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#073|桜050:酒

 翌朝、柔らかな朝日が窓から差し込み、

 私の顔を優しく照らした。


 私はゆっくりと目を開け、天井を見つめた。


 すぐに、身体に変化が起きている事が分かった。


「あれ?あんなに飲んだのに……身体が軽い……?

 そう言えば寝てる間に……

 “進化”とか言われた気が……?」

 

 進化という言葉に、

 既に起きていたエスト様と辰美が驚きの声を上げた。


「え!進化!?お姉ちゃん凄い凄い!」

 エスト様の目は星型になり、

 興奮で体が小刻みに震えている。


「進化って!めっちゃレアですよ!サクラさん!

 おめでとうございます!結婚してください!

 きゃ……言っちゃった……」

 辰美は顔を真っ赤にしながら、両手で頬を覆った。

 

「……へぇ……そうなんだ……」

 私は辰美を無視。

 上の空で返事をすると、ゆっくりと立ち上がり、

 部屋の隅にある全身鏡の前に立った。


 正直なところ、私は強くなることにまったく興味がない。


 それは単純に、強くなればなるほど、

 前線で戦わなければならなくなるからだ。


 危険で痛い思いをするのは御免だし、

 何より面倒くさい。


 しかし、エスト様との世界征服という目標は達成したい。


 だからこそ、私以外の誰かが頑張ってくれれば良いと

 常々思っているのだ。辰夫とか辰美とか。


「んー……?」

 鏡に映った自分を確認したが、

 外見上の大きな変化は見られなかった。


 しかし、よく見ると筋肉が引き締まっているような気がした。


 体全体がより引き締まり、

 姿勢も自然と良くなっているように感じる。


 そして!私はある事に気付いた!


「ぇ……きゃあああッ!?」

 私が驚きの声をあげると、

 エスト様と辰美がビックリしながらこっちを見た。


「えッ?な!なに?」

「ど!どうしました?」

 私は溢れる涙を堪え、震える声で2人に言った。


「胸が……胸筋が、引き締まって……減ってない?」


 ──沈黙。


「減るも何も!元からあるか分かんねーから!?」

 エスト様が私の肩を叩く。


「サクラさんは私と同じぺったんですし!」

 辰美がピースサインを作る。


 ──沈黙。


 私は……ただ……ただ少しだけ……

 笑ってほしかっただけなのに。


 ……二人は……笑って、くれないんだね。


「……よし」


 私はおばあちゃんの言葉を思い出した。

 『“怒ってる?“って聞かれた時はね、

  “怒る権利を持ってると思ってる?“って聞き返したの。

  今でもそれがおじいちゃんの人生の分岐点だったと思うわ』


 ── 私はコイツらを埋める決意をした。


 しかし、その前に自分の身体の変化が気になった。


「それにしても身体が絶好調すぎる……

 なんかスキル覚えたのかな?」


 私は呟いた。


「……とりあえずステータスを確認してみるか……」


「ぁ!ステータスーッ!オープンッヌ!」(*結果発表の発音)


 目の前にステータスウインドウが表示された。


\\ ぺったんこぉーーーーーッ ♪//


====================

★勇者・サクラの現在のステータス

 ・名前:サクラ

 ・種族:鬼族:酒呑童子 ← ☆New

 ・レベル:300

====================


「……」


 私はマジマジとステータスを見る。


「おお?鬼族の【酒呑童子】というものになってる!」


「……酒呑童子って……前世の記憶では確か……

 ヤマタノオロチの子で、鬼の中でも最強説があったはず!」

 

《天の声補足:諸説あります。

 あとイケメンだった説もあります。

 なお、サクラは酒クズ方面に特化してみました》


 強くなる事に興味が無いとは言え、

 流石にこれにはテンションが上がった!


