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冒険者ギルド

ゴランの鍛造した剣はなかなかの出来だった。

「重くないか?」

「むしろ重い方がよい」

「そうか?やりすぎなくらいかと思ったんだが、気に入ってもらえてよかったぞ。それにしてもたった一週間でずいぶんエヴィア語がうまくなったのう」

「教え方がよかったからだろう」

「そんなものかのう……うわ、これはひどいな」

「すまぬ。借りた剣で朝夕に素振りをくれておったら割れてしまってな」

「とんでもない剛力じゃな」

ゴランはあきれたように笑って、借りていた剣をぶらぶらと振った。

「お前さんが有名な冒険者になったら、この割れた柄を店に飾らせてもらうわい」


ゴランはなかなか気持ちのよい男だ。

借りた剣の修理代も取らず、冒険者になるというと応援してくれた。

サリシアが言うにはこのハルキスは"冒険者の町"なのだそうだ。

町の近くに魔物が湧き出す巣のようなもの……ダンジョンというらしいが、そういうものが二つほどあり、その魔物がまた絶妙な強さなせいで、駆け出しから中級あたりの冒険者が集まるのだとか。

冒険者は魔物を狩り、その肉や皮などの素材が買い取られ、その資金をつかって次の冒険のための準備をする。

その繰り返しでこの町は潤っている。

実は露店で買った肉もギョルという魔物の肉で、その炙り肉はハルキスの名物だそうだ。

だから冒険者になるべきなのだ、とサリシアは語っていた。

いきなりその論理は飛躍しすぎだろうと思わないでもないが、特にすべきこともない我にとっては行動に理由を与えてくれるサリシアの存在は貴重だった。

そう、特にすべきことはない。

エヴィア語読解はまだ道半ばだが、ステータスはこの一週間でほぼ読み終わっていた。

読めても意味がわからない言葉は多数あったが、その中に

後見人:

という欄があった。

空欄で。

それを見た時、ふと体の力が抜けた。

もはや我は誰の後見も受けていない。

誰を守るわけでもなく、誰の指図を受けることもないのだ。

「もう誰の手先でもない」

歩きながら口の中でつぶやいた。言い聞かせるように。


冒険者ギルドは町の中央広場に面する巨大な建物だった。

正面入り口の両脇を剣を持った戦士の像が固めている。

中はホールになっていて、奥に受付らしき机が等間隔に十ほど並んでいた。

ホールの大きさに比して冒険者らしき武装した者の人数は少ない。

時間的なものもあるのだろうな。

受付のほかに大きな丸テーブルがいくつもあって、椅子にかけている者や、それに飲み物を給仕しているメイドなども見られた。

「忙しいところすまぬが、受付にはどこに並んでもよいのか」

「新規さんですか?」

近くを通ったメイドはこちらを上から下まで見てにっこりと笑った。

「噂のノール潰しさんですね!冒険者ギルドにようこそ!」

なかなかギルドに来ないから騎士になっちゃうつもりなのかと思ってました、などとしゃべりながら手をひいて一番右の受付に一直線に移動する。

「フェリシア姉さん!ノール潰しさんご案内しました!」

いちいち声の大きな娘だ。

そもそもノール潰しとはなんだ。

「ありがと、ヴェンナちゃん。ようこそノール潰しさん。妹から話は聞いてます。」

「妹というのはサリシアさんのことかね」

「ええ、新しい"英雄"になれる逸材、だそうですね」

「それはどうかわからぬが……ノール潰しとはなんだね」

「もう町の噂になってますよ?ノール百匹を瞬く間に倒したとか」

「ノールは五十くらいで、しかもアリアス殿らの手助けがあってのこと。そういえば、サリシアさんの姉上ということは、貴女もアリアス殿と兄妹なのかね」

「あの子、またそんなこと言ってるんですか。困ったものね」

「ん、何か違うのか」

「このあたりでは年の離れた恋人や妾のことを"妹"っていう隠語で呼ぶことがあって、アリアス様が一度そういったら面白がってしまって」

そういうことか、道理で似ていないはずだ。

「すみません。おかしな冗談はやめるように言ったんですが、この町で誤解する人なんかいないからって」

「ま……まあいい。教えていただいて感謝する。それで、ここに来れば冒険者登録とやらができると聞いたのだが」

「はい、サリシアにはきつく言っておきますので。登録はこちらで結構です」

登録料は銀貨一枚だったな。

「ありがとうございます。冒険者のランクは十級からはじめて実績によって通常は1級まで、功績によってはその上の名誉級である”英雄”が贈られることがあります」

サリシアが言っていた"英雄"というのがそれか。

「級のほかに目安として"職業"についていただくことがあります。仲間を募集するときや連携するときに職業を見ればだいたい何ができるかわかるからです」

フェリシアと呼ばれた受付嬢がゴランのところにあったものより一回り大きい鑑定石を後ろから出してきた。

「はじめての方の職業はこの鑑定石で能力値をみて決めていただくことがほとんどです。もちろん職業に以前からついている方は別ですが、そういう方は最初から表示されますので」

まずは鑑定です!とフェリシアは顔を近づけながら言った。

この姉妹似ているな。


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