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いつかの歴史の幕開けを  作者: 星月夢夜
隠者の催し編
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22/22

第22話 手段

皆さんこんばんは、星月夢夜です。

ぬいぐるみって良いですよね。

小さい頃一緒に寝たことがありますが

起きたら、なぜか足元に転がっていました。


では、本編スタートです。

 テセラがいなくなった小屋の中で、アイリスとブラックはその場から動けずにいた。テセラから告げられた衝撃の事実。それは、自分たちの主であるヒビキが彼の手中にいるということ。本当ならば、今すぐにでもテセラを追いかけてヒビキの居場所を吐かせたい。だが、それによって主の身が危険になる可能性がある以上、2人はただ各々の武器を強く握りしめることしかできなかった。


「……アイリスさん」


少し経った後、ブラックが口を開いた。


「えぇ、分かっています」


構えていた槍を下ろし、床に突き立てる。その目には、決意が宿っていた。


「私たちがやるべきことは変わりません。一刻も早く、ヒビキ様を助けに行くこと」


「ですが、ヒビキ様の身柄がテセラの手中にある以上、下手な真似はできませんね。向こうもそれを分かった上で、わざわざ俺たちのところへ来たんでしょうし」


敵の親玉であるテセラがアイリスとブラックのもとへ赴いたのは、おそらく挑発的行動だったのだろう。ヒビキという、彼らにとって最大の弱点を手駒にして。


「それに、こちらにはこの辺りの土地勘もなければ地図もない。連れ去られている時に周りの景色を少し見ましたけど、イベント会場よりもだいぶ奥の方まで連れてこられたようです」


ブラックの指摘はもっともだった。つまり、2人はとても不利な状況に立たされている。


「えぇ。しかし、それでも行くしかありません」


アイリスの決意に揺らぎはなかった。むしろ、不利な状況だからこそ火がついているのかもしれない。


「約束しましたから、ヒビキ様と。必ずお守りしますと」


アイリスはいつもと変わらぬ笑みを浮かべていた。だが、その奥にある思いを読み取ったブラックは、彼女の隣でふっと笑う。なんだか、自分の上司と同じ匂いを感じていた。


「……はい。もちろんです」


ブラックも決意を新たにする。


「じゃあ、何か作戦を立てないとですね。とりあえず、ヒビキ様を助けに行くにあたって1番障害になるのが、今ヒビキ様がいる場所が分からないってとこですよね」


「そうですね。ですが、簡単に分かる方法が1つありますよ」


嫌な予感がした。


「……なんです?」


ブラックが聞くと、アイリスは満面の笑みを浮かべた。


「敵の方を捕まえて、吐いてもらうんですよ」


「やっぱり……」


ブラックの予感は大抵悪い方面で当たるものである。


「敵と対峙した感じや、私たちをこうして連れてこれることを考えると、敵は森のことを熟知しています。と考えると、この辺りの地図を持っている可能性は低い。ですが、たとえ地図を敵が持っていて手に入れたとしても、森の奥深くの地図です。私たちが迷わずしっかり使えるかどうか、怪しいところです」


「だから敵を捕まえて、案内させると」


アイリスが頷く。


「そうです。地図を解読していくより、人間に案内していただいた方が、ずっと分かりやすいでしょう?」


メイド長の新しい一面を見た気がする、とブラックは内心で思っていた。もちろん口には出さない。


「さっきテセラは私たちに、狩りに参加してほしいと言いました。私たちがやることは、この後に鳴る狩りの開始の合図とともにこの小屋を出て、森を抜けることだと」


「はい……ん? 森を抜ける……?」


再びアイリスは頷く。


「えぇ。つまり私たちは狩りに参加するといっても、狩る方ではなく、狩られる方ということです」


ブラックにとっては衝撃なことを、さらっと流して言うアイリス。本人はなんとも思っていないらしい。もしくは、その事実よりもヒビキへの思いの方が上回っているのかもしれない。


「狩られる側ということは、敵の方々が私たちを狩りにこちらへ来てくださるということですよね」


「……それを利用すると」


「その通りです」


なぜか終始少し楽しそうなアイリスに、ブラックはただ呆気にとられるしかなかった。


「……整理させてください。アイリスさんの作戦では、まず俺たちはテセラが言った狩りに参加して、その最中で俺たちを狩りに来た敵を捕まえて、そいつにヒビキ様の居場所を吐かせる。これで合ってます?」


