ』


 プルイナとエクレルが通信に割り込んできて、問答を打ち切った。

 ディゼムは念じて、黒い鎧のスラスターを作動させた。


「覚えとけよこの野郎」

「いや、ちゃんと覚えておきなよ本当に……」


 二人はそれぞれの鎧を上昇させて、インヘリト特別市の魔術省官舎に戻って行く。


***


 インヘリト王国の首都にして中心地、インヘリト特別市。

 ビルの立ち並ぶ市街地の中に広がる公園、その中に屋外コンサートホールが設置されている。

 特別市野外劇場と呼ばれる、遷都100年の際に記念事業として建設された劇場だった。

 演劇や演奏以外にも、演説や講演の会場としても使用可能で、落成以来使用が途絶えたことが無い。

 この日はシャーディヤ王女の所属する楽隊(バンド)が開催する、慈善コンサートの最終日だった。

 時刻は夕方を過ぎ、日も沈んだ。

 ステージは、ガス灯と反射板を用いた照明によってまばゆく輝いている。

 動きやすくも派手な衣装に身を包んだシャーディヤが、その中央で聴衆に呼びかけた。

 手に持ったバトンに仕込まれた魔術紋様で拡大された音声だ。


「ありがと~! 次は新曲――

 の、まーえーにぃーっ!?」


 彼女が両手を天へと掲げると、観客席の後方から軌跡を伴って、光が飛んで来る。

 それは、異世界の鎧だった。

 予定表に書かれていなかった演出に、観客が沸く。


「おぉおおおっ――!!」


 飛来した黒い鎧と白い鎧はステージ上空二十メートルほどの高さに静止し、観客の注目を集めてからゆっくりと降りてくる。

 そしてステージの上に静かに着地すると、観客へと敬礼し、次いでシャーディヤたち楽隊に対しても敬礼した。

 それを受けてシャーディヤが再び、拡大された声を発する。


「今日は特別演出として、救世主の鎧のお二人に来てもらいましたーっ!

 人類のためにありがとー、二人ともーっ!」


 ステージ上に置かれていた黒と白のギターが、彼女の手によって同じ色の鎧に手渡される。

 彼女は続けて、観客に宣言した。


「そういうわけで、二人には一曲だけお付き合いしてもらいます!

 改めて行くよぉ~、新曲! 『オディセイ』ぃっ!!」


 演奏が再開されると、鮮やかな旋律と共にシャーディヤが歌い始める。

 曲のタイトルはリハーサル時に変更を主張したシャーディヤの要望に応え、プルイナとエクレルの発案により、太陽系の叙事詩から名付けられたものだ。

 黒い鎧と白い鎧は曲に合わせて演奏する素振りをしながら、それぞれに搭載された拡声装置から音を出していった。

 数分ほどもして演奏に区切りがつくと、鎧たちはギターを返却して再び敬礼し、ステージから空へと去っていく。

 第一王女は大きく手を振って、それを見送った。


「ありがとぉ~、異世界の鎧たちーっ!!

 それではスペシャルゲストの登場で盛り上がった所で、次の曲は――!!」


 コンサートは活況を見せ、夜が更けていく。


***


 そのコンサートから、十日ほど時間を遡ってのこと。

 髪を下ろしてラフな服装に身を包んだシャーディヤが、自室で妹に問う。


「ファリーハ、あなたから話ってなぁに?」

「……実は、コンサートに異世界の鎧を貸し出すという話、やはりお受けしようかと」

「それはありがたいけど……なんかあった……?」


 ファリーハにとって、それは口にしがたい理由だった。

 まさか「無意識に見た幻のあなたに罵声を飛ばしたことで、液体から元に戻ることができたので」、などとは言えない。

 彼女は言い繕った。


「いえ、やはり慈善事業に姿を見せるのも大事かなと……

 短時間ならば問題ありません」

「……それじゃあ、リハの打ち合わせから入るけど、いーい?」

「えぇ、そうしましょう」


 鎧と着装者たちがコンサートに姿を見せたのは、そうした背景があってのことだ。

 そう軽率に貸し出すつもりはないが、この程度なら礼として丁度いいだろう。

 そして時機と見て、ファリーハは切り出した。


「それと、なのですが……姉上」

「なぁに、改まって」

「その……姉上は言っては何ですが、遊び慣れていらっしゃいますよね……?」

「回りくどい、はっきり言いなさい!」


 強く言われて、ファリーハは本題に入った。


「す、好きな殿方がおりまして、でっ、デートをしたいのです!」

「!?」


 シャディーヤのその表情は、率直に言って愉快だった。

 いつも余裕で笑っているような彼女からそれを一時的に奪ったようで、悪くない。

 とはいえやはり気恥ずかしく、ファリーハは率直に告げた。


「しかしわたくし、そうしたことがよく分かりませんので、ご意見などを頂きたく……」

「え、ギャグ?」

「本気です……!」

「……もしかして、鎧を貸す交換条件ってやつ……?

 まぁ、いいけどね……ふーん」

「な、何ですか……」

「何でもない」


 そう言って姉が笑ったのは、嘲笑――ではないような気がした。

 そしてコンサートの打ち合わせと、デートの指南が始まった。


***


「…………」


 時刻は、朝九時。

 ファリーハは姿見で身だしなみを念入りに確認すると、官舎を出た。

 正門の前には、やや気張って洒落た私服に身を包んだ青年が待っている。

 彼女は胸を高鳴らせつつ、彼に告げた。


「お待たせしました、アケウ」

「そ、それじゃあ、行こうか……ファリーハ」


 少しぎこちない彼の手を取って、ファリーハは額に上げていたサングラスをかけた。

 今できることは、今のうちに。

 そうした想いが彼女を、いつもより大胆にしているのだろう。

 二人の男女は連れ添って、市街地へと歩いて行った。


***


 若い異性と共に正門から出てきた第二王女。

 じじ、と小さな音を立てて、魔術撮像機がその姿を捉えた。

 それは、魔術省の官舎の近くに停まっていた自動車の中でのことだ。

 張り込みをしていたカメラマンは、思わぬ収穫に顔をほころばせた。

 堅物の仕事中毒者で知られる第二王女が、男を作って遊びに出かける画を撮れるとは。

 小声で、運転手に呼びかける。


「おい、出せ」


 運転手は無言で頷いて、自動車の外燃機関に点火する。

 が、自動車は発進しない。


「ん……何だ……!?」


 運転手が座席を降りてエンジンを確認すると、そこには霜が降りて、凍り付いていた。


「何だよ、どうした?」


 そう言ってカメラマンも助手席を降りると、


「――ッ!?」


 不意に鋭い一撃が飛び出して来て、彼の持っていた魔術撮像機を貫き、破壊した。

 思わず飛びのき、彼は小さく悲鳴を上げる。


「うぉっ……!?」


 気が付けば、そこには真っ赤な色をした、小柄な全身鎧が立っているではないか。

 それは、女の声で笑って言った。


「へへ、ごめんね。悪いけど、特ダネは無しってことで」


 そして、真紅の全身鎧は空中に飛び出し、どこかへと消えてしまう。

 路面には破壊された魔術撮像機が、無惨な残骸となって散らばっていた。


「マジかよ……!」


 呆然とつぶやく彼らの声も、夏の陽炎にまぎれて消えていく。

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