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魔王がポンコツだから私がやる。これ、私の黒歴史。見るな。【10万PV大感謝!】  作者: さくらんぼん
第06章 : リンド村を拠点にしました。名前は「サクラ帝国・湯けむり支部」です。
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#073 : 借金10億☆サーカスに行こう


領主騒動から数日。


街はようやく平穏を取り戻していた。

だが、そこに“元”領主の姿はなかった。


操られていたとはいえ、自らの民に牙を剥いた罪は重い。


あのまましれっと職場復帰とかされてたら、こっちがドラゴンスクリューで始末してたところである。


そして、その日。

王都から戻ったジルが、いつになく難しい表情で口を開いた。


ジル「……えっと。オーミヤの街、そして皆様の拠点・リンド村を含む ── “サイータマ領”の新たな領主に……私が任命されました」


サクラ「ん?」

エスト『え?』

辰夫「お?」

辰美「へ?」


全員、語彙力が完全に吹き飛んでいた。


ジル「本来の爵位的にも、私が次の候補ではあったのですが……皆様の功績も加味され、王より正式な勅命を頂きました」


サクラ「へー」

エスト『あー』

辰夫「ほー」

辰美「おー」


……内容は理解してないけど、とりあえず返事はする。これが魔王軍だ。どうだ?怖いか?


ジルは少し照れながら、私の方を見て言った。


ジル「……サクラさん。領主夫人……なんて、いかがですか?」


サクラ「ちょ、やめてよ……っ」


モジモジと視線を逸らす私の前に、辰美が一歩踏み出した。


辰美「だっ、ダメです!この人はそんなところで終わる器じゃないんですから!」


サクラ「……。」


……たしかに。

領主の妻って肩書き、悪くない。


玉の輿の上に、領主を後ろ盾にすれば、王都とのパイプもできる。

つまり、世界征服への近道──それが、今ここに転がっているわけで。


でも──私は……


サクラ「くっ……ダメよ!ここでゴールインなんかできるわけないじゃない!」


サクラ「私にはまだ、征服も胸も、途中なのよ!」


サクラ(心の声)(たぶん一度は夢見たよ、玉の輿も安心も。でも私、楽するよりもっとデカい夢で転びたい派だし?ヒゲボウズマッチョと結婚するのよ私は!)