「えぇ、合っていますよ」


思わずブラックがため息をつく。


「……分かりました。それでいきましょう。じゃあとりあえず、今はその狩りの開始の合図を待つってことでいいですか?」


「はい」


笑みを見せるアイリスだが、その内心は全く穏やかではない。いや、穏やかではないからこそ笑みを浮かべているのだろう。敵よりも恐ろしく感じるものである。


(……ヒビキ様、どうかご無事でいてください)


アイリスが心の中でそう思ったその直後、連れ去られる前に聞いた音と同じ甲高い笛の音が聞こえてくる。そしてその音とほぼ同時に、2人がいる小屋の扉が突然開けられたのだった。


「出ろ」


2人は驚く間もなく、敵に声のみで小屋の外に出るように促さられる。


「……」


アイリスとブラックは目を合わせて無言で頷き合い、ブラックはナイフを、アイリスは槍を携えながら外に出た。


「……もういませんね」


ブラックがそう呟くとおり、2人が外に出た時には先程促してきた声の主は姿を消していた。そしてアイリスが周りを見回すと、そこにはどこまでも鬱蒼と木々が生い茂っている。確かにこれでは先にアイリスが言ったように、地図があってもあまり意味を成しそうにない。


「今の笛の合図と、こうして外で出ることを促してきたということは、狩りが始まったと認識して大丈夫ですよね?」


「いや、それは俺に聞かれても……」


そんなやり取りの最中、それは突然だった。


「!」


森の奥から一発の重い銃声が聞こえたのだ。まだ遠くはあったが、確実に聞こえてきたその音に2人は"狩り"が始まったことを実感する。


「急いだ方が良さそうですね」


「えぇ。ですが、テセラが私たちにヒビキ様のことを言いにきたということは、いわばヒビキ様は人質。私たちのように狩りの対象になっているとは、考えづらいですが」


「だといいんですがね」


アイリスが言ったことは一理あるが、確証はない。それでもその可能性に縋る他ない。


「では、作戦どおりに。まずは、敵を捕まえるところからですね」


「はい。俺たちが狩りの標的である以上、このままここにいても寄ってきてくれそうですが」


ブラックの言葉を聞きながら、アイリスはゆっくりと辺りを見る。


「敵の方々はおそらく木の上に現れる。ブラック、私が地上にいてゆっくりと歩きますから、貴方は木の上で待機をお願いできますか」


ブラックが頷く。


「分かりました。でしたら、俺が仕留めます。さっきの屈辱を晴らしたいので」


それを聞いたアイリスは一瞬目を丸くするも、ふふっと笑って笑みを見せた。


「えぇ、お願いしますね」


ブラックはアイリスに向けて頷くと、手早く木の上へと姿を消した。


「……さて」


1人になったアイリスは小屋から離れるようにゆっくりと歩き出す。


(ヒビキ様が今いらっしゃる場所が分からない以上、あまり今の場所から離れない方が良いかもしれませんが……まあ、敵の方を捕まえて吐かせたら、同じことですね)


槍を片手に携えたまま歩みを進めるアイリス。全神経は、自身の付近の人の気配を読み取ることに集中させていた。敵を捕まえるのはブラックの役目とはいえ、今は狩りの最中。少しでも気を抜くと撃たれる可能性がある。


(……そんなことにはなりませんが)


そんな時、アイリスの神経に引っかかる気配があった。少し遅れてブラックもその気配に気付く。


(……来たな。想像より早い)


先程も狩りが始まった合図のすぐ後に銃声が聞こえた。どうやら敵は、熱心に狩りを行っているようだ。アイリスは敵がこちらに向かってくる気配に気付いてもなお、その歩みを止めることはなく、平常心であった。その方が木の上のブラックが敵の行動を読みやすいからだ。


「……おいで」


小さなその呟きは、誰にも聞こえていない。


(……)


一方のブラックは敵の姿を捉えていた。ゆっくりと歩くアイリスに合わせて、最善の射撃場所を選んでいる様子が伺える。そんな敵に音を殺して近付いていく。


(まだだ。アイツがアイリスさんに向けて銃を構えたその時に)


敵の動きを注意深く見る。好機を逃すことはできない。なぜなら、逃すことがアイリスの死に直結するからだ。


(……)


