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魔王がポンコツだから私がやる。 ──バグってる異世界をぶん殴る女たち  作者: さくらんぼん
第01章:【サクラ】恥ずか死お姉ちゃんとポンコツ魔王の転生録
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#001|桜001:恥ずか死 ──ここから私は“ひとり”を終わらせた

挿絵(By みてみん)

 ──私は二回死んだ。


 一回目は、恥で。

 二回目は、朝のニュースで殺された。

 

 *


 ピロリロリーン♪


 朝のニュースの音楽が、やけに遠くで鳴っていた。


 気づけば、私は自分の布団の上に座っていた。


 ……でも、違和感がある。空気が冷たい。音が遠い。

 まるで水の中みたいだ。

 

 そして、アナウンサーが読んだニュースから地獄が始まった。


『昨夜、都内の住宅街で、

 女性がプロレスラーの入場曲と思われる曲を熱唱した後、

 ファイティングポーズのまま心停止していたことがわかりました。

 SNSでは“令和の弁慶”として拡散されています』


挿絵(By みてみん)


 テレビの向こうでスタジオがどよめく。

 アナウンサーの声が、笑いを飲み込んで震えた。


(……え?)


 ガバッとテレビにかじりついた。

 画面の右上に、SNSの反応が踊っている。


 『#恥ずか死』

 『#令和の弁慶』

 『#JapaneseBENKEI』

 『#BENKEIisComing』


「待って!! これ私!?」


『ぐッ……つ、次は占い、コーナーです……』


 アナウンサー二人が半笑いで番組を進行する。

 “笑ってはいけない朝のニュース”になってしまった。


 ポーン♪


『今日の占いカウントダウ〜ン♪

 一位は、A型のあなた!!

 ラッキーアイテムは〜!! 弁慶です!』


「悪意あるスタッフがいるッ!!」


 ──その瞬間。


『ブフッ……!!』

 男性アナウンサーが陥落した。

 必死に噛んでいた唇が、ついに負けた。


『ひぃっ……!』

 隣の女性アナウンサーも変な声を漏らし、

 原稿で顔を隠したまま、机に突っ伏した。


『CM!! CM入れて!!』

 誰かの叫び声を、マイクが一瞬だけ拾った。


 映像はブツッと切り替わり、番組はCMに逃げた。


 ──画面に観光PRが流れる。


『〜♪ 春の秩父で、あなたも弁慶に──』


「秩父に弁慶を背負わせるな!! 追撃やめろ!!」


 テレビからはCMの軽快な音楽。

 外からは明るい日差し。


「……」


「……わ、私……放送事故を……

 起こしちゃった……全国放送で……」


 世界はいつも通り回っている。

 私の放送事故だけ置き去りにして。


「……いや、でもさ……」


「#JapaneseBENKEI……?」

「#BENKEIisComing……?」


(……強キャラ感ある……)


「……なんか、いけるかもしれん」


 一瞬だけ、口角が上がった。


「……いや、逝ってるし!」


 ずこー!!と床に倒れ込む。


 そのまま床に話しかける。

 

「肉体は死亡。死に様はデジタルタトゥー……」


「社会性はクラウド保存っと……」


 ぶつぶつ……

 


 ──なんで私が世界規模でやらかしてんのかって?



 そう──私は“恥ずか死”した。

 プロレスのファイティングポーズで立ったまま。


 *


 ──私の名前は佐倉 桜。二十二歳。


 家に帰っても、待っている人はいない。

 私を拾って育ててくれた祖父母は、もういない。


 毎日終電のブラック企業OLで、胃痛が一番の友達。

 上司というヒール、納期というゴング。

 ……私にとって、社会はずっとリングだった。


 唯一の救いが、“ザ・グレート・ムダ”様。

 彼とは深夜プロレス中継で出会った。


『完璧超人は孤独だ!

 だが、完璧超人も胃酸には勝てない!

