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生意気な神官

冒険者には傷がつきものだ。

金もコネもなければ運に任せるしかないが、それなりの対価を払える者なら素早く傷を治してもらい、さらに強くなるために修行を続けることができる。

故に、裕福な者が通う冒険者学園にもそれなりの規模の病院が併設されている。

回復魔法と通常の医療を併用しているようだ。

治ればなんでもよい。まさに冒険者的なやり方である。

マリエルが言っていた傷の治りが遅い生徒は、その一室にいた。

「マリエル教官、またですか。責任など感じていただかなくても結構だと言ったはずですが」

痩せて、神経質そうな少年だ。上級クラスに入るギリギリの年齢だろう。

血がにじみ、見るからにゆがんだ細い足を白い布で巻いて添え木を当てている。

「僕も回復魔法を自分で毎日かけていますが、骨がバラバラになっているのできちんとくっつけるのが手間なんです。放っておいて頂いた方が治りが早いと思いますよ」

「見舞いに来たというのにそのような言い方はあるまい。目上の者であろうに」

申し訳なさそうにしてるマリエルにかわり、我が言う。

「……ヨーハン・ハイデンベルク、さんですね」

「うむ。同じ組の誼でな、少々おせっかいに参った」

「結構ですよ」

横を向いてしまった。

「なぜだ。言ってはなんだが、その傷は少々のことでは治らぬぞ」

「それもゼノギア神のおぼしめしです。あなたのような得体の知れない人に治してもらおうとは思いません」

この少年はゼノギアス教団の神官なのか。

「別に改宗せよなどとは言わぬ。言ったであろう。おせっかいだと」

我はベッドに座った少年に近づいた。

「寄らないでいただけますか。『異教徒よ去れ』」

彼の周りに薄青い光のベールが現れた。

これは見たことがない。ゼノギアス教会の特殊魔法であろうか。

だが、かまわず進む。

ベールが我の体に触れると、ほとんど抵抗を感じることなく微塵に砕けた。

少年の顔が驚愕に歪む。

「押し売りだ。買ってもらうぞ」

『邪悪なる治癒』

傲慢な台詞とともに黒いオーラが折れた足に纏わりついた。

「うぐぅぅぅ」

少年が悲痛な呻きを上げた。


巻いた布と添え木がいきなり伸びた肉と骨を圧迫したようだ。

マリエルが慌てて布を切り開くと、汚れてはいるものの白い足が現れた。

添え木がきちんと固定されていない。

恐ろしく適当な処置だ。

オールドワールドの野戦病院よりひどいな。

少年はしばらく足を見ていたが、そのうちゆっくりと立った。

折れた方のつま先を床にとんとんと突いてみるが、痛みはなさそうに見える。

「これほどとは……聖十字教会の神官はみなこれほどの癒しの技を使うのですか」

「これはそれがしの特殊魔法だ。他に使う者はいない」

特に聖十字教会を含む正統教会にはいるはずがない。

神話に出てくるような、辺境の洞窟で世界征服を企む邪神官などであればわからぬが、そのようなふざけた者が実在するのかどうかは与り知らぬことである。

しかし、我自身が世界征服に似た事を企む身であれば、似たようなものか。

「とにかく、おせっかいとはいえ、感謝せねばならぬでしょう。そして、非礼にはお詫びいたします」

なんだ。なかなかまともな反応だな。

しかし、次の一言で我の少年に対する評価はがらがらと崩れ去ってしまった。

「でも、シィリィ……お姉ちゃんはは渡しませんよ!」

なにを唐突に宣戦布告めいた事を言い出すのか。


「だってお姉ちゃんのパーティーに入ったんでしょう?僕が怪我しているのを幸いと」

あれは向うから誘われたのだが。

つまり、彼女のパーティーにいた負傷した神官と言うのはこの少年のことなのか。

「せっかく、恋人同士のガランドとヴェルデをパーティーに入れることに成功して、「余り者同士くっつこうか。幼馴染だし」っていう線を狙ってたのに」

「ちょっと待て……」

「あなたはすごい神官かもしれないし、大人だけど、僕は絶対にお姉ちゃんをあきらめませんからね!」

人の話を聞け!


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