遂に敵が場所を定めた。そしてアイリスに向けて、その銃口を。


(今だ)


敵が銃をアイリスに向けたそのすぐ後に、ブラックは敵への侵攻を開始。敵に負けず劣らずの動きで木の上を動くブラック。そのまま一気に距離を詰め、アイリスが狙撃されるよりも早く敵を地面に叩き落とした。


「がっ……!!」


敵がブラックの存在に気付いた時には、既に敵は地面に伏せていた。そして体を起こそうとする敵の前に、まるで見下ろすかのようにアイリスが立ちはだかった。相変わらずの笑みを浮かべているが、目が一切笑っていない。


「こんにちは。少しお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


アイリスのその表情を見た敵の顔が徐々に青くなる。その傍で、敵が落とした銃を回収するブラック。今のアイリスには近寄らない方がいいという判断らしい。


「いえ、嫌だと言われてもお聞きしますが」


アイリスは敵の顔のすぐ横に槍を刺す。


「ヒビキ・クライト様、ご存じですよね? 貴方の主人であるテセラが連れ去ってしまった、私たちのご主人様です」


淡々と話し出す。


「あの方が今どこにいらっしゃるか、早急にお教えくださいませんか?」


アイリスの語り口調は終始穏やかだが、断れば穏やかではない結果が待っていることは容易に想像できた。


「だ、誰がっ……!」


だがそれでも人質であるヒビキの居場所を教えるわけにはいかないと、敵も粘っている。その返答を聞いてもアイリスは表情を変えることはなく、むしろ想定内といった様子であった。そして何を考えているのか、敵の右手を優しくとった。器用に右手の親指へ、自身の指を進める。


「……ふふっ」


そのまま、親指の爪を剥ぎ取った。


「ーーーッ!!!」


声にならない悲鳴を上げる敵。だがそれでも、アイリスがその手を離さない。笑みを浮かべたまま。


「お教えくださいませんか?」


敵の様子など知ったことかといった感じで同じように聞くアイリス。今1番恐ろしいのは、間違いなくアイリスだろう。答えを聞く前に、もう人差し指へと自身の指を進めようとしている。


「……っ」


荒く息をしている敵は、1つ爪を失った程度では吐かないようだ。それを悟ったアイリスは躊躇なく人差し指の爪も剥ぎ取った。また悲鳴が響く。


「……凄いな」


傍らでアイリスの拷問を見ているブラックが思わずそうこぼす。アイリスが敵じゃなくて良かったと心から思っている。


「お教えいただかなくても結構ですよ。手の爪はまだ8つも残っていますし、無くても困りません」


アイリスの言葉に敵は絶望した。目の前の女は本心でそう思っているだろうし、間違いなくこちらが吐くまでやる。手の爪が無くなったら足、その次は……。もっと酷いことが待ち受けていることは想像に難くない。


「……わ、分かった。言う、言うから……」


敵は早めに白旗を上げた。でないと、これより先に待ち受けるのは死よりも残酷なものだ。


「ありがとうございます。では、ヒビキ様は今どちらに?」


「……向こう、ここから北へ、真っ直ぐ行ったところに、ある、家に、いる……」


息も絶え絶えにそう言った。それで十分だった。


「北にある家……そうですか。ご協力感謝いたします、では」


アイリスは敵から手を離すと、地面に刺していた槍を抜くとそのまま敵の頭をぶっ叩いた。敵は力無く倒れる。最後まで容赦なかった。


「ブラック、行きましょうか」


「……はい」


色々言いたいことはあったが、ブラックはそれを全部飲み込んでアイリスに従うことにした。2人は敵が示した方、北へ向かって走り出す。


(待っていてくださいヒビキ様。今、そちらに向かいます)


そうして、北にあるという家にいるヒビキのもとへ向かうアイリスとブラック。だが2人よりも早く、ヒビキのいる場所へ足を進めている影があった。2人が間に合うのかは、定かではない。

再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。

今回はアイリスとブラックのお話です。


アイリスの一面が垣間見えていましたが、

意外とあっちが彼女の素なのかもしれません。

と、こんなことを言っていると消されます。


それでは、本日もお世話をしてくれている家族と

インスピレーション提供の友達に感謝しつつ

後書きとさせていただきます。

星月夢夜

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