#091 : 聖女(仮)と勇者(Lv1)☆布教の予感
──再会の感動から5分後。街は怪光線騒ぎに包まれていた。
カエデ「ツバキ!そのビーム止めて!?周りのものが全部消し炭になってる!」
カエデが慌てながらツバキを揺らす。
ツバキ「こ!こここここの身に宿されし破戒の光輪……いまだ鎮まらぬ……ッ!!」
ツバキの両目からは相変わらず謎のビームが放射され続けており、街の看板やら樽やらが次々と蒸発していく。
ローザ「あの……ツバキ様……」
そこへビームを軽々と避けながらローザが近づいてきた。(何者?)
カエデ「え?誰?」
カエデが驚いて振り返る。
ローザ「はじめまして!私はローザと申します!ツバキ様の付き人として布教の旅を……」
ツバキ「ローザ……居るのか…我が眼は、未だ光に囚われている……」
ローザ「私もツバキ様のご尊顔が眩しくて見えません。」
──
ツバキが深呼吸をし、手で目を覆うとようやく光線が止まった。
カエデ「ローザさんはツバキと一緒に旅してるの?」
カエデが興味深そうに尋ねる。
ローザ「はい!ツバキ様は神の使いですから!」
ツバキ「くっ……また誤解が増殖している……!」
おっソロ「おーい!何だい?この騒ぎは!」
そこへ駆けつけてきたのは、おっソロ。
カエデ「おっソロさん!」
おっソロ「カエデ、そちらの方々は……?……って、なんで街が半分焼けてるんだ?」
カエデ「えーっと……感動のあまり?」
カエデがチラリとツバキを見た。
ツバキ「ごめんなさい!」(土下座)
◇◇◇
──その日の昼下がり。
カエデ「……ねえツバキ?…2人はこの世界で何をしてるの?」
ローザが目をキラキラさせて答える。
ローザ「ツバキ様のカメリア教の布教の旅です!」
ツバキ「……世界が……勝手にそうした……」
ツバキが下を向いた。
カエデがパンと手を叩く。
カエデ「じゃあ!私も一緒に布教の旅に参加する!」
ツバキ「え?」
ツバキが振り返る。
カエデが真剣な表情になる。
カエデ「だって、ツバキと離ればなれになるのは嫌だもん。それに……」
「この街で宅急便の仕事しようと思ってたけど、そろそろシツコイって怒られそうだし……」
「何よりね!?実は、私……この世界では"勇者"なんだ」
ツバキ&ローザ「「……は?」」(目をパチクリ)
カエデ「へへーん!私、勇者なんだよ!?魔王倒すアレ!」
ツバキ「世界の均衡が揺らぎ始めた……よりにもよって、貴様が勇者とはな……」
ツバキは信じてない様子だ。
ローザ「ゆ、勇者様……!?ほんとに!?」
ローザが思わず叫ぶ。
カエデ「うん、ちょっと見せるね──ステータスオープン!」
カエデのステータス画面が表示される。
\\ ♪ピ〜ロリロリ~ン……ポヨォォォ〜ン //
ツバキ&ローザ「「なにそのまぬけな効果音!?」」
【カエデ / 勇者 / レベル1】
【スキル:ウィルソンを投げつける Lv836】
【称号:パンくわえて転ぶ者 / 草さん / 草の者 / 草属性】
ツバキ「……イチ。」(食い入るようにステータスを見るツバキ)
ローザ「……イチ。」(マジマジとステータスを見るローザ)
カエデ「だって!怖くてモンスターを倒せなし!でも私、"勇者"だから!」
ツバキ「なんか見たこともない数字のスキルもあるが……勇者……称号にどれだけの信用があるのか……?」
カエデ「わたし!……勇者だから、困ってる人を助けたいの!この世界で一人だったとき、何度も死にそうになったんだ。魔物に襲われて、道に迷って、雨に打たれて……」
ツバキ「……。」
カエデ「でも、おっソロさんが助けてくれた。あの人がいなかったら、私はきっと……」
「だから、私も誰かを助けたい。この世界で困ってる人がいるなら、その人たちのところに行きたい」
カエデの声が震える。
ツバキ「……そういうことなら、断る理由はない。レベル1でも、勇者は勇者だ」
ツバキが静かに頷く。
カエデ「本当?」
カエデが目を輝かせた。
ツバキ「ああ。むしろ、二人で旅するより心強い……いやでも……カエデか……」
ツバキが下を向いた。
ローザ「素晴らしいです!聖女様と勇者様が一緒に旅をなさるなんて!」
ローザが感激の表情を浮かべる。
ツバキ「だから聖女じゃ……まあ、いいか」
カエデ「……そういえばさ、私たちがこの世界に来たってことは……もしかしたらサクラも……どこかにいるかもしれないよね?」
カエデがふと空を見上げて、ポツリと呟いた。
ツバキ「……!サクラ……時の狭間に消えた名。だが未だ、我が胸の刻に残る、絶対の記憶……」
ツバキの表情がわずかに揺れる。
カエデ「なんとなく、呼ばれてる気がするんだ。サクラにまた会えるような気がするの」
ローザ「サクラ様とは?」
ローザが首をかしげる。
ツバキ「私たちの友達。元の世界でのね。大切な仲間よ」
ツバキが答える。
カエデ「もしサクラもこの世界にいたら……」
カエデが目を輝かせる。
カエデ&ツバキ「「大魔王になってるね。」」
ツバキとカエデが同時に言った。
ローザ「サクラ様とはいったい…」
ローザが首を傾げた。
ツバキ「……ふむ、ならば我らが征く先に、きっと"その声"もあるだろう。探すのは簡単だ。うるさいとこにサクラは居る。」
ツバキが小さく微笑む。
カエデ「えっと……『生きてるだけでえらいって?ちげぇよ。“生きてるなら暴れろ”が正しいだろうがああああ!!!』」
カエデがサクラのマネをした。
ツバキ「……うわ、声まで思い出せる……あははははは!」
(つづく)
◇◇◇
──今週のサクラ語録──
『生きてるだけでえらいって?ちげぇよ。“生きてるなら暴れろ”が正しいだろうがああああ!!!』
■解説 :
サクラ式・生存の美学。
生きてるなら、黙って拳を振れ。優しさ?癒し?
そんなもん、ぶん殴ってから考えろ。