私はジルの申し出を振り切り、エスト様を見つめた。

エスト様は、私の視線に気付くとニコッと笑った。


ジル「ふふふ。分かってましたよ。ここでサクラさんが目標を諦めるわけがない…とね。そんなところも含めて惚れてるのです。」


ジルは少し寂しげに微笑みながら、話を続けた。


ジル「では、今後は“領主”として、皆様の旅を全力で支援させていただきます。」


サクラ「あーいはいはーい!その流れでお願いしまーす!」

「はいこれ!リンド村の家賃と、温泉建設費と、ステージ照明と ── あと、えーと、私のツノ専用美容院代!」


私はジルをツンツンしながら、束になった請求書をドンッと差し出した。


だが ── ジルから返ってきたのは、予想外の拒否だった。


ジル「……すみません、サクラさん。それはできません」


サクラ「えっ!?なんで!?」


ジル「これらはすべて……サクラさんの、完全な私的浪費ですので」


……バッサリいかれた。


サクラ「ぐはッ……」

エスト『そりゃそうだ☆』

辰夫「ふむ……」

辰美「納得しかないですね」


下僕たちは全員うなずきやがった。

私は、ささやかな抵抗を試みる。


サクラ「……ぐっ……ぐぅぅ……」


エスト『“ぐうの音も出るもん!”って言ってるけど、それもう音だよ☆』


サクラ「嘘でしょ……ジル? 裏切ったの……?」


私はよろけながらジルに問いかける。

けれど、ジルは何も言わず、ただ視線を逸らした。


サクラ「信じてたのに……ジル? ジルぅ……!」


私はその胸にすがりついた。すがるしかなかった。


ジル「……ごめんなさい、サクラさん。私も辛いんです。でも、これは“仕事”なので」


残酷なまでに冷静な言葉だった。


サクラ「じゃあ……じゃあ、私は……このまま破滅するしかないっていうの……!?」


ジルは窓の外を見た。

そこには、激しい雨が降っていた。


まるで、私の未来の預金残高のように冷たく、重かった──。


……

………


しばらくの間、部屋を沈黙が支配していた。

誰も何も言わなかった。言えなかった。


私は、手元の請求書を見つめたまま震えていた。


サクラ「ど……どど……どうするの……?」


サクラ「この……10億……どう返せばいいの……?」


私はおばあちゃんの言葉……『金は返さない。でも感謝は忘れない。そう言ったら、おじいちゃん連れてかれたわ。』を思い出し、おじいちゃんを偲んだ。


全員『「「「10億!?どこに使ったんだよ!!!!!」」」』


私は請求書を握りしめ、震える声で読み上げた。


サクラ

 「“幻のマグロ握り食べ放題フェス参加費:1億リフル”……」

 「“ツノ専用ティアラ定期購入・年間契約:2億リフル”……」

 「“勇者サクラ公式応援アイドルユニット・デビュー費用:3億リフル”……」

 「“世界征服コンサート用ステージ照明一式:2億リフル”……」

 「“イルカとシャチとアザラシのショー建設費:残り全部”……」


(沈黙)


エスト『お姉ちゃん……何このラインナップwww』

辰美「完全に浪費です!!」

辰夫「魔王軍の資金運用、崩壊しましたな……」


サクラ「っさい!!みんな、イルカとシャチとアザラシのショー見たいだろうがぁあ!!」


全員『「「「えぇ……」」」』


サクラ「ふっ……ふふ……しかたないわね……やるしか……ないか……」


私は決意の声で言った。


サクラ「辰夫!辰美!すぐに支度して!行くわよ!」


辰夫「はい?」

辰美「え、どこに!?」


サクラ「決まってるでしょう?」(……すまない、二人とも……)


サクラ「──サーカスよ」


辰夫&辰美「「売る気かよ!!」」


膝から崩れ落ちる2人。


サクラ「分かってる……分かってるのよ……!」

「でもね……!でもねぇえええええええええええ!!」


私も膝をつき、その場で嗚咽した。


そんな修羅場を見て、エスト様は大爆笑だった。


エスト『あははwww ショーとかサーカスよりも一番珍しい生き物はお姉ちゃんだしwww』


──こうして私は、10億リフルの借金を背負った。

(※1リフル=日本の1円と同価値)


サクラ「今から世界征服は中断して“出稼ぎ遠征”します!」


サクラ「魔王軍緊急出動!みんなでマグロ漁に行くわよ!」


エスト『いかねーよ☆』



(つづく)


◇◇◇


──今週のおばあちゃん語録──

『金は返さない。でも感謝は忘れない。そう言ったら、おじいちゃん連れてかれたわ。』


解説:

あの日、おじいちゃんは取り立てに向かってこう言ったのよ。

「お金はもう使った。でも、あの時間は本物だったんです」って。

誰も何も言わなかったわ。

取り立ての人が黙って頷いて、そのままおじいちゃんを連れていったの。

……おばあちゃんはその様子を見ながら、味噌汁にネギを足したそうよ。


《征服ログ》


【征服度】:4%(ジルが領主に昇格+街の信頼獲得)

【支配地域】:サイータマ領(オーミヤ・リンド村含む、名目上の領有完成)

【主な進捗】:

 ・“元”領主、消息不明(※事実上の始末完了)

 ・ジルが新領主に就任、魔王軍との直接協力体制が成立

 ・サクラ、領主夫人の誘いを華麗にスルーし「征服と胸はまだ途中」と明言

 ・10億リフルの借金が発覚

 ・辰美・辰夫、サーカス行きの危機に陥るもなんとか回避

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