 胃薬と共に勝利を掴め!』


 私は泣いた。救われた気がした。

 ムダ様も胃が弱かった。


 だからムダ様のグッズで部屋を埋めた。

 静かな部屋が、少しだけリングみたいに見えた。


 ……そんなことより、問題は昨夜だ。


 *

 

 ムダ様の試合は、文字どおり“伝説”。


 魂が震えた。マスカラは滝。

 もはや顔が事件現場だった。それでも幸せだった。


 試合後、私は幼馴染のカエデとツバキにメッセージを送った。


『祝勝会!今日こそ語ろう、ムダ様の胃酸との戦い!』


 返事はあっさり、かつ意味不明だった。


『明日早いのごめん。なんか良い形の石見つけたから洗う』(カエデ)

『我が左目が闇の胎動を告げているゆえ、寝る』(ツバキ)


「……相変わらず自由だなアイツら。いいもん。一人でやるもん」


 声に出した瞬間、胸の奥がちょっとだけ冷えた。


 まずは、ひとり焼肉。

 向かいの席は誕生日ケーキ。

 私の席にはカルビだけ。


 その後は、ひとりカラオケ。

 マイクを握った瞬間、魂が暴れ出した。


「俺の敵は胃酸だけ〜♪

  熱い魂、胸焼けと共に〜♪」


 ……胃薬の歌じゃない。プロレスラーのテーマソングだ。


 ここまでは、完璧だった。


 テンション最高潮の私は、夜中の帰り道でアンコールを始めた。


「俺の敵は胃酸だけ〜♪」


 ──その瞬間、変なスイッチが入った。


 【ひとりプロレス】の開幕だ。


「ムダ様の必殺ッ!ドラゴン・スクリューッ!!」


 くるり、クルクル──ガンッ!!

 電柱に激突。


「痛ッ!?」


 オデコをさすりながら、電柱を叩く。


 パンパンパン!


「決まったぁ!ワンツースリー!」

「勝者ぁ!ザ・グレート・ムダぁああ!!」


 決めポーズ。

 くるりと振り向き、ガシィッと空をつかむ。


 息を吸い込み、魂の絶叫。


「……胃薬と共にッ!!勝利を掴むッ!!」


 ──完璧にキマった。


 私史上、最高に輝いた瞬間だった。

 ……ほんの数秒間は。


 ふふっ、と余韻に浸っていたら──


「うわ!?」

「え!?なに!?」


 ……そこには“アイツら”──カップルがいた。


 風だけが、冷たく吹き抜けた。


 二人が、ゆっくりと構えた。

 

 男は空手の構え。

 女はボクシングの構え。


 それを見た私も、ゆっくりと構え返してしまう。


(え……?)



 ──真夜中の住宅街。



 深く呼吸をするイケメン空手男。

「押忍……」


 トントンとリズムを取り始めるボクシング女子。

「シッシッ」


 そして私は──プロレスの構え。

「っしゃーーー!!」


挿絵(By みてみん)


(……あれ?……私、何してんの!?)


 三人、戦闘態勢。流派はバラバラ。


 ……風だけが吹いた。


(なに、これ……なにこれなにこれぇ!?)


 次の瞬間、羞恥心が限界を突破した。


(死ぬほど恥ずかしい……あ、これ無理)


 そう思った瞬間、恥ずかしさが胸を殴った。

 心臓が変な音を立てる。


 ドクン……ドクン……


「ゴングを……」


 ドクン……

 心音が途切れた。


「……にゃらせ……」


 プツッ。


 最期のセリフを噛んだと同時に、胸のスイッチが切れた。


「え?この人、白目剥いてる!?」

「立ったままで……? 弁慶じゃん……」


「ちょ! 救急車! 救急車ぁー!!」

「う、うん! えーと、117番!?」


「それ時報!!」

「もうパニックでわからないよぉ!」


「大丈夫、そんなドジなとこも好きだよ?」

「嬉しい」


(119番だろぉが!!)

