アリスとフェイ
この状態は、よくない。
それが二人の共通の認識だった。
彼女らのふたつとなき主と引き離されていることがまず耐えがたい。
冒険者学園に来る間は天幕で一緒に寝ることが出来たのに、入学してクラス分けをしたとたん宿の部屋さえ別にされてしまったのだ。
主は「東方には男女七歳にして席を同じうせずという古い教えがあり云々」と言っていたが二人とも意味はよくわからなかった。
命令には逆らえないので別のクラスに渋々入ったのだが、そこではパーティーを組まなければならぬという。
"混沌の渦"というパーティーを組んでいるので無理だと言ったのだが、「これは別」だと教官は言う。
納得できなかったので主に尋ねてみたが、なんと、主も「それは別」だと言う。
何が別なのか。
彼女らには理解不能であった。
「アリス。パーティーは組めたのか」
ハイデンベルク様が聞く。
「もちろんです!」
元気よく答える。嘘じゃない。
ハイデンベルク様は満足そうだ。腰には新しい白い鞘と金属のベルトがある。
かっこいい。
「それで、いつあたしたちは戻っていいんでしょうか」
「戻る?」
「はい。あたしたちはパーティーなんですから一緒にいないといけませんよね?」
「ああ、しばらく先になるな。そのうち連絡する。それまではそちらでがんばってくれ」
ショックで声が出ない。
「フェイ。このままじゃいけない」
あたしはフェイを校舎の外に呼び出して話し合うことにした。
この子はライバルだけど"混沌の渦"の一人だし、わかってくれている。
なんとか穏当にあたしたちが元の場所に戻れる手段を一緒に考えよう。
「この学園がなくなれば」
なにいってるの?
「いいんですかね」
フェイの目が危ない。
若いせいか、あたしよりずっとヤバい。
「それじゃだめ。そんなことしたらハイデンベルク様に叱られるよ」
「それはいけませんね。じゃあ他の方法にしましょう」
「素直でいいわ。まずハイデンベルク様の望みを考えようよ」
「結婚することですか!?」
「それは!あんたの!望みじゃねーの!?」
「そうでした……つい混ざっちゃって」
「何ひとつ混ざっちゃいねーし……まず、竜人、だったっけ?そいつらと渡りをつけるのがお望みだったでしょ」
「そういえばそんなことあったような」
「だから、あたしたちが二組と三組をまとめてそいつらのとこまでいけばいいんじゃない?」
「おお!」
フェイの目がキラキラ光った。
「姉さん、天才です!」
そのあとすぐ目がどんよりとしてきた。
「ということは、三組のあいつらとあたしが協力しなきゃいけないってことですか」
「そりゃそーよ。あたしは二組ね。つまんないやつらだけど、しょうがないわ」
「でも、それって結局ヨーハン様が最初におっしゃったことと同じじゃないですか?」
「あー、まあ、そうね。結局ハイデンベルク様はあたしのことをよくご存知ってことよ」
「あたし?あたしたち、ですよね?」
「言い間違いじゃないの!迫力出さないでよね!」
めんどくさい女よね~~、ちょっとイラついてきた。
仲良くやるのも簡単じゃない。
「こんなところにいたのか。探したよ」
男の子が校舎の中から走って出てきた。
見覚えがない。フェイの方の組かな。
「何ですか」
ああ、当たってた。思いっきり嫌そうな顔をしてる。
「僕たちと組んでくれるって言ってたじゃないか。ミーティングをしようよ……痛っ!」
肩にまわそうとした手を思いっきりはね退けられている。
そんなに悪くもないけどなー。綺麗な顔だし、手を叩かれても怒らないで笑ってるのはポイント高い。
武器防具も高そうで、それなりに強そうでもある。
身分はあるけど、ただのボンボンってわけでもなさそう。
「フェイ。一緒にいってみなさいよ」
「姉さんまで!」
「お言葉に逆らうの?」
「……イイエ」
フェイは観念することにしたみたいだった。
「しっかりやりなさいよ~」
男の子があたしに向かってにっこりと笑って軽く頭を下げた。
あんたのためじゃないけどね。
たしかに上物の男だと思うし、駆け出し冒険者だったあたしだったらなんとかお近づきになりたいと思っただろうけど。
あたしはヨーハン・ハイデンベルク様、あたしの、あたしだけの、ご主人様の溶けた金の色の目を思い出した。
ないわー。
あんなただのオスガキと、比べることなんてできるはずがないわ。
フェイ。ほんとにしっかりやらないと、あんたの場所なくしちゃうよ。
あたしは二組で捕まえたパーティーの奴らの顔を思い出しながら校舎の方に歩き出した。




