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#091|桜059:王都決戦!!サクラ in da House

 ──ラウワ王都・王城・警戒塔。


 朝靄が王都を包む中、

 警戒塔の見張り番は退屈そうに欠伸を噛み殺していた。


 最後に敵襲があったのは、三年前。

 

 平和が続きすぎて、

 最近では「非常鐘の鳴らし方を忘れた」

 などと冗談が飛び交う始末だった。


 だが、その平穏はあまりにも唐突に、終わりを告げた。


「ん……あれは……?」


 見張り番の王兵が、眉をひそめながら空を指さす。


 空に走る、一閃の雷光。


 まるで天から何かが撃ち落とされたような閃光とともに、

 白煙を上げながら王城の城壁へ叩きつけられた人影があった。


「なんだ!? ひ、人……!?」


 別の王兵が、声を裏返して叫ぶ。


 その姿は──白銀の鎧を纏い、金髪をなびかせた女性。

 王国最強のS級異端審問官、ユリシア・フォン・ライトハルト。


 だが彼女は、見るも無惨な姿だった。


 鎧は泥にまみれ、髪は乱れ、

 頬にはなぜか落ち葉が貼りつき、

 片手には謎の看板を固く握りしめていた。


「ユ、ユリシア様!? お怪我はッ!?」


 血相を変えて駆け寄った衛兵たちに、

 彼女はかすれた声で絞り出す。


「……王に……伝えて……あの鬼の女が……」


 その言葉には、騎士らしからぬ、

 激しい怒りと悔しさが滲んでいた。


 ◇◇◇


 ──王城・玉座の間。


 その報告が王に届いたのは、それからまもなくのことだった。


「な、なにィィィィィッッッ!?」


 玉座の間に怒号が轟き、

 天井の彫刻から埃がパラパラと落ちた。


 廷臣たちが一斉に顔を伏せる。


「──おい待て!

 S級のあいつが、"敗北報告"だと……ッ!?」


 怒鳴ったのはもちろん、ラウワ王・ガルザム三世。


 赤毛に赤ひげ、筋骨隆々の体格と金冠を持つ、

 "力こそ王道"を体現した戦士王である。


「ユリシアがッ!? ボロボロで帰ってきただとッ!?」


 報告を終えた騎士団長・バルドスは、

 緊張した面持ちで頷いた。


「魔族との戦闘とのこと……詳細は本人より──」


 バタン、と扉が開く音。


 そこに現れたのは、件のユリシア本人だった。

 泥にまみれた鎧、火照った顔。

 玉座の間に立ちながら、

 それでも背筋だけは伸ばしている。


「命じたのは"捕縛"だ……それを、お前……」


 王が玉座から身を乗り出し、

 眼前の騎士を低い声で睨みつけた。


「なぜ貴様が、そんな泥まみれで戻ってきている……!?

 一体どんな凄絶な魔法を受けたのだ!」


「……申し訳、ありません……」


 ボロボロのユリシアが、かすれ声で答える。


「オーミヤにて……鬼族の女"サクラ"と遭遇。

 敵性を確認後、即時交戦……

 結果、戦闘不能に追い込まれ──」


 一拍の沈黙。


「……そして……落とし穴に落ち……

 敗北……しました……」


「…………は?」


 王が、素で聞き返した。

 玉座の間が、水を打ったように静まり返る。


「……落とし、穴……?」


「……はい、『落とし穴 ここだよ☆』と……

 書かれた看板が立つ、実に巧妙な罠でした……」


 ユリシアは真顔で、淡々と答えた。


『天の声:一直線バカの解釈。』


 言い訳とも反論ともつかぬその返答に、

 王は額に手を当て、深く目を閉じた。


 廷臣の誰も、何も言えなかった。

 突っ込むことすらできなかった。


「……もういいッ!

 よく戻った……座っていろ。

 あとで詳しく聞く」


 王が気を取り直して玉座へ戻ろうとした、


 そのとき──

 騎士団長・バルドスが、焦燥を滲ませた声で口を開いた。


「陛下……立て続けに申し訳ありません。

 もう二つ、報告がございます」


「まだあるのかッ!?

 今日はやたらうるさいぞこの城は!!」


 王がぎろりと振り返る。


「一つは、先ほどオーミヤから到着した早馬からの報告です。

 赤と黒の巨大なドラゴンが二体現れ、オーミヤがパニック状態にあると……」


「ド、ドラゴンだとォ!?」


「はい……そしてもう一つ。

 東の地平線より、大規模な砂煙が発生……

 地鳴りとともに、魔物と思われる影が……」


「魔物……?」


「はい。確認された数は、ざっと数千以上……

 種族はバラバラで……整列して進軍している様子が……」


「軍勢か……!」


 王の目が、鋭く細まる。


 だが、バルドスの顔には困惑が滲んでいた。


「ただ、旗も紋章もなく……指揮官の姿も見えません。

 王国のいかなる敵とも符合せず……

 まったく"正体不明"であります」


「正体不明だと……?」


 王はゆっくりと玉座に腰を下ろし、唸るように呟いた。


「ユリシアは敗北。オーミヤにはドラゴン2体が出現……

 そこへ、正体不明の魔物の大軍……」


 重い沈黙が、玉座の間を満たした。


 王は拳を握りしめ、低く、静かに言った。


「──戦が……始まるのか……?