(人が弁慶してるのにラブコメしてんな!!)


 大声でツッコミたかった。

 けれど、もう声が出ない。


 カップルの叫び声が、小さくなっていく。


 ……私はプロレスのファイティングポーズで立ったままで終わった。


 *


 これが昨晩の出来事だ。


 死因:恥ずか死。

 ……笑え。


 いや、笑うしかない。

 私だって、たぶん笑う。


 でも。


 死にたかったわけじゃない。


 消えたかっただけだ。

 あの場から。

 あの視線から。

 あの自分から。


 *


 そして──バタン、と何かが閉じる音がした。


 テレビも、外の音も消えた。


 世界が、まるごと電源を落とされたみたいに静かになった。



「……え?」



 気づいたときには──


 私は、知らない空間にいた。


「……ここどこ?……静かすぎ……」


 寒い。暗い。


「……だれか……?」


 自分の声だけが、やけに響いた。


 嫌だ……もう、ひとりは嫌だ……。


「……ひとりは慣れた」って、何度も言ってきた。

 でも、慣れたんじゃなくて──諦めただけだった。


 周囲を見回す。


(こうなったら未練……言っちゃうぞ……!!)


 そして、すぅ……っと大きく息を吸う。

 ……ぅぅぅ……まだ吸う……ッ!


 ……ぴたっ。


 喉の奥に熱いものが込み上げる。


「──死にたくないよぉお!後悔しかないよぉおーッ!!」


 じたばた暴れ回る。


「ぼ、ボウズヒゲマッチョのカレピッピ欲しかったよぉお!!」


 涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のまま、私は叫んだ。


(……よし!あと! これも言っちゃうんだから!!)


 顔が熱い。


「ち、ち、チューとか、してみたかったんだよぉお!!!」


 耳まで真っ赤になって、私はその場でうずくまり──


「きゃー!! 恥ずかしいぃぃ!!」

 

 ゴロゴロ!! ゴロゴロ!!


 私は頭を抱えたまま、猛スピードで地面を転げ回った。


 その時──


《???:うるせー!!》

 突然──誰かに怒鳴られた。


 ──え?


「……だ、だれ!?」


 声の主の姿は見えない。


 ……頭に直接響いている?


 “天の声”──ってこと?

 

「ちょ!? 今の聞いてたの!?」


《天の声:サクラ。お前死んだぞ。死因は「恥ずか死」だ》


「…………知ってる」


 しん──。


 ……世界が、黙った。


《……まぁいい、魔王が今、召喚してる》


「魔……? は?」


《お前の転職先は“魔王軍”だ。魔王のところに行け》


「魔王軍? ネタで言ってんの!?

 年俸は? 労災おります? 家賃補助は!?」


《はぁ……じゃあ本来の転生ルートにするか?』


 え? 選べるの?

 死後に選択肢あるタイプ?

 だったら一番マシなやつ寄越せ。

 こちとら死因が恥だぞ。


「損したまま死ぬのは絶対に絶対に絶対に嫌だから!

 回収できるもん全部回収してから死ぬ!!

 死んでるとか知らん! 今から取り返す!!」


《なんか凄まじい執念を感じたが……まぁいい》


《本来のルートは、赤子で山中スタート。

【異世界サバイバル!ズンドコ☆サクラさん〜ドス恋♡相撲編〜】だ》


「…………金太郎かな?」


「ま、魔王軍でお願いします!!喜んで魔王軍に就職させていただきます!! 忠誠誓います! 死んだのでハンコ無いけど良いですか!!」


《うむ。魔王のとこで頑張ってこい》



【──異世界転生、開始します】


 ナレーションのような声が頭に響く。


「ちょ!!……え? マジで行くの!?