「「おおッ!?最強の鬼ッ!?」」


 2人は興味津々だ。

 これからこの最強の鬼に埋められるのに。


「……んで……その酒呑童子さんの……

 効果はどこかな……っと……?」


 私はステータスウインドウを下にスクロールすると、

 エクストラスキル欄に追加されているスキルを見つけた。


「お!あった!……え?これだけ……?」


\\ 【酒豪】ドーーーーーン!! //


《効果:肝臓強化。二日酔いになりにくくなる。肝臓大事。》



 ──沈黙。



 ──さらに沈黙。



 部屋にハエが一匹「ブーン」と飛ぶ音だけ響く。


「……………………」


 ハエが私のツノにとまる。


「──おいこらシステム!!!」


「「あははははははは!!」」

 エスト様と辰美が爆笑した。


 ──硬直。


 (……え、これ肝臓だけ進化?

  敵は殴れないけどウコンは倒せるってこと?)


 私の表情が徐々に曇っていく。


「……なにこれ……ねぇ?……

 今、私の身に何が起きてるの?」


「よ、良かったね!あははははは!!

 いっぱいお酒飲めるねっあははははは!!」

 エスト様は大笑いしながら、床を転げ回り始めた。


「ちょっとあはは!!

 な、なんで毎回笑わせるんですかははは!!」

 辰美も腹を抱えて笑い出した。


「ほぅ……」


 私の目が鋭く光る。


 ドンッ!!!!!


「カンゾウッ!」


 ドンッ!!!!!


「ダイジッ!」


 2人は私のドラゴン・スクリューを受け、

 回転しながら窓の外に放り出された。


 窓の外では2人が頭から地面に刺さっていた。

 それは、さながら墓標のようであった──。


「ホント!なんなんだよ!どうなってんだよ!

 この世界のシステムは!」


 私は窓の外の2つの墓標を見つめ、


 手の汚れをパンパンと払いながら

 天の声の中の人の墓標も用意する決意をした。


 *


「サクラ殿!?凄い音がしましたが!」

 辰夫が慌てて部屋に入ってきた。


「……ふん。なんでもないわよ」

 私は窓の外の2つの墓標を見つめながら言う。


「……そうですか……では」


「あー、辰夫」

 私は部屋から出て行こうとする辰夫を呼び止めた。


「は、はい……?」

「……領主戦の時は……サポート……ありがとうね。

 助かったわ。また宜しく」


 私は窓の外の墓標から雲に視線を移しながら言った。


「……え……?……あ!は……は、はいッ!!!」

 辰夫の声が弾んだ。


 普段の落ち着いた口調とは打って変わって、

 興奮と喜びが溢れている。


「い、いえ!お役に立てて光栄です!」


 辰夫の声には深い感謝と尊敬の念が込められていた。


 彼の目には涙が光っているように見えた。


 私は軽く頷き、辰夫に背を向けたまま、


 「うん」と小さく返事をした。


 部屋を出ていく辰夫の足音が、

 いつもより軽やかに聞こえた。


「……調子乗るなよ、辰夫のくせに」


 窓に映った自分の顔が、

 少しだけ緩んでいるのを見て、舌打ちをした。


 *


 ── そして、この時の私は忘れていた。


 このステータスウインドウが

 マルチタッチ対応デバイスである事を。


 天の声の中の人の悪戯だろうか?


 二本指でタップして確認できる詳細には

 以下のような記載があった。


====================

 エクストラスキル

  酒豪 → 二日酔いになりにくくなる。肝臓大事。

   (鬼剣舞 → 全ステータス2倍)

   (鬼ころし → 鬼系モンスターへの攻撃力2倍)

   (鬼山間 [赤ラベル] → 酔えば酔うほど強くなる)

====================


 全部日本酒の名前かよ。

 酔拳みたいなのあるし、どうなってんだよこの世界。

 

 まぁ私がこれに気づくのは、だいぶ先のお話。


 肝臓は大事ね……まぁそうなんだけどさ?


 こいつらとバカやってる時間のが大事なんよ。


 多分ね。



(つづく)



──【今週のおばあちゃん語録】──

『“怒ってる?“って聞かれた時はね、

 “怒る権利を持ってると思ってる?“って聞き返したの。

 今でもそれがおじいちゃんの人生の分岐点だったと思うわ』


解説:

この言葉を聞いたおじいちゃんは、

その日から味噌汁の味がしなくなったという。


なお、翌日から「はい」と

「申し訳ありません」だけで会話が成立するようになった。

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