#083 : ホーリービーム♡不発(死亡フラグ)
──我が名はツバキ。闇を纏いし灼瞳の神子。
だが今、私はリュックを背負い、馬車に揺られていた。
(……いやいや、ちょっと待って!?)
◇◇◇
きっかけは昨日の話。
「聖女様!布教の巡礼へとご出発ください!」
「ちょ…待っ…漆黒の導きに抗うこと叶わず……(ちょっと待って!?まだ気持ちの整理が──)」
「信者五百人の魂が、貴女の神託を待ち望んでおります!」
「我が咆哮を求めし者どもが五百──多すぎィ!!(いつの間に500ぅ──多すぎィ!!)」
そしてトドメがこれ。
「道中の安全はこのローザがお守りします!もちろん命をかけて!」
「ローザ!?まさかの同行者!?強制加入の忠誠の盾よ!(待ってローザ!?お前ついてくるの!?)」
「はい!第一信者として当然の使命でございます!」
……冷静なやつが、いない。
気づけば、弁当(ローザ特製)と印刷済み聖典百部を詰められ、私はローザと共に、馬車に放たれた。
──物理的に放たれた。世界へ。
◇◇◇
【第一の村──アナグラ村】
森の奥にぽつんとある静かな集落。
最初の目的地だった。
村人に事情を聞くと、どうやら魔物が出るらしい。
村A「最近、森の奥から変な音がするんです……ドガン!とかズガン!とか……」
村B「木が倒れる音もして……誰も近づけなくて……」
(なにそれ!?ヤバいやつじゃん!?え、私が行くの?無理なんだけど!?)
「ち、力なき者に、抗う術など……(え、無理無理無理!!退治するなんて聞いてない……帰りたい……)」
私は震え、ローザは輝いていた。
「ご安心ください!聖女様は左目から神の裁きを放てます!」
(ローザ!話をややこしくしないで!やめて!?やめて!?)
「わ…我が瞳に宿るは、浄化の閃光──ってだからアレは事故なの!!マジで止めて!!」
……その時だった。
森の奥から、“ミシ……ミシ……”と木を軋ませる音が聞こえた。
私は思わず声を飲む。
(……え?)
ざわ……ざわ……。
葉が揺れ、空気がピリつく。
次第に足音ともつかない“ズル……ズル……”という鈍い音が近づいてきた。
ローザが私の肩を押す。
「聖女様、あれを!」
「ま、待て……ローザ……!?あれは何だ……あの森の裂け目より現れし“影獣”の気配は──!?(ま、待ってローザ!?あれって何──)」
──ズルルッ。
木々の奥から、三メートル級の牙付きイノシシが姿を現した。
イノシシの鼻息が、地面の落ち葉を巻き上げる。
ズシンッ、ズシンッと大地を抉る蹄音。
木の幹すらミシミシ揺れている。
(やだやだやだ!これ絶対死ぬやつじゃん!!)
「ふ……ふふふ……我が力を恐れぬとは……!(ヒィィ来たああああ!!)」
左目、ピリッ──来た。来そう。お願い来て……!!
「堕ちよ、蠢く悪意よ……我が左眼にて貫かれよォオオオッ!!!」
…………出なかった。
「は!?なんで!?なんで今に限って……え!?!?」
イノシシ、助走に入る。
私は後ずさる。脚が震える。もうムリ。ぜったいムリ。
「ローザァァアア!!ビーム出ない!無理!無理ィィィ!!!死ぬ!私死ぬぅううううう!!」
「頑張ってください聖女様!“奇跡は焦らずとも訪れる”って昨夜の寝言で仰ってました!」
「一回で良いから人の話を聞こう?あとそれ私、本当に寝てる?」
そんなこと言った覚えない!!ただの寝言!!!
私は完全にテンパっていた。
「ふ、ふふ封印されしわわわ我が左眼よ……い、いいいまこそその真にょ──」
「聖女様、声裏返ってます。」(冷静)
「うっさい!そりゃ声も裏返るわ!あとなんで冷静なの?凄くない?」
だが、その瞬間──
左目が再び、ピリリと疼いた。
(つづく)