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#071|桜048:念のため、エルボードロップ(N回)

前回までのあらすじ

→ まだオートチャージしてないの?


◇◇◇


「ふう、倒した……かな?

 ………んー…………………」


 私は少し考えてから──


「……」

 ドンッ!!!!!

「……ぐがっ!」

 念のため、エルボードロップをしといた。


「……」

 ドンッ!!!!!

「……ちょっ!」

 念のため、エルボードロップをしといた。


「……領土、くれる?」

 ドンッ!!!!!

「は、はい……!」

 念のため、エルボードロップをしといた。


「……ハンコ、ある?」

 ドンッ!!!!!

「あ、あります……!」

 念のため、エルボードロップをしといた。


「……領収書、いる?」

 ドンッ!!!!!

「い、いりません……ッ!」

 念のため、エルボードロップをしといた。


「……お腹、空いた」

 ドンッ!!!!!

「ご馳走を……用意します……!」

 念のため、エルボードロップをしといた。



「……」

(うん。ちゃんと話せて良かった)



 ──しばしの沈黙。



「……」

 ドンッ!!!!!

「……まだッ!?」

 念のため、エルボードロップをしといた。


「……」

 ドンッ!!!!!

「…………」

 念のため、エルボードロップをしといた。


 *


 ざわ……ざわ……


「……な、なんか無言で……繰り返してない?」

 通りすがりの男が、引きつった笑顔で呟いた。


「え?もう倒れてるのに……」

 隣にいた若い女性が、恐る恐る確認する。


「……領主様、がんばれ」

 いつの間にか感情移入してしまった観客が、思わず応援していた。


「ひぃ……」

 卵売りの女性が、声にならない悲鳴を漏らす。


 カシャ……

 彼女の手から、卵が一つ、石畳に落ちて割れた。


 ざわざわ……


 市場全体が静まり返り、誰も次の一撃を止められなかった。


「ママぁ……あのお姉ちゃん、なにしてるの?」

 幼い子供が指を差す。


「シッ! 見ちゃいけません!」

 母親が慌てて子供の目を覆った。


「あ、あれはね……『お餅』をついているのよ!」


「ふーん、わたしもお餅食べたいー!」

 子供は無邪気に笑った。


 それと、エスト様と辰夫がまだ恋バナしてた。


「えー!辰夫、それでその子に告白したのー!?」

「いやぁ、それがまだでして……」


 ドンッ!!!!!


「じゃあデートに誘ったの?」

「それも……」


 エスト様と辰夫は、背後の暴力を完全に無視。


 ドンッ!!!!!


 ドンッ!!!!!


 ドンッ!!!!!


「ママ、お餅、まだできないの?」


 *


「……こ……怖い……

 淡々とエルボードロップを繰り返している…」


 ジルが怯えた声で呟く。


「サクラさん!領主がグッタリしてる!死んじゃう!」


 辰美が叫んだ。


「ふぅ ♪ もういいかな♪

 ……はぁ……♪……スッキリッ♪」


 私は新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のように、

 爽やかな気分となった。


 そして、ドン引きしている辰美とジルを見て、不思議そうに首を傾げた。


「なによ、そんな引かなくていいじゃん。ムダ様も言ってたのよ?

『勝利の確認は、エルボー五連発が基本だ。

 一発で倒れたら運が悪い。

 五発で倒れたら覚悟が足りん。

 十発でも生きてたら……お前、けっこう好きだぜ』

 ……ってさ?」


 私は、ピクピクと痙攣する領主を見下ろして微笑んだ。


「こいつ、十発以上耐えたから。

 私、こいつのことけっこう好きみたい」


「「謎理論……」」


 辰美とジルが小声でハモった。


 すると──


 領主の影が動き出した!


 そしてその影から、声が聞こえる。


「なるほど。人間の身体ではこんなものか……」


 聞き覚えのある声だった。


「……あ!辰美!この声!悪魔の面白お姉さんの声だよ!」


 私は辰美に声をかけた。


「あッ!お久しぶりです!お元気でしたか!?」


 辰美が嬉しそうに影に向かって叫ぶ。


「……くっ……ぷぷ……クソッ!……

 思い出し……調子が……狂……うぷぷ……

 ……覚えてぷ!」


 そう言い残すと、影は消え去った。


「「覚えてぷ!?」」


 私と辰美は同時に笑った。


 やっぱりお姉さんは面白いなー。


 影が消えると、領主は人間の姿に戻った。


 それを見た街の人々は安心したのか、歓声をあげた。


 *


 わーわー!


「おお……!領主様が戻った!」


「あの鬼の人……カッコよかった!」


「街を救ってくれてありがとう!」


「体当たりも凄かったよ!」


「光魔法使ってなかった?」


「気のせいだろ?遠くてハッキリ見えなかったしな!」


 わーわー!


「わぁぉ……」


「あはは……」


 私と辰美が照れていると──


「…あれ?もう終わっちゃった?」


「ふむ。そのようですな」


 エスト様と辰夫が戻ってきた。


 *


 わーわー!


「お嬢ちゃんも魔法のバリアありがとうね!」


「バリア凄かったよー!」


「あれ?そこの竜人族の男は何もしてなくね?」


「この非常時に恋バナの相談してたよ!」


「はぁ?ふざけんな!卵投げてやれ!卵!」


 わーわー!


「……ふむ……良い天気……ですな……」


 辰夫は頭で割れた卵に気付いていないフリをし、

 空を見上げた。


 ──それは涙が溢れないようにする為だった。


 *


 ここでジルが動く。


「皆様!見ていたのでお分かりになると思いますが、

 この方々は決して悪い人たちではありません。

 私の大切なお客様ですので、

 どうか受け入れていただけますよう、お願いします」


 ジルが最高のタイミングで私たちを紹介した。


 わーわー!


「ジル様!この方々を連れてきてくれて助かりました!」


「そうだよな!この方々が居なかったらこの街は消えてたよ!」


「えっと!でもさ!そこの竜人族の男は何もしてなくね?」


「だからこの非常時に恋バナの相談してたよ!」


「はぁ?ふざけんなよ!石投げろ!石!」


 わーわー!


「……ふむ……太陽が……眩しい……な」


 ゴツッ!


 石が辰夫の頭に直撃した。


「……魔王軍やめて田舎に帰ろうかな……」


 辰夫は再び空を見た。


 ──太陽だけは、とても優しかった。



(つづく)



──【今週のムダ様語録】──


『勝利の確認は、エルボー五連発が基本だ。

 一発で倒れたら運が悪い。

 五発で倒れたら覚悟が足りん。

 十発でも生きてたら……お前、けっこう好きだぜ』


解説:

ムダ様いわく「痛みは対話、エルボーは翻訳機」。

五発は挨拶。十発は敬意。無言で繰り返すのは、魂へのノック。

──サクラはこの思想を深く理解しており、躊躇なく実践している。


なお、領主は八発目で泣いた。

泣いた瞬間、サクラは二発追加した。(鬼)

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