↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

01. 歌声

 鍋の中では、どろどろに煮溶けた薬草がぐつぐつと煮詰まっている。

 そこから立ち上る青臭い薬草の香りが、森の中にある小さな家を満たしていた。


 木べらで静かにかき混ぜるたび、湿った熱気が顔を撫でる。


 人間に売ればちょっとした商売になるのだと、旅の魔女が熱弁していた。

 あいにく私はそういうことには興味がない。

 これはただ、この森で独りで暮らす魔女としての、日々の生活に必要な備えだ。


 ふいに、開け放たれた窓から、澄んだ音が滑り込んできた。


 ――歌声だった。


 鳥のさえずりでも、風が木々を揺らす音でもない。

 水のように澄んでいて、どこか陽だまりのような温かさを持った声。


 千年の時を重ねて、静寂に塗り込められていた私の部屋に、その声は遠慮もなく響き渡っていた。


「……人間か」


 木べらを止め、窓の外へ視線を遣る。


 木漏れ日の下にいたのは、素朴な布の服を着た、ひとりの若い町娘だった。

 小さな籠を抱え、足元に生えた薬草を摘んでは、楽しそうに歌を口ずさんでいる。


 そこへ、一匹の痩せた野良猫が近づいていくのが見えた。


 警戒して足を止める猫に、娘がふっと目を細めて微笑む。

 しゃがみ込み、やわらかな手を差し出すと、その歌声に誘われるように猫がすり寄っていった。


 娘は嬉しそうに顔を綻ばせ、歌いながら猫の頭を撫でている。

 陽光を浴びて揺れる髪と、猫の毛を撫でる指先には、愛おしむような柔らかさがあった。


 ――お気楽な人間だ。


 私はため息をつき、鍋へと視線を戻した。


 この森は誰のものでもない。

 人間が立ち入ろうが、どうでもいいことだ。


 森の外では、年を追うごとに石造りの家が増え、夜になっても消えない明かりが灯るようになったという。

 だが、どれほど人間が繁栄しようと私には関係がない。

 春に芽吹き、冬に眠る木々と同じように、私はただこの森で静かに時を過ごすだけ。

 千年の間、そうしてきたのだ。


 ――そう、思っていたのに。


 歌声が、途切れた。


 ふと窓の外を見ると、娘が満足そうに立ち上がり、さらに森の奥へと足を進めているところだった。


 あちらには、町付近には出ない凶暴な魔獣がいる。


 牙を持つもの、爪を持つもの、毒を持つもの。

 人間など一溜まりもなく噛み砕く獰猛な獣が蠢(うごめ)く場所だ。


 愚かな人間が森の犠牲になることなど、今まで何度となく見てきた。

 冷たくなった死体から道具を漁(あさ)ったことだってある。

 人間に対して特別な感情などないし、向こうだって『森の恐ろしい魔女』と私を忌み嫌っているのだから。


 ――それなのに。


 気づけば私は、目を閉じ、探知の魔力を伸ばしていた。


 風のそよぎ、木々のざわめきを越えて意識を飛ばす。

 弱々しい町娘の気配の目と鼻の先に、禍々しく巨大な魔力の塊を感知した。


 無防備な人間が遭遇すれば、間違いなく命はない。


 目を開けると、静まり返った部屋の中に、さっきまでの澄んだ歌声の余韻だけが取り残されていた。


 沈黙が、やけに耳に障る。


「……はぁ、まったく」


 私は木べらを置き、鍋の火を消した。

 古びた外套を羽織り、先のとがった帽子を被る。


 理由なんてない。

 ただの気まぐれだ。


 せっかく千年の退屈を紛らわせてくれた歌声が、悲鳴に変わってしまうのは――少しだけ、寝覚めが悪いというだけなのだから。






https://x.com/tokumeikigo/status/2086655096256119173

小説ブートキャンプ『毎週お題』にて執筆した作品の転載です。

限られた期間で執筆するためAIを多めに活用していますが、AI感を感じないように調整しているつもりです。

中身はいつものハッピーな百合なので、楽しんでいただけると幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。