 ……すぐに迎え撃つ準備を……」


 ◇◇◇


 ──数時間後、警戒塔の非常鐘が遠くで鳴り始めた。


 王都が、静まり返った。

 誰もが息をひそめ、祈るように空を見上げた。


「……来るぞ」


 バルドスのかすれた声が、静かに響く。


 そして──


 ドォォォン!!


 空が割れた。


 分厚い雲を突き破り、

 巨大な黒竜が王都の上空に姿を現したのだ。


「ど、ドラゴンだぁぁぁッ!!」

「なんて大きさだ……ッ! 街が滅ぼされるぞ!!」


 絶望的な竜の威容に、

 王城の兵士たちが恐怖に顔を引きつらせる。


 王でさえも、その圧倒的な存在感に息を呑んだ。


 だが、その竜の背には──ひとりの鬼の女が仁王立ちしていた。


「来るぞ……!

 炎のブレスか、それとも破滅の魔法か……ッ!?」


 バルドスが叫び、全員が死を覚悟して身構えた。


 ──その瞬間。


 ズン……チャッ……ズンズン……チャッ……♪


 王城を震わせる重低音(ビート)と共に、

 空から『謎の音楽』と『歌声』が降ってきた。


 *


=====

[ラブハリケーン 〜恋は突然に〜]

  作詞作曲:サクラ feat. 魔王軍・少年少女合唱団


[Intro]

 In da house… S・A・K・U・R・A サクラ……

 Yo! Yo! Yo! I'm《Rapper》♪ I'm《サクラァ》♪

 ごきげんよう《ラウワ》♪ これは《カルマ》♪

 《まずは》《サクラ》が う《たうわ》(歌うわ)♪


[Verse1]

 [さー!行こう]♪ [最強]の[大王]が[来場]♪

 さながら[太陽]♪ [体調]は[快調]♪ 気分は[最高]♪

 魔王軍[解放]♪ 今日も[快勝]♪ 請求書が[罪状]♪

 あきらめろ[大将]♪ そのクビ[刈り取る]♪

 これが[代償]♪ きっと今日は[大凶]♪


[Chorus] *魔王軍・少年少女合唱団

 私の〝怒りが〟炎になる。

 私の〝痛みが〟刃となる。

 やがて私の〝慈愛が〟皆を包む。

 そして私の〝光が〟希望を与える。


[Verse2]

 君たち[敗走]♪ 濃厚だよ[敗色]♪

 試される[裁量]♪ オススメよ[再考]♪

 受け取るよ[詫び状]♪ 送るよ[哀悼]♪

 これは私の[愛情]♪ 満ちてる[愛嬌]♪

 でも私の恋は[滞納]♪ あれ?なんか[泣きそう]♪


[Chorus] *魔王軍・少年少女合唱団

 私の〝怒りが〟炎になる。

 私の〝痛みが〟刃となる。

 やがて私の〝慈愛が〟皆を包む。

 そして私の〝光が〟希望を与える。


 Yeah! Yeah! Yo!!! Check it out!!(チェケラッチョー!)

挿絵(By みてみん)

=====


 *


 ざわ……ざわ……!


「……え?」

「何この歌!? なんでこんな状況でラップが聞こえてくるんだ!?」

「誰だよ歌ってんの!? ていうか後ろのコーラス誰だ!? 子供の声だぞ!?」

「しかも全部母音で踏んでるぞ!? す、凄い才能だ!?」

「耳障り気持ち良すぎてやべぇ!?」

「お前ラップ詳しいんだな!」

「へへッ! まぁな! 凄いプレッシャーで[吐きそう]♪」

「お前まで踏むな!!」


 ざわ……ざわ……!


 恐怖で死を覚悟していた王城の兵士たちが、

 気づけばラップの解説を始めていた。


「あの竜の背でチェケラッチョポーズをしている者……

 間違いありません……」


 ユリシアが震える声で呟く。

 落とし穴の泥を拭いもせず、彼女はその名を口にした。


「あれが──常闇のダンジョンのモンスター、

 "サクラ"です……!」


「なんで歌ったの?何あのポーズ……

 めちゃくちゃ韻踏んでた……こえぇ……」


 王の額に、脂汗が滲む。

 筋骨隆々の戦士王が、空から降ってくる謎のヒップホップに本気で怯えていた。


 その直後。


 空から──怒りの演説(と請求書の督促)が、始まった。



(つづく)

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