 ──待って!!まだカレピッピチューの件が未解決!!」


《ホントうるせーなお前は》


「未練は叫べ。遠慮したカルビは、夢に出る。──ってムダ様も言ってたの!」


《……誰だよムダ様》


「推しだよ!!」


《ズンドコ行くか?》


「……魔王様! 今行きます! 魔王様万歳!!」


「あ、嘘! 待って! あと!!

 私の部屋のベッドの下にある段ボール!!

 絶対に開けずにそのまま燃やして!!!」


「あとパソコンとスマホもそのまま処分し──」


《未練だらけだな、お前》


 その瞬間、世界が──ズレた。


 視界がぐにゃりと歪む。

 足元が消えていく。感覚が、遠のいていく。


「あ……」


 消える。本当に、消えるんだ。


 そう実感した瞬間──

 口から出ていた“どうでもいい言葉”が、全部止まった。


 ……違う。

 最後に言いたいのは、そんなことじゃない。


「……待って」


 私は歪んでいく空に向かって、必死に手を伸ばした。


「分かったから待って! 最後の未練だけ、言わせて!!」


 絞り出すような、私の本当の声。


「……おじいちゃん!おばあちゃん!

 私を拾って、家族にしてくれて!!

 本当にありがとう!私、幸せだったよ!!」


「会いたい……」


「……」


「二人に、会いたいぃいいいいい!!」


「……ほんとに…………会いたいよ……」


 静寂が降りた。

 歪んだ空間に、私の嗚咽だけが残った。



《…………伝えといてやるよ》



 ぶっきらぼうなその声が、現世での最期の言葉になった。


 ──笑いながら、涙がこぼれた。


 やがて世界が光に包まれる。

 光の中で、ココアの香りがした。


(ココア……? おばあちゃんの匂い……)


 甘い。寂しい。

 ──それでも、温かい。


 じんと胸が熱くなる。

 もう戻れない。

 でも、あの温かさだけは持っていける。


(……おばあちゃん、ごめん)


(でも今は、焼き肉の口だわ)


(あの時のカルビ……追加しとけばよかった……)


(タレで)


 こうして、恥ずか死した私の異世界生活が始まる。


 ──今度は、ひとりじゃない人生を。


 *


 ぴろん♪


「ん?」


【固有スキルを確認しました】


「……は?」


【羞恥心を筋肉に変換します】


「……乙女心を何に変換してんだァァァ!!」


挿絵(By みてみん)


(つづく)



◇◇◇



──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──


『未練は叫べ。遠慮したカルビは、夢に出る。』


解説:

吐き出さなかった後悔は、夜中にタレの匂いを連れて戻ってくる。

俺は18の時、最後のカルビを遠慮した。

いまだに夢で焼けている。

だから叫べ。食え。寝ろ。

──


あとがき(読み飛ばし可)


──


ニュース番組テロップ:『SNSにはプロレス推し活の様子が……』


恥ずか死、令和の弁慶がSNSトレンド入り。


挿絵(By みてみん)


サクラ(魂)「やめてぇえ!?デジタルタトゥー!?」


――


▼リプ欄抜粋


@読者A「おいおい、ブクマしようぜ!?」

@読者B「★評価ボタン押したらムダ様が光ったんだけど」

@作者「100回ブクマと★評価したったwww」

@読者C「ひどい自演を見た。」


──トレンドの波に乗り遅れるな。

ブクマと評価で、ムダ様を光らせろ。

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― 新着の感想 ―
「腹筋を破壊しに来た作品かと思ったら最後に心まで持っていかれました。『#JapaneseBENKEI』『恥ずか死』で笑い転げていたのに、“慣れたんじゃなくて諦めただけだった”で急に胸に来るの反則です。…
すごく失礼なこと言いますけど、「これは彼氏できない」と思いました。いや悪口言ってるんじゃなくてですね・・・正直笑いました。
なかなかの力作ですね。長文のようですからじっくり読まさせて頂きます。ブクマしました。
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