#038 : リンド村、選択を誤る☆サクラ帝国への第一歩
前回までのあらすじ
→ 村長はバカたちを村に入れてしまった。
◇◇◇
村長に村を案内してもらう事にした。
村の中を歩いている私たちは注目の的だった。
無理もない。
人間しかいない村の中をツノのある子供と女、竜人が歩いているのである。
そして私のこの美貌である。……な?
エスト『……うーん……早い方がいいかな。』
エスト様がそう呟くと、何やら村長に尋ねた。
エスト『村長さん、広場はありますか?』
村長「え?あ、はい。こちらです。」
サクラ「ん?エスト様?」
辰夫「ふむ…?」
村長に広場へ案内された。
村人達が遠くからこちらの様子を伺っている。
ざわざわ……ざわざわ……
ざわめきを遮るようにエスト様が演説を始めた。
エスト『村のみなさーん☆』
『この竜人はドラゴンのリンドヴルムです!』
『そして私たちはそのリンドヴルムの友達です。』
『皆さんに危害を加えるつもりはありませんので、安心してください☆』
『私たちはただ、しばらく村に滞在させていただきたいだけです!』
ざわざわ……ざわざわ……
エスト様は話を続ける。
エスト『そして、これは私たちからのお近づきの気持ちです☆』
エスト『………スキル!パンドラの筺☆』
エスト様の目の前に筺が出現した。
筺に手を入れ、次々とモンスターの死骸を取り出し始めた。
……しかし、第一体目がズルッと出てきた瞬間、村人の空気が一瞬凍った。
エスト『あっ!びっくりしないでください☆』
『全部ちゃんと“ぶち殺して”ます☆』
ざわ……ざわ……
村人A「ひい……」
村人B「満面の笑顔で凄いこと言ったぞ…」
ざわ……ざわ……
エスト様の天然のフォローが、逆に不安を煽った。
そして山盛りのモンスターの死体を広場に積み上げ終えて言った。
エスト『これらのモンスターは、私たちが採集したものです。』
『これらをこの村に寄付したいと思います☆』
『食料にしたり、素材を取ったりと、どうぞご活用ください☆』
村人達はとても喜んだ!
わーわー!わーわー!
村人A「おおおー!グレートボア!」
村人B「あ、あれはヘル・グリズリーじゃないか?凄い!」
村人C「おお?こっちにはコカトリスの羽が!?」
村人D「凄い!まだまだあるぞー!?」
わーわー!わーわー!
エスト様は完全に村人の心を掴んでいた。
エスト『ふふふ……良かった☆』
そして、私は子供の頃から憧れていたあの言葉を叫んだ。
サクラ「……野郎どもーーーーーッ!宴だーーーッ!!」
ドンッ!!
村人たちはとても喜んだ!
わーわー!わーわー!
その瞬間、私の脳内にムダ様の名言がフルボイスで再生された。
『宴会ってのは、“この世の物理を殺す儀式”だ。だからなのか俺は、気がつくといつも素っ裸で警察の留置場にいる。──いいか?靴下だけは脱ぐな。風邪を引くからな。』
……うん。わかる。
宴って、そういうもんだよね。
私はムダ様を尊敬している。
いや、信仰している。たぶん。
宴が始まった。
エスト『え?え?え?』
辰夫「わっはっは!サクラ殿に全部持っていかれましたな!」
── 宴は朝まで続いた。
村長「あれ……?もしかしたらこの村……侵略されたんじゃないの……?いや、違うよね……うん……きっと違う……(震)」
村長は頭を抱えた。
◇◇◇
── 床屋にて。
辰夫はゆっくりと瞳を閉じた。
辰夫「我が誇り高きロン毛よ……さらば……」
辰夫はただ無言で涙を流した。
……
その後、切られたロン毛のひと房を、辰夫はそっと手に取った。
(さらば、我が誇り……)
(つづく)
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】 :1.15%(村人の懐柔成功により微増)
【支配地域】:リンド村(仮想支配段階)
【主な進捗】:リンド村への滞在許可取得。
サクラが広場で勝手に「宴だーッ!!」と叫び、
実質的に村の空気を掌握。
モンスター素材の献上により村人の心を完全に掴む。
【特記事項】:サクラによる交渉失敗→空中退場→村での勝手な演説
→村ぐるみの宴会強行と、テンプレ破壊の連続。
村長は混乱と現実逃避のはざまで頭を抱えている。
なお辰夫はロン毛卒業。
◇◇◇
──【今週のムダ様語録】──
『宴会ってのは、“この世の物理を殺す儀式”だ。
だからなのか俺は、気がつくといつも素っ裸で警察の留置場にいる。
──いいか?靴下だけは脱ぐな。風邪を引くからな。』
解説:
一見ただの狂人の供述だが、これは“秩序の崩壊”と“本能の解放”についての哲学的な示唆である。
宴会とは、理性を脱ぎ捨てて魂を解き放つ儀式──だが、靴下だけは残すべきだ。
それが「人としての誇り」なのだ。