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竜園

この世界の国というものの輪郭はそれほどはっきりしたものではない。

人口が土地の広さに比して圧倒的に少ないからだ。

都市国家がいくつか寄り集まり、その周辺の村を含めてもなおどの国にも含まれない土地は多々存在する。

国境にしても線を引いて決められるような箇所はむしろ少ない。

"ここは絶対にこの国である"もしくは"ここは絶対にこの国ではない"という黒白の間にはどちらとも言えない土地がぼんやりとした雲のように広がっている。

この大陸は人間のものではない、エヴィアでハルキス伯爵はそう述べていた。

"竜の園"と呼ばれるこの一帯もそうした灰色の地であり、形としてはリディカに属するが村の一つもなく、普段は訪れる人もいないのだという。

領地とされる土地には理由がある。

曰く、交通の要所である。

曰く、何らかの産物がある。

曰く、耕作がしやすい。

曰く、水場が近い

そしてなにより全てに優先する、安全。

"竜の園"は最後の要件を決定的に欠いていた。

街道の脇にある平地であるにも関わらず、村ができない理由である。

大型の亜竜などが出ることは稀だが、レプタイル属、つまり鱗ある怪物が徘徊し、人や家畜を蹂躙するのだ。

その頂点にあるのが竜人族であり、上級竜人は神にも等しい力を持つという。

一般にはほぼ見かけられることはないが、テリトリーの奥に侵入した者には苛烈な罰が与えられる。

「とはいえ、奴らはレプタイル属の保護者ってわけじゃない」

結局実習を切り上げてアルカディアに撤退することになったロトノールは我等の馬車に同乗することになった。

我の重量を見越して六頭立てに三人しか乗っていなかったので十分余裕はある。

他の者も重い傷を負った者から優先で空いた馬車に乗り、それほどでもない者は騎乗でついてきていた。

「小型のディノス類なんかは戦闘訓練には丁度いいんだ。テリトリーから出た分については竜人の怒りを買う心配もないしな。実習も順調に行ってたから油断してた。ほんとに助かったよ」

ロトノールは再度頭を下げた。

煤をぬぐった顔は思ったよりも若い。

冒険者学園の教官には冒険者を引退して職業としてなる者と、現役の冒険者が義務として年間一定の日数奉仕する者の二種類いるそうだ。ロトノールは後者だろう。

「ロトさん。そんなに頭を下げる必要はないですよ。こいつも冒険者学園に入学するそうじゃないですか。あなたはいいかもしれないけど、教官の権威が下がります」

「アリンディル。命の恩人にこいつ呼ばわりはなんだ。それに教官の権威云々を言うならお前ももう少し言うことを聞け」

もう一人乗り込んで来た若者……アリンディルという男が不満そうに言った。

ロトノールは苦笑している。

「すまない。こいつは俺の恩人の弟でね。言い聞かせておくからこの場は許してくれ」

我は手を振って気にするなと言ったが、アリスとフェイの目が殺気を帯びている。

「ブっ殺すぞ。ガキ」

「気にくわないですー」

「いや、君達に言ったんじゃないよ!」

なぜかアリンディルが焦っている。

なかなか生意気な若者だ。

ファフナーに教官と共に立ち向かっていた実力からしても、こんなにあっさり折れてしまうはずはないが。

「君達、僕らのパーティーに入らないか?今回は引率見習ってことで自分のパーティーメンバーは連れてきていないんだけど、君たちなら十分やっていけると思うんだ」

なるほど、そういうことか。フェイとアリスのことが気に入ったのだな。

「ブっ殺すぞ。ガキ」

「気にくわないですー」

しかし、二人は同じことを繰り返した。

冒険者に似つかわしくない端正な顔の若者だ。このような扱いには慣れていないのだろう。

当惑している。

「僕らは卒業したら某大国のお抱え冒険者になることが決定「ブっ殺すぞ。ガキ」「気にくわないですー」」

二人はなおも言葉の暴力をアリンディルに連打するのだった。



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