三話目:恐怖のお方登場!
突然の声に、僕たちは一瞬ビクッとした。
そして書庫のドアが(かなり乱暴に)開いた。
「知我ぁ! おまえ今何時だと思ってるんだよ。とっくに活動時間は過ぎてるぞ!」
―げっ、小春先輩……
彼女の名前は瞬美 小春。
僕の一年上の先輩で、名前はとても可愛いのだが、性格は360°違う。
かなり荒っぽく、人を無理矢理引っ張って連れて行くタイプの人だ。
おまけにこの小春先輩、めちゃ強い。
先輩は帰宅部だけど、空手部や柔道部の人なんか楽に倒してしまう。
当然僕みたいなひょろひょろは勝てっこないから、しっかり与えられた仕事をこなさないと、とんでもない目に遭ってしまう………
「ん? こいつはいったい誰なのだ?」
当然今のレイルの言葉は僕に対して言ったものだ。
しかし、小春先輩は魂状態の僕なんか見えっこない………
「………なんですって? 今の言葉、よく聞こえなかったわよ。なぁに?」
ヤバイ、かなりヤバイ。
今の先輩はまさにブチ切れ寸前。
この状態で怒らせたら、僕(の体)はかなりとんでもないことになる……
―レイルぅ!! こ、小春先輩をこれ以上怒らせたらだめぇ!
僕は必死でレイルに伝えた。(勿論小春先輩には聞こえてないよ)
………何しろ僕の命(?)がかかっているのだから、必死になるよ。
しかし(というか、やっぱり)
「小春? この娘のことか?」
と、思いっきり声に出して僕に尋ねてきてしまった………(もちろん先輩には僕が見えないぃ!)
「……………知我ぁ。二度あることは三度あるってこのことね………そういえば、これで三度目ねぇ………………」
ボキボキボキィィ
ひぃぃ!!
もう先輩は腕をならしていて、もう今すぐに飛びかかってくるという感じで話している。
―先輩ぃぃ!! 今の言葉は先輩に言ったんじゃないんですよ! ぼ・く・に・言ったんですぅ!!
僕はもうほとんど(体があったのなら)涙目状態で先輩に懇願している。
でも、結論先輩には僕の姿が見えないプラス僕の声が聞こえない………
「くぁぁくごぉぉ!!!!」
もう怒り満タンな先輩の拳が、僕の体(に、入り込んだレイル)に襲いかかった!
―レイルぅぅ!!
「ふんっ!」
一瞬僕は目(無いけど)をつぶりそうになったが、すぐにレイルが先輩のパンチを『片手で』止めていた………
「………ふん、この程度か……」
レイルが言った。
「な……私の拳を片手で…………ふぅん」
先輩はすぐに突き出した拳を下げると、静かに言った。
「強くなったじゃん。知我」
………へ?
「まさか私の自慢の拳を片手で止められるとはね………でも私の真の実力はこんなもんじゃないよ。次は本気でいくからね!」
な、なんなんだこの展開……
「ふっ……おまえもかなりの力を持っているようだな……私も気に入ったぞ」
相変わらずレイルはレイルで突っ走ってるし……ひぃぃ。
「へぇ…まだ口が治ってないようだねぇ」
―ひっ!
「……ま、今回は許すか。で、知我の実力を受けて、これから挨拶代わりに今の五分の一程度しかないパンチを繰り出すとするか……」
―え、ええぇぇぇ………そんなぁ。
「じゃぁあとは私がやるから、知我はとっとと帰んな」
そういうと先輩は書庫へ入っていった。
僕は、すっかり腰(ないってば)が抜けてしまった……………
―レイル。勝手なことしないでよ。僕の体なんだから。
僕はレイルに言った。
「そういえば、おまえの体だったな。すまん」
―でもこれから毎日先輩のパンチをくらうことになるなんて……
考えただけで目が回ってきた。
「私がこのままで居ればよいだろう。五分の一か……指先程度か?」
知らないよそんなこと……
でも、
まちがいなく、
明日からは日常をぶっ壊した生活になるんだろうなぁ………
先輩のことをどうにかするまで、しばらくこのままでいそうだ。
「さて……そろそろ帰らせてもらうか」
―ええ……僕、もう動けないよ。
「そうか……ならしょうがない」
レイルがそう言ったとたん、突然僕の体が引っ張られた。
「家の場所がよく分からないのだ。案内してもらおう」
―え………この引きずられた状態で?
「しょうがない」
そうして僕は、魔王レイルに引きずられながら(?)やっと、この学校を後にした。