#043 : ペラッペラの辰夫☆魔力透ける
前回までのあらすじ
→ 軽いノリで火竜討伐クエストを受注した。
◇◇◇
辰夫と北の山の火竜退治に向かう道中、私にはどうしても気になる事があった。
それは──先日の冒険者とのトラブルで感じた、“攻撃がゆっくりに見えた”ような感覚である。
サクラ「辰夫?先日ね。冒険者と揉めたんだけどさ。」
「その時ね?攻撃が……こう……スローに見えたのよ。」
「そういうのに、何か心当たりある?」
私は歩きながら腕を組むと、首を傾げた。
辰夫「ふむ。……聞いたことはありませんな」
サクラ「ちょっと気持ち悪いのよね。」
「……うーん、スキルの神眼の効果かなー?とは思ってるんだけどねぇ」
辰夫「なるほど。確認してみてはいかがですかな?」
サクラ「何度も確認してるんだけど……まぁ見てみるか……」
「あーもー、ステータスーッ!オープンッヌ!」
\\ ぺったん!!ぺったん!! //
(*ステータス画面が開く効果音)
私は立ち止まり、ステータスウインドウを表示した。
辰夫「それ効果音!?」(ビクッ)
ステータスウインドウが目の前に表示され、私はスキル《神眼》を見る。
やはり、特に気になる説明は無い。
サクラ「うーん……何回見ても同じ……」
「……ん……?これは……タッチパネル……?もしや?」
私は恐る恐る……二本指でタップしてみた。
すると、神眼のプロパティを確認することができた。
サクラ「マルチタッチ対応デバイスッ!!」
私は思わず第七の世代の粗い品を処理するようなツッコミをしていた。
辰夫「ええっ!?ざ、雑な設定ー!!」
どうやら辰夫も知らなかったらしい。
プロパティを開くと、そこには──衝撃の事実が記されていた。
《神眼 → 乱視矯正機能(常時発動)》
サクラ「…………ほぅ?」
私は生来からの乱視持ちである。
OL時代はメガネやコンタクトがないと、マトモに物が見えなかった。
サクラ「あっ……そう言えば……めっちゃ目が見えるッ!?」
風に揺れる草の一本までくっきり。
辰夫「気付くの遅ッ!?」
サクラ「辰夫と戦った時もさ?なんか周りが見えるなー?身体が軽いなー?と思ってたのよね」
辰夫「乱視が治ると倍強くなるのですか!?」
サクラ「当然。ちゃんと見えるということは集中力も判断力も段違いになるよね?」
私の説明を聞いて、辰夫は膝から崩れ落ちた。
辰夫「そ、そんな理由で我を圧倒していたと……!?」
──そのとき、唐突におばあちゃんの声が脳裏をよぎった。
『昔ね、眼鏡を変えて視力が回復したら、
おじいちゃんが透けて見えるようになったの。
ペラッペラだったわ。ん?人として。』
サクラ「おじいちゃん……苦労したんだろうな…」
私はポツリと呟いた。
春風が頬を撫でていく。
道端には小さな花が咲き、のどかな午後の陽射しが私たちを包んでいた。
そのとき──小さな荷車を引いた旅商人が、にやりと笑って私たちに声をかけた。
旅商人「へぇ……目の調子が良くなったみたいだな」
サクラ「誰!?……ど、どういうこと!?」
旅商人「なんとなくだが、君の目つきが変わった。よく見えるようになったんじゃないか?」
言われてみれば……確かに辰夫の周りに、青白い光のようなものがうっすらと見える。
淡いオーラのようなものが彼の輪郭を縁取っている。
これが魔力?
サクラ「辰夫……あんたの魔力……」
辰夫「む……?」
サクラ「ペラッペラだね」(笑顔)
辰夫「生まれ変わったら貝になりたい……」
──
旅商人「まぁ試しに、この石を見てみな」
商人が差し出したのは、普通の石ころのように見えた。
しかし、神眼で凝視すると──
サクラ「うわっ!?赤い光が渦巻いてる!?」
石の内部で、まるで溶岩のような赤い光の筋が脈打っている。
ドクンドクンと心臓のように光が強弱を繰り返し、見ているだけで熱気を感じそうだ。
旅商人「やっぱりな。それは”火竜の鱗”の欠片だ。北の山の火竜から取れたものさ」
辰夫が息を呑んだ。
辰夫「この魔力の波長は……まさか、あいつか!?」
サクラ「知ってるの、辰夫?」
辰夫「ええ……まだ若い、元気な火竜です。確かキューシュー地方にいるはずでしたが……なぜここに?」
辰夫は思い出すように遠い目をした。
辰夫「やんちゃで、よく暴走するんです。」
「でも根は真面目で、筋の通った話なら聞いてくれる……はずなのですが」
商人は荷車を引いて去っていく。が、ふと振り返って言った。
旅商人「そうそう、今度リンド村の温泉にでも寄らせてもらうよ」
サクラ「まだ温泉はないけど……変なの?」
旅商人「ハハハ、気にしないでくれ」
商人は手を振りながら道の向こうへ消えていった。
(つづく)
──【今週のおばあちゃん語録】──
『昔ね、眼鏡を変えて視力が回復したら、おじいちゃんが透けて見えるようになったの。ペラッペラだったわ。ん?人として。』
解説:
おじいちゃん……会いたいよ……ギュッてしたい。