戦争へ
城門には出迎えの衛兵が既に待っていた。
フロンドの城内は思ったよりも無骨な様子だった。
アルカディアはもちろん、迷宮の素材で稼ぐハルキスなどと比べてはいけないのだろう。
規模こそ大きけれ、質実な地方の領主館という印象である。
「このままだと直接王の間に入ってしまうぞ?」
先導する衛兵をガラテアが咎めた。
「直接お通しするように強く指示されております」
「王の間に直接通すのか!?典礼官がよく許したな」
「非常事態とのことです」
ガラテアは低く唸った。
突き当りの白亜の両開き扉がいささか乱暴に開けられた。
「お進みください。通常の典礼は無視してかまわぬとの仰せです」
王の間はそれなりに広く、豪奢な作りであったが、大仰な玉台などはなく、王は背もたれの高い椅子に座って我等を待っていた。
その前に楽な姿勢で待つ者が三人。
いずれも我の知る者であった。
だが、ここはまずガラテアの報告が先になされるべきであろう。
「殿下を無事にお連れすることがかなわなかった臣に申し開きの機会をお与えくださり……」
「ここは申し開きの場ではない。それに、汝を責めるつもりもない」
だが、真っ先に飛び出して詫びを述べようとしたガラテアの言葉は王によってあっさりと遮られた。
「あれの処置に関しては予も忸怩たる思いがあるが、死んだ後で何を申してもはじまらぬ。汝の忠義と能力を一時でも疑ったことは予の不明であった。許せ」
「おお……」
ガラテアは感極まって面を伏せた。
「そなたがヨーハン・ハイデンベルク殿だな。弟の愚行を途中で止めて下さったことを感謝いたす」
やつれた顔の王は我に頭を下げた。
「このように申してはいるが、弟の件に関しては予は頑迷もいいところであってな。こちらの闇エルフ殿の魔法で弟の最後の様子を見せられてようやくわかったのだ。予の知らぬところで、何か大きな事が起こっていることをな」
その闇エルフは我に深々と礼をした。
オスタード。
ハルキスの迷宮に巣食う魔族であるが、我を魔王であると勘違いしている。
他の二人は冒険者学園の樹人レンデュライとウルスラ王女だった。
なかなか意外な組み合わせだ。
「戦争が始まります。大きな戦争になります」
突然の訪問の理由をオスタードは簡潔に言った。
「どこから始まる戦争だ」
我は特に驚きはしなかった。
これが最後の一押しなのだ。
大量の死が。
「北方。近々にヴァンダール地方の外から山脈を超えて蛮族の大侵入があるでしょう」
我を除く一同に緊張が走った。
それはすでに人間を超えてしまっているアリスとフェイも例外ではない。
この地方の人間に幼いころから刷り込まれている恐怖なのだ。
「なぜ、今?」
「御身がドレイク卿を手にかけられましたので」
「竜人族の長か?何の関係がある」
「北方の人間帝国を使嗾する存在がありまして、彼奴らは竜人族の中でも唯一ドレイク卿を恐れておりましたから。最早征服を妨げる者なしとでも思っているのでしょう」
そして、我だけに聞こえる小さな声で付け加えた。
「ご存知だったのでは?魔王よ」
「それを知らせにやってきたのか」
我は聞かなかった振りをした。
「そうです。わたしだけでは取り次いでもらえぬかと思い、旧知のレンデュライに相談したところ、余計なものまでついて参りましたが」
「誰が余計なものよ!」
ウルスラ王女がむくれた。
「エヴィアの王女に言っていいことと悪いことがあるわ!わたしが言ってあげなかったらこんなに簡単に王の間に入るとか出来ないんだからね!」
以前とはだいぶ調子が変わっている。
この少女もだいぶ冒険者というものに染まってきたようだ。




