#005 : ハニトラ☆冷蔵庫ブン!レンジチン!洗濯ピーピー!救急ピーポー!新聞スタタン!
前回のあらすじ
→ ノリと勢いだけで生きてる二人がなんか世界征服するとか言い出した。
◇◇◇
世界征服すると誓った私はさっそく仕事に取り掛かった。
「エスト様。ご進言させていただきます。」
『え?うん。なぁに☆』
エスト様は読んでいた本【よいこの魔法辞典】を閉じると紅い瞳を私に向け微笑んだ。
「……まずは、勇者のヤツに奇襲をかけましょう。」
私は最高の笑顔をエスト様に向けた。
『……ん?……えッ……?』
エスト様から動揺が伺える。
所詮は小娘。この発想は無かったのであろう。
説明を続ける。
「勇者が強くなる前に摘む!脅威になる前に刈り取る!
「殺られる前に殺る!つき進みましょう……冥府魔道を。」
再びニッコリ笑ってグッてした。
勇者?──いや、幸せそうなヤツ全員即ぶっ潰す。
運営がリセマラさせてくれないなら、こっちは他人の人生ごとリセマラしてやる。
これは八つ当たりじゃない。
憂さ晴らしだ。怨念だ。業だ。
勝ち逃げ、先手必勝。それが私の正義。
勝てば官軍、負ければ賊軍なのだ。
正義とは歴史が決めるものなのだ。
青い空とか、素直に信じてる奴は全員敵だ。
潰すッ!!!
「エスト様【正義とは、最初に殴った方に宿る】のです!」
「グレート・ムダ様の名言です!」
私はゆっくりと頷き、拳を握りしめた。
『ムダ様って!?……ち、ちょっと待って!』
「勇者の野郎への奇襲の件ですが、説明しますね。」
『……え? え? う、うん……?(ついていけてない)』
「──勇者を潰す気満々だっただろって顔してますね?その通りです。が、惜しいんです」
『えっ?』
私は拳を握りしめ、エスト様の目を真っ直ぐに見据えた。
「……男の脳は“乳・尻・太もも”でできてる。ハニートラップで勇者を籠絡──これしかない。」
『……う、うん……?』
私は意気揚々と胸を張り、ポーズを決める。
(もちろん筋肉もアピール)
「さぁ!サクラさん式ハニートラップよ!いざ参る!!」(誘惑アピールポーズ)
[タグ]#誘惑アピールポーズ(本人談) #ハニトラ(物理)
『お、お姉ちゃん……そのポーズ、全く効果ないよ……。』(困惑)
「舐めるな!小娘がッ!!この私の肉体美に不可能は無い!」
『……そ、それ本当に大丈夫?だれも騙せな──』
「うるさい!この作戦しかないの!世界征服はまず誘惑からだ!!」
エスト様はしばらく黙って私の誘惑アピールポーズを見つめる。
『……ねえお姉ちゃん、そもそも“勇者”ってどこにいるの?』
「…………」(無言で誘惑アピールポーズ維持)
(魔法冷蔵庫がブンッ!と鳴る)
『だってここ、ダンジョン最深部だし、私たちしかいないよ?』
「………………」(まだ誘惑アピールポーズ維持)
(魔法レンジがチンッ!)
『まず勇者探そうよ?』
「……………………」(まだ誘惑アピールポーズ維持)
(魔法洗濯機がピーピーと洗濯終了のお知らせ)
『あと、勇者は男とは限らないよね?』
「………………!?」(誘惑アピールポーズに動揺)
(遠くでピーポーピーポーウーウー! *何かは不明)
『勇者が男って決めつけるの時代的にどうなの?』
「………………。」(ゆっくり誘惑アピールポーズ解除)
(遠くでブーン!スタタン!と、新聞配達のような音 *何かは不明)
『あと、“乳・尻・太もも”の全部ない人がハニトラするのって、たぶん詐欺だよ?』
「やめて……今、心が砕けそうだから……。」
(……ピーポーとか、スタタン!とか、あの音は、異世界の魔王の間でも聞こえるんだな……なんで?)
…
いや、それよりも!
今、"乳尻太もも全部ない"と言った?
この小娘は私の禁忌に触れたのか?
埋めるか?埋めよう。埋めるしかない。掘ろう。今すぐ。
私はこの小娘をどこに埋めようかと考え始めた時、
小娘はビクビクしながら話を切り替えた。
『あ、あのね……まずは地上に出て、魔王軍を作ろうよ。そしたら世界征服!』
「魔王軍を作ろう?え?今はエスト様と私だけなのですか?」
『うん。』
(んー……?)
「……ん……あ!なんだよー!小娘は"ぼっち"なの?」
「怖いモンスター軍団とか居ないのかよ-!」
「ドラゴンとか配下に居たらどうしよう?って思ってたわー!」
「おい?お茶いれてこい?」
『いきなりのタメ語きた!?』
『それで……お姉ちゃんも私もレベル1だからね?』
『ダンジョンの外に出るためにレベル上げしないと……』
エスト様は斜めピースサインを自分の目に当ててウィンクしようとした。
しかし、手が震えていて目に指が刺さりそうになっていた。
「ん"?レベル1?レベル上げ?」
私は首を傾げた。
『う、うん……。』
「なんで?魔王って最強じゃないの?」
『そうじゃないと、いけないのにね……ち、違うの……。』
エスト様は困ったように首を振った。
「魔王なのに?」
『なのに……。』
「……えぇ……?」
告げられた超絶メンドくさい事実。
「……ん?……あ、あれ?」
「ここ、ダンジョンの最深部なんですよね?モンスターたくさん?」
『うん!最深部!モンスターたくさん☆』
「……そ、それって……詰んでね……?」
『頑張ろうねお姉ちゃん☆』
「……勇者奇襲作戦中止。魔王軍、解散。」(布団に入る)
『結成5分で!?☆』
「……週休ゼロ日、有給ナシ、残業代ナシ……ブラックすぎ……」(布団を頭までズボッ)
『さて、魔王軍 2 名・レベル 1 、ダンジョン最深部で出口不明、世界征服計画、はじまります☆』
「……聞こえない聞こえない……」(布団ごとゴロリ)
『ちなみに外のモンスター、最低でもレベル100くらいあるよ☆』
『大きいクマのモンスターとかベヒーモスが歩いてるよ☆』
「……え?……は?」(布団から半目で睨む)
私は再び布団を深くかぶり直した。
レベル1。ダンジョン最深部。外にはレベル100。
完全詰みゲー。
(……はい、世界征服終了っと……)
(つづく)
\\次回予告!//
ダンジョン最深部からの脱出は絶望的!
魔王軍の人数は二人、レベルはなんと……1!?
夜の静寂に響くのは「お姉ちゃん」という寝言。
サクラの心に再び灯るものとは──!?
次回、
#006 : 私が守る☆お姉ちゃんだから
\\お楽しみに!//
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『正義とは、最初に殴った方に宿る。』
解説:
「話し合おう」って奴はもう負けてる。
正義は最初に殴った者の特権だ。
だから迷ったら拳だぞ。
レベル1でも関係ない。殴れ。