#080 : バレたら死ぬ☆聖女やってます
前回までのあらすじ
→ 勘違いが積み重なって聖女になった第03章のツバキ編の続き
◇◇◇
──我が名はツバキ。闇を纏いし、灼瞳の神子。
されど世の者どもは、我を「聖女」と呼ぶ。
聖女でないとバレたら死ぬので今日も必死に生きている。
◇◇◇
私は夢の中で、カイ様と一緒に闇の洞窟を冒険していた。
「黄昏の紫炎に舞う影よ、時の狭間に響く我が言霊は……」
枕元では、侍女ローザが神妙な顔で筆を走らせていた。
「聖女様!また素晴らしき神託を賜りました!」
朝食の盆を持つローザ。私の第一信者で、最大の誤解者。
「な、何だと?昨夜の……啓示が、汝の耳に届いたのか?」
「はい!就寝中も枕元で聴いておりますので!」
「寝ぇッ!?!?」
思わず素が出た。慌てて咳払いをする。
「──ふん、我が…あの…眠りの中で見た夢を…いや、眠りの底から出る啓示を……汝が聞くとは」
「はい!毎晩、就寝の時間から聖女様の御枕元で待機するよう、大司教様より命じられております!」
「な…!いつからそんな…えっと…儀式?が行われるように…いや、執り行われるようになったというのだ?」
「ホーリービーム♡の奇跡の翌日からです!」
脳内で頭を抱えたくなる。
「それで……私…いや我が…その…眠りの言葉とは?」
「『黄昏の紫炎に舞う影よ、時の狭間に響く我が言霊は──』」
「ぐは!?」
「『現世の責務とは逃れられず…うーん……あと5分……』まで」
「最後おかしいって気付こう?」
それ、カイ様の名セリフ。
慌てて中二病モードに戻す。バレるわけにはいかないのだ。
「ふん……その葛藤こそ、闇と現世を繋ぐ試練……知性なき者には理解できまい」
「素晴らしい御思索でございます!」
ローザの反応に、顔を片手で隠す。よくカイ様がやるやつ。
「……闇の深淵よ、我を包め……いや、抱け、だな」
「本日の儀式は大聖堂での説教から始まります」
「んん!?説教!?私が!?何話せば!?」
「聖女様のお言葉なら、何でも!」
「責任重すぎるよ…いや、“責務”…重すぎるのだが……」
◇◇◇
大聖堂、ぎっしり満員。
文字通り立錐の余地がない。
私の逃げ道も、ない。
黒装束。
裾を踏んでよろけたのを、誰も見てないと信じたい。
(マジでどうすんの?私が?説教を?ガチで?)
不安で膝が震える。頭ん中も震えてる。
(落ち着け……カイ様ならこう言う……)
「…………」
壇上から会場を見下ろす……観客はなぜか静寂。
全員、待っている。
(いける……いや、いく……いくしかない──!)
私は、大きく息を吸い、喉を震わせた。
(つづく)




