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神話の真実④


 ドニーズはリンの手を離さない。強く強く握りしめながら顔を上げ、ドニーズのエメラルド色の瞳がリンを瞳を覗き込む。


「月の妖精の加護持ちの私は閉じ込められた。真っ暗な中、『ハーレムの繁栄を祈れ』と両手を祈りの形のまま縛られ、その間に母達は焼き殺された!」


 ドニーズはユリアを全く見ようとしない。苦渋に満ちた表情でリンに訴えるように話し続ける。リンは胸が押し潰されそうだ。ドニーズが何度も落ち着こうとしてかリンの両手を握り祈るような形をとる。


「命辛々生き延びて、あれから、60年さ。今も昨日のように思い出す。どんなに恨んでも奴らは記憶の中じゃ、いつもっいつも、高笑いしてやがる」


 (のろい)をかけるかのように吐き出したドニーズはそっと手の力を抜いた。


「黒髪のお嬢さん、どうやって此処まで逃げて来たか知らないが中途半端な事をすれば加護は消えるよ」


 ユリアの暗緑色の瞳は何も捉えていないように見える。ただ、愕然としているようだ。


「加護持ちだから閉じ込められて辛い思いをしたんだろう? よかったじゃないか。もう、すでに弱まってる。直に消えるさ」


 落ち着きを取り戻したようにドニーズはリンの両手をゆっくりと離し、冷徹な声を出した。


「月の妖精の加護なんて満ち欠けする不安定なもんだ。1日で消えた奴もいるくらいに」


 ドニーズがユリアの瞳を指さす。その圧でユリアの眼の焦点が戻る。


「そんな弱い瞳で太陽の女神の加護付き? 笑わせてくれる。覚悟なき者に太陽の女神の加護が付くもんか」


「……太陽の女神の加護は特別なのですか?」


「そうだよ。月の妖精の加護付きはいくらでもいるが、太陽の女神の加護付きは滅多にいない。そしてね、加護も消えたりしないんだ。自身で強い光を放っていられるからね」


「私の加護が消えれば、ヘイサースユノーから狙われることもなくなりますか?」


 ドニーズは鼻で笑う。


「馬鹿言っちゃいけない。今の時代の奴らに加護付きか加護付きじゃないかなんて見極められるはずないだろ? 黒髪だから攫われるんだよ」


「じゃあ、どうしたらっ」


「逃げるんじゃないよ」


 ユリアの悲痛な叫びに被さるようにドニーズは断言した。


「暗いところで縮こまってても、損しかしない。搾取されるばかりