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【14万PV突破】魔王がポンコツだから私がやる。──バグってる異世界をぶん殴る女たち  作者: さくらんぼん
第10章:【サクラ】常闇のダンジョンを脱出しようー!!
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#043|桜023:重たい話は後にしろ

 前回までのあらすじ

 → トカゲを捕まえた。


◇◇◇


 広間の隅で私と辰夫はエスト様が目覚めるのを待っていた。


 *


「う……ん……あ……れ?」


 エスト様の目がゆっくりと開いた。


「お姉ちゃんがいる……ドラゴンさんも!」


「良かった! エスト様!」


 私は思わずエスト様を抱きしめた。

 震える手で、エスト様の頬をそっと撫でる。


「ふむ。一安心ですな、サクラ殿」


「本当に良かった。感謝しますよ、辰夫」


 エスト様はキョロキョロと周囲を見回しながら言った。


「これは夢じゃないのかな……?」


「夢じゃないよ。大変だったんよ?」


「だって…最近の私はね?

 よく夢と現実がわからなくなるの……」


 怯えながらエスト様が呟く。


「アゴをぶつけて……連続で気絶したりしてたから……」


「……」


 エスト様の運命のアゴを狙うのはしばらくやめようと思った。


「2人が助けてくれたんだね。ありがとう」


「し、仕方ないから!

 た、助けただけなんだからねッ!」


「妹みたいに想ってると言っていたが」


 辰夫が笑った。


「おいコラ! トカゲ!」


 辰夫の喉元に刀を突きつけた。


「……はい……すみません」


「あはは!いつものお姉ちゃんだね」


 とても嬉しそうに笑っている。


「あ、そうそう。このドラゴンだけど……

 辰夫! 自己紹介しなさい」


「ふむ。我が名はリンドヴル……む?」


 私は辰夫をキッと睨み付けた。


「もとい。我が名は……た、たつ……辰夫」


 震える声で辰夫が続ける。


「……サクラ殿に敗北し…配下となった。今後とも宜しく頼む」


「そうなのよ!

 わ・た・し・が!

 ひとりで倒して配下にしましたー!

 余裕だったねー? たーつーおッ?」


「……はい」

 これ以上に無い最高のドヤ顔の私の横で、

 辰夫は上を向いた。溢れる涙を溢さないために。


「え! お姉ちゃんが1人で倒したの?

 凄い! 凄いよ!」


「ふふふ……小娘ッ!

 もっと……もっとよ!もっと褒めなさい!」


「よろしくね!辰夫」


「……うむ。よろしく」


「おいおい。辰夫?

 私にも敬語つかえよな?」


 エスト様が辰夫を斜め上から見下ろしながら言った。


「……はい……」

 グスッ。

 ……辰夫は震える手でそっと涙を拭った。


「あ、エスト様?

 辰夫は“私の配下”だからね?」


「ぇ……私……が魔王……なんだよ……?

 お姉……ちゃ……ん……?」

 グスッ。

 ……エスト様は震える手でそっと涙を拭った。


 *


 しばらくの沈黙のあと、彼女はふっと笑った。


「お姉ちゃんはドラゴンも倒せるんだね!

 やっぱり最強だね!」


「ふふふ……もっとだ……もっと褒めなさい!」


「意味わからないくらい強かったです……」


 辰夫が遠い目をした。


「じゃあ、また一緒に世界征服がんばろうね」


「もちろんです。この世界は私のものにすると決めましたからね」


「え……? ……魔王の私が世界を……」


 エスト様の声が震える。


「……」


 私は無視した。


「……え、ちょ、え?

 世界征服って……本気で言ってます……?」


 辰夫がポカンと口を開けたまま固まっていた。


「うん!世界征服すればお父様も褒めてくれるかなって!」


「私をもて遊んでるこの世界に復讐しないとなぁ……?」

 指をポキポキ鳴らす。


「それにしてもエスト殿のその魔力……魔王……

 久しいな……して、その魔王は今どこにいる?」


 サクラ殿からも魔王の魔力を感じるが……

 どこか違う……これは……


 辰夫が遠い目で尋ねた。

 まるで数百年前の記憶を掘り返すような声音だ。


「わからないの……3年前に急に出て行って……それきり……」


 エスト様は急に視線を落とし、膝を抱え込んだ。

 その小さな背中が、ほんの一瞬だけ震えて見えた。


 ……その場の音が、ふっと消えた気がした。


「……なんと……」


 口を閉じたまま、辰夫は複雑な表情でうつむいた。


「……我は魔王とは付き合いが長いのです。

 彼奴がエスト殿を残してどこかに行くとは考えにくい」


 辰夫が続ける。


「エスト殿、魔王という存在には理由がある。

 この世界には大きな脅威が眠っていると言われている。

 その脅威を抑えるために、魔王が必要とされてきたのです」


「脅威……?」


「はい。近頃、魔力の異変を感じる。

 魔王はその異変を察知し、行動を起こしたのかもしれませぬな」


「パパ……」


 辰夫は頷いた。


「ええ。魔王というのは、

 ただ恐怖や支配の象徴というわけではありません。

 むしろ世界を守護するために、

 その力を振るうべき存在なのです」


「そうなんだ……」


 ……なんか空気が一気に重くなった。


 沈黙。

 エスト様が膝を抱えたまま、声が出なかった。


 私は、その背中を見て、何も言えなかった。


 ……は? なんでしんみりしてんの?


「ハイハイハイハイ!! センチメンタル終了ッッ!!」


 手をパンパン叩く。


「こんな時こそムダ様のお言葉だよね! よく聞きなさい!」


『俺もかつては絶望していた。だが、一歩踏み出して救われた。

 マジですげーよ歯医者は。ドリルの中に希望があった。

 だからお前も勇気を出せ。踏み出せ。進め。歯医者に』


 ……広間に、ドリルの音が響いた気がした。


「歯医者の詩だった」


「「……」」


 *


 少しすると、エスト様が顔を上げ、いつもの笑顔に戻っていた。


 黙ったまま辰夫は考え込んでいた。


「……うむ……あの最強と言われた魔王が行方不明?」


 *


 ──そして、私たちはドラゴンの広間で少し休むことにした。


「辰夫! まずはこのダンジョンの構造を教えなさい」


 辰夫はゆっくりと眼を開け、説明する。


「ふむ。ここは常闇のダンジョンと呼ばれている。

 この場所はその地下100階になるな」


「ひ、ひゃ…く…」


「うんうん!10階ごとにこういう広いところがあってね!

 それぞれボスモンスターが居るみたいだよ☆」


 楽しそうに頷きながらエスト様は言った。


「えぇ……めんどくさすぎる……とは言え……

 ここからは辰夫の背中に乗っていけば良いからさ?

 移動は楽になるね」


「おぉー! お姉ちゃん! あったまいいー!」


「あっはっは! ……小娘ッ!

 もっと……もっとよ! もっと褒めなさい!」


「え………? そうなのか?」

 辰夫がめんどくさそうに言った。


「いいこと? 辰夫。

 私はね…妹を箱に入れ、その箱を背負って、

 鬼と戦った少年を知ってるけど?」


「その少年はね?

 家族をみんな鬼に殺されて、

 それでも折れなかったの」


「やり遂げたの。

 そんな子も居るというのに……あまったれんな!

 全集中しろ!」


「その人カッコいい!」

 エスト様のどこかに刺さったようだ。


「……はい」

 辰夫がうなだれながら返事をした。


 そして私達はダンジョンの出口を目指す事にした。


「目指せ!地上!!」



(つづく)



◇◇◇


 ……常闇の彼方に、別の眼が開かれていた。


 赤く、禍々しく、そして──どこか懐かしい光を湛えた眼。


「……“鍵”は予想外の方向へ転がるものだな……ふ、面白い」


 声だけが、遠く響き、やがて闇に溶けていった。


◇◇◇


──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──


『俺もかつては絶望していた。だが、一歩踏み出して救われた。

 マジですげーよ歯医者は。ドリルの中に希望があった。

 だからお前も勇気を出せ。踏み出せ。進め。歯医者に』


解説:


 「絶望」とは、現実から目を背けた結果だった。

 虫歯を放置し、痛みと共に生きることを選んだあの日々。


 だが、ある朝──決断し、歯医者に行った。


 ドリルは恐怖だった。

 だが、その音の向こうに──痛みの”終わり”があった。

 

 絶望は、踏み出さないことで育つ。

 希望は、恐怖の向こう側にいる。

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