入学の心構え
「お主らのせいか」
うなだれる少年たちの姿に脱力を禁じ得ない。
我等と同じ馬車に途中から乗ってきた冒険者たちである。
名前はカートとリヴン。
少しだけ年長で背の高いカートと、金髪でまだ幼い顔のリヴンだが、年少クラスでは有数の使い手であるらしい。
「なんであんな噂を流したの?」
フェイが厳しい目で問う。
年少クラスでさっそく聞き込みを行い、彼らを拘引してきたのだ。
「いや、噂というか」
「ハイデンベルクさ」
「様をつけて」
「はい……ハイデンベルク様は自分では闘わないのにこんな美人の護衛さんが二人もついてて」
「きっと身分のある人なんだろうって」
「そういえば、王族が入学してくるって話を聞いた人がいて」
「きっと、ハイデンベルクさ、いや様のことだろうなってクラスの子に話したら」
「広まっちゃって」
「わかった。おおよそわかった」
つまり、どういう王族が入学してくるかは広まっていないところにそうした噂が上書きされることで、どちらかが違う、ではなく、両方王族、ということになってしまったのだ。
「まあ、今さらどうしようもない。我は王族どころか貴族でもない放浪者だ。そこを他の者にも言ってくれればよい」
「はあ・・・でもあんまり説得力が」
「護衛の人まで高そうな装備ですし」
「ヨーハン様のお慈悲にケチをつけるの?!」
フェイがまた睨みつけると、二人はものすごい勢いで首を横に振った。
なるほど。新入学者にしては装備が整いすぎているということか。
冒険者学園は裕福な学生が多いということで少々油断していたようだ。
武器防具というのは高価なものなのだ。
貴族でも本格的な鎧や剣を子供に簡単に買い与えられる者は少ない。
カートとリヴンにしても防具はそこまで高価ではない革鎧で、所々金属の補強を入れているだけ、武器は頑丈そうではあるが短めの鉄剣にすぎない。
あとは簡素な鉄帽、鉄靴でゴランの店なら全部で二十ターラーというところだろうか。
それに引き換え、フェイとアリスは全金属鎧。アリスの双剣や譲り受けた盾も含めると総額三百ターラーを超えるだろう。
それに我の装備、というか皮膚はよほど高価に見えるらしい。
「エヴィアで高貴な方々の知遇を得てな。その伝手でそろえたのだ」
放浪者がいきなり高貴な身分の方と知遇。
どうにも怪しい話だが、実際の話をするよりは信じてもらいやすいだろう。
一縷の希望を持って二人を解放したのだった。
ちなみに、アリスはフェイが聞きつけてきた噂の「赤毛の美人」というところで上機嫌になって何も言わなくなった。
その前に「凶暴な」がついているのだがそれは無視なのか。
我等が現在いるのは冒険者学園に併設された一時滞在者用の施設である。
受験者は厳密には冒険者学園の関係者とはみなされず、もちろん学園内に入ることも自由には許されない。
ただし、これは建前であってフェイなどはその強さと本人曰くかわいらしさで有名になっており、年少クラスの寮や一部の学園施設にも入り込み放題となっているようだ。
「試験って何をするんでしょうか」
アリスは不安そうである。
試験と名のつくものを受けたことがないらしい。
「入学試験の要項を渡したはずだが」
あいまいに笑っている。
理解できなかったのだな。
「大丈夫そうですよ?筆記試験は名前を書けて依頼が読めればいいって言ってましたし」
フェイは仲良くなった生徒に聞きだしてきたようだ。
しかしお前も試験要項は読んでいなさそうだな。
「あとは鑑定をしてクラス分けで終わりです」
「実技試験が抜けているぞ。体力測定も一応ある」
我は指摘した。
「それは落ちるわけないです」
「だれかを殴ればいいのよね?」
「人間じゃなくて怪物かもしれませんけど。去年は普通のオークだったって。年長の生徒が生け捕りにしてきた怪物の数が足りればそれと一対一で闘うらしいです」
「足りなかったら?」
「年長生徒か教官と模擬戦かなあ」
「それならどれが来ても大丈夫」
アリスがニタリと笑った。
「アリンなんとかいうくそガキだったらいいな~~」
「ですよね!殺しても心が痛まないのがいいです」
「わかっているとは思うが、模擬戦で殺してはならんぞ」
きょとんとするな。
「わかってますよ~」
「冗談ですー」
エルネシアを笑えなくなってきた。
 




