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真・鑑定(欺瞞中)

「前に一度簡易鑑定を受けておられるのですよね?」

「うむ、ゴラン氏の工房で受けた」

「こちらの鑑定石はそれより詳細なものです。情報については随時ギルド側で利用させていただくことはありますが、もちろん他人に教えたりすることはございません。鑑定中は視覚遮断、聴覚遮断の魔法が自動的に張り巡らされますので覗き見される危険はありません。例外は公共機関、たとえば政府ですとか、市の評議会ですとか、騎士団などから要請があったときは開示させていただきます。これは冒険者の身分証明も兼ねているために仕方のないことだとご承知おきください」

フェリシアが改まった口調で言った。恐らくここでごねる者が多いのだろうな。

「うむ、構わぬ」

そのまま見せる訳ではないからな。

「ありがとうございます。それでは鑑定石に掌をのせてください」

ステータス、オープン。

欺瞞の翼が発動しているのを確認して鑑定石に手を乗せる。

ぼんやりとした光が湧き上がり、水晶板にずらずらと情報が浮いていく。

光はそのまま周囲を繭のように包み込む。外が見えない。これが視覚遮断か。

「ふむふむ。職業についておられますね。ジャガーノートというのは私も見たことがありません。」

「そうかな。我が故郷ではめずらしくない職業であった。武器を選ばない戦士と思ってもらえればわかりやすいと思う」

「武器汎用、これも珍しい技能ですね。武器を選ばないというのはこのためですか」

「そういうことだ」

「……ひとつお聞きしていいですか」

「なにか」

欺瞞の翼に気づかれたか。さすが上級鑑定、面倒になったと思ったが、言われたのは予想外の一言だった。

「なぜレベルを上げていないんですか?」

この質問が今来たか。

"レベル"

読めはするが意味がわからない単語の一つだ。

レベル:1

その下に経験値:6999

とあり、経験値はノールを倒した後に大量に増え、その後は一切増えていない。レベルにいたっては最初から一切変動はない。

戦闘に関係する値ではないかと推定はできるが、この世界の人間には自明のことであろうし、サリシアに聞くのもためらわれた。

まてよ。

上げていない、というからには自分で上げることが可能なのであろう。

兵士や貴族の位のようなものと考えればどうか。

昇進につきものなのは叙勲、すなわち上級者からの認定だ。

ここは一つハッタリを効かせてみよう。

「我が故郷の慣わしでな、レベルを上げるのには教会で……その、なんだ、司祭様からお許しをいただかねばならんのだ」

「え、でも1レベルですよね?職業についてから一回も上げてないってことですよね?」

「職業についてからすぐに故郷を放逐されてな。その当時のことを思うと今でも心が痛むのだ」

なんだこの茶番は。

フェリシアは全く納得していない顔だ。

「教会ってどこのです?港町なら大抵の宗教の教会がありますし、それを言うならハルキスにもいっぱいありますけど」

「聖十字教会だ。なかなか珍しい教えでな」

この大陸には十ほどの宗教が存在し、大抵の国では差別なく共存している。

だがもちろん人気不人気はあり、最大の信徒を誇るのはゼノギアス教会という。国によっては国教に認定もされていて、小さな村にも分教会の一つくらいはあるそうだ。

聖十字教会はハルキス周辺ではほとんど信徒が得られていないマイナーな宗教で、大陸最北部が発祥だという。シンボルは白い十字で、オールドワールドで崇められていた聖印と酷似していた。

「なるほど……あまり見たことないですね。それは大変だったでしょうけど、放逐されたならそこまでこだわることないんじゃないですか?」

「いや!これは自分の心の問題なのだ!」

ああ、面倒くさい。

「でもレベルアップはしておいた方がいいですよ!。そういえばスラム街の孤児院の一つを聖十字教会がやっているんじゃなかったかな」

小芝居を引っ張りすぎたか。そのうちレベルを上げる方法を具体的に教えてくれないかと思っていたのに。

「地図と紹介状を書いておきますね。必ず行ってくださいよ!」

そういうとなにやら書き物をはじめてしまった。予想外の方向に行ってしまいつつある。

「……心の中で"経験値変換"ってするだけのことになんで司祭様の祝福がいるのかなあ・・・いや、宗教上の信念なら仕方ないですけど……」

聞き捨てならない情報が漏れ聞こえてきたぞ。

『経験値変換』

心の中で唱えてみる。

「全て消費してもよろしいですか。現在の経験値を限界まで消費すると25レベルまで上げることが可能です」

澄んだ声が聞こえてくる。男とも女ともわからない。もちろんフェリシアの声ではない。人間の声ではない。これは"ステータス"画面が発している声なのか。この世界の不思議をまた一つ垣間見た。

肯定。

「レベルアップしました。

全能力値上昇しました。

HP、MP値が上昇しました。

MPの値が最低値を上回り、誘惑の翼が使用可能になりました。

レベルの値が最低値を上回ったことにより、非道の翼の封印が解かれました。

MPの値が最低値に満たないので使用不可です。

技能に「魔物使役・小」が追加されました。

技能「極限剛力」のレベルが上がりました。

技能「肉体を武器に」のレベルがあがりました。

技能「エーテル実体化」の使用条件が緩和され、「エーテル実体化解除」が選択できるようになりました。

技能「万能魔法知識」から「暗黒魔法」が派生しました。

技能「暗黒魔法」には初期呪文として「邪悪なる治癒」がセットされています」

怒涛のように情報が頭に流しこまれ、ステータスが目まぐるしく書き換わる。

「……これを司祭様にお渡しくださいね……って聞こえてますか?」

フェリシアが心配そうにこちらを見ている。

いつのまにか紹介状と地図を書き終わっていたようだ。

「ありがたくいただいておこう。ぼうっとしていたようですまない」

「いえいえ、職業レベルを上げていなくても強い方は強いんですけど、レベルアップをすることによるメリットは無視できませんから、是非教会にいってください。そしてレベルアップしてください!」

フェリシアがまた顔を寄せてくる。近い近い。

「これギルドの証明書、ギルドカードです。今は十級として登録させていただきましたけど、ハイデンベルク様でしたらすぐ上がっていけると思ってます」

カードは硬い紙で出来ていて、色は青。名前と簡単な情報が書き込まれている。

級ごとに色が違っていて、青カードは少々格好が悪いとされるそうだ。

このホールに掲示される依頼をこなしていくと級があがる。

「早く青カードを脱出しましょうね!そのためにはまずレベルアップです!これからすぐに教会にいってみてください。レベルアップしたらその良さがわかってもらえると思います!」

レベルはもう上がってしまったんだがな。鑑定石はレベル1の表示のままだ。

ついでにその孤児院で依頼をこなしてこいと初依頼まで押し付けられ、聖十字教会への訪問は逃れられないものになってしまったのだった。


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