#005 : 似たもの姉妹、恥ずかしさで繋がってる。
前回のあらすじ
→ 黒歴史中二ポエムを何回も朗読された。もうお嫁に行けない。
◇◇◇
【現在地】パンジャ大陸南東部・常闇のダンジョン(魔王の間)
【視点】サクラ
【状況】異世界で目覚め、ツノが生えた。魔王エストとの共同生活(?)がスタート。
◇◇◇
いきなり黒歴史朗読されてパニクったけどさ、巷で流行りのアレだ。
──異世界召喚てやつよねこれ?
(記憶が整理されていく)
サクラ「……召喚されて、強化されて、ツノが生えて──って待て、ツノ!?」
エスト『うん☆』
サクラ「うん☆じゃねぇええ!?」
慌ててベッドから飛び降りた。
(──着地)──ドゴォォォン!!
サクラ「ひゃん!?」
──床が沈む。真ん中で自分のスペックに震える。
サクラ「ご、ごめん……なのかな?……床、陥没しちゃった!?」
(石柱に手)
ミシ……ゴリッ。
サクラ「指の形に凹むって何!?」
エスト『す、すごい……』
そうこうしてると、部屋の隅に鏡を見つけた。
(恐る恐る鏡を覗き込む)
片目から、ちらっ……
鏡の向こうには──肌ピカ、目キラ。若返ってる自分。
サクラ「転生って美容液!?」
試しにポーズを決めてみる。決まる。口元が緩む。
次の瞬間──胸元に目が行く。ぺったん。
(ん?)
サクラ「あれ……胸小さい?ここ、演出ミスじゃね?」
そして、頭の違和感に気づく。頭に硬い突起物。
サクラ「は?ツノ?これWi-Fi拾えるの?」
エスト『ツノはね!怒ると赤、恥ずかしいとピンクになるよ!』
サクラ「それだけ!?感情バレバレじゃん!?」
エスト『今はピンクだよ☆』
(んん?)
サクラ「こういうのって美少女巨乳になってさ!?チートスキルを選べるんじゃないの!?」
エスト『鬼だけに……鬼コース……かな?☆』
(二回目の人生、早くもハズレ確定?)
(……。)
──その瞬間、頭の奥でブチッと何かが切れた。
私の周りの空気が、ぎゅっと冷たくなる。
鏡に映るツノが、ゆっくりと赤く染まった。
この魔王が、身体を作った!?
ガンッ!!パリーン!!
鏡を叩き割って、私はガラスの破片を蹴飛ばしながら睨む。
エスト『お、お姉ちゃん……ツノが真っ赤だよ……?』
サクラ「召喚時に身体を作ったって……言ったよね?」
エスト『う、うんっ!お姉ちゃんの魂が死にそうだったから!魔力で肉体を強くしたの……大変だったんだよ?でも頑張ったの!』
エスト『そしたらツノが出ちゃった☆』
ぺろっと舌を出した。空気は読めないらしい。
(エストの視線が召喚陣のココアの染みに落ちる)
サクラ「へ、へぇ?……死にそうに?」
エスト『で、でも!かっこいいよ!? 鬼だし!強そうだし!』
サクラ「ツノの話じゃない!!」
(ふーッ!ふーッ!)
サクラ「……ふーッ……落ち着け……いや落ち着けるかぁああ!!」
(沈黙)
エスト『……ん”?ん”ん”……?』
大きく首を傾げるエストを横目に話を続ける。
サクラ「死にそうな私の”胸”にさ!?わーい☆ 魔力☆注入☆──どーん☆でしょ?」
エスト『なんで!?それに私、そんなにアホっぽく喋らないよ!?』
(言うよ、君なら言うよ)
サクラ「人魚とかラミアとかアラクネとかでも良かったんだよ!?これが私の制約と誓約」
エスト『その種族、下半身が魚、蛇、蜘蛛だけど……それでいいの!?』
(ぐ……ま、まぁ良い。それが私の覚悟)
サクラ「べ、別に……良いし……。」(*ツノ=青)
エスト『(青くなった?なんだろう)……ゴブリンやオークでも!?』
(ぐぬ……いや、それは無理があるだろ……)
サクラ「えッ!?……そ、それは嫌かな……」(小声 *ツノ青のまま)
顔を覗き込みながら追撃してくるエスト。
エスト『5メートルの巨体でも!?』
(ぐぬぬ……ご、ごめーとる……カレピ……無理ぃ……)
サクラ「……い、いや……でございます……」(小声&敬語 *ツノ青)
(沈黙)(エストにんまり)
エスト『はい論破!結局見た目☆』
(ぐぬぬぬ……小娘がぁあ!?)
私のツノが小刻みに震えだした。
サクラ「私が納得してねぇんだから論破じゃねぇだろ!!」(逆ギレ中 *ツノ=どす黒)
エスト『逆ギレ!?お姉ちゃん、ツノの色ヤバい!避難!』
サクラ「逃げるな。だまれ。正座して聞け魔王。今の私に正論は通用しない。」(*ツノ=虹色)
エスト『虹!?……わ!私は!この世界で生きていけるようにしようとしたのぉ!』(正論)
(顔が真っ赤になる)
サクラ「はぁ!?胸さえあれば文明築けんだろぉがよぉ!?クレオパトラ知らねーのかよぉ!?」(暴論 *ツノから湯気)
《天の声:クレオパトラにそんな逸話は無い》
サクラ「またお前か!!だまりゃ!!」
エスト『色だけじゃなくて湯気ッ!?この人なに言ってんの!?』
(膝から崩れ落ちる)
サクラ「あああ!!転生してもAカップなのかよーッ!!」
エスト『Aカップ……?』
Aカップと聞いて首を傾げるエスト
エスト『え?お姉ちゃんの魂に書いてあったAって胸のことなの?』
(ん?)
サクラ「……何だと……思ってたの?」(震え声)
エスト『筋力の……A?』
(んん?筋力?)
サクラ「違う。A──カップのA、だよ」(へたり込む)
エスト『ツノ面白いなぁ……』
サクラ「……うるさぃ……」(鼻声)
エスト『(お姉ちゃん、本当に悩んでたんだ……)小さいの嫌なの?』
サクラ「嫌だよ!!」(嗚咽)
エスト『ご、ごめん!筋力だと思って……胸だったら……もっと大きくできたのに……』
(!?)
サクラ「できたの……?」(震え声)
エスト『できたよ?』(きょとん)
サクラ「できたのかよ!!」(ちゅどーん!!*ツノ=大爆発)
爆風。天井。悲鳴。あと何か知らんが光る。
エスト『!?!?!?!?!?!?』
サクラ「ツノォォォ!!自爆スキル搭載とか聞いてない!!」
エスト『爆発したぁああああああ!?』
(もくもく……)
(煙が晴れるの待ち)
サクラ「……」
エスト『……』
──その時。ムダ様のお言葉が私の頭の中に響く。
《理不尽は受け入れるな。拳で訂正しろ。》
(目を閉じてムダ様のセリフを噛み締め中)
サクラ「オーケームダ様……ありがとう」
(ゆっくりと目を開ける)
……目を開けると同時に私はもう拳を握っていた。
エスト『……?』(きょとん)
サクラ「ふ……ふふ……私の性能テスト開始っと。プレイヤー:私、ターゲット:魔王。バグチェック入ります☆」(*ツノ=燃えかす)
エスト『なになになに!?』
サクラ「魔王ちゃん、セーブした?どこにリスポーンするのかな?」(にこ)
エスト『笑顔が一番怖いぃぃ!!』
壁際まで後ずさるエスト。
エスト『い……一緒に世界征服してくれたらさ!』
サクラ「なぁに」(にこ)
エスト『き!ききき巨乳にできるかも……!?』
(!?!?)
エスト『た!たたた!たぶん……だからお願い、殴らな──』
──言い終える前に、私はその手を掴んでいた。
サクラ「はじめましょう。魔王エスト様。世界征服を。」(*ツノ=ピカピカ)
エスト『ツノまぶしッ!?』
── そのまま手の甲に誓いのキスをする。
エスト『ひぃぃぃぃ……(Chu♡)……ん……?』
こうして私は食い気味に心からの忠誠を誓ったのである──。
──忠誠は速さ。契約は勢い。反省はだいたい後日。
サクラ「……。」(ニコォ *目が笑ってない)
エスト『……。』(つられてニコォ *目が笑ってない)
エスト『……あは……』
サクラ「……ふはッ!」
エスト『あ……あははは……』(どーしよう!この人…超怖い!)
サクラ「ふはははーふはははーッ!」(*ツノ=ミラーボール)
エスト『うわぁ!?ツノまぶしッ!!』
バカ二人の笑い声が石造りのダンジョンに響き渡る。
(静寂)
(笑い声エコー中)
笑い終わったあと、ふいに静寂が戻る。
ダンジョンの冷たい空気と、ほんのり残る余韻だけが漂っていた。
──こうして私たちの世界征服が始まったのである。
サクラ「ん……あれ……?なんで世界征服するんだっけ?」
エスト『え?えーと……』
サクラ「えーと?じゃなくて!計画はあるの!?」
エスト『け、計画?』
サクラ「計画・段取り・予算、ある?」
エスト『よ、予算って何?』
サクラ「夢に必要な現実」
(エストが目を逸らす)
サクラ「無計画、了解。」(*ツノ=パトライト)
エスト『赤く光って回ってる!?』
◇◇◇
サクラ「あッ!」
エスト『ひぃッ!?』(ビクビク)
サクラ「昔話アフロじゃなくて良かった。虎柄ビキニは欲しかったけど」(*ツノ=ピンク)
エスト『正気?』
(……。)
サクラ「ところでお腹空きました。」(*ツノ=縮小)
エスト『ツノ小さくなるの!?』
◇◇◇
エスト──小さくて、頼りなくて、でも──必死。
……ああ、そっか。
私と、この子。
私たちが欲しいのは、きっと──居場所。温もり。
「また明日ね」や「おかえり」って言い合える相手。
──この子は私だった。
本当は、巨乳になれるなんて最初から思ってない。
ただ、この子が必死で、放っておけなかった。
そして何より── "家族" という言葉が嬉しかった。
何千回もクソだ!と叫んだはずなのに。
この子の「一緒にいよう」って言葉が、凍りついてた心をじんわり溶かしていく。
……ずるいよ、ほんと。
ま、そんなの絶対言わんけどね。
また恥ずか死するわ。
──その時、エストが吹いた。
エスト『お姉ちゃんツノいそがし! 何パターンあるのそれ!? あははは!』
……ゲラゲラ笑ってる。
え、ちょ、そんな笑う? こっちは結構必死なんだけど。
でも、なんだろう。
笑われてるのに、胸の奥がほんの少しあったかい。
……恥ずかしい。めっちゃ恥ずかしい。
でも、なんか、この子が笑うと嬉しい。
ふふ。
サクラ「……はは、好きに笑え」
笑いながら、目の奥がじんわり熱かった。
ダンジョンの壁が笑い声を返す。
笑い転げるエストを見つめた。
──うん。悪くない、かも。
サクラ「……まったく。魔王がポンコツだから、私がやるしかないじゃん。」
そう言って笑った瞬間、ツノがひときわ赤く光った。
その色は──あの日の恥ずかしさに、少しだけココアを溶かしたような赤だった。
(つづく)
家族という言葉で幼馴染のカエデとツバキを思い出した。
(……カエデとツバキ、どうしてるかな)
(……会いたいな……)
(……。)
(……いや。)
私は笑い転げるエストを見つめた──。
……今はそれで、十分だと思った。
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】:0.0001%
【支配地域】:魔王の間(仮)
【主な進捗】
・魔王と家族契約成立
・世界征服開始
【特記事項】:
・ツノは出た。胸は出なかった。納得いかん。
・20歳を超えた大人が子供に逆ギレするところを目撃
・巨乳への執念、確認
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『理不尽は受け入れるな。拳で訂正しろ。』
解説:
この世は理不尽に満ちている。
望んだ結果が得られないこともある。
しかし、それを嘆く暇があれば殴れ。
現実は拳で書き換えるものだ。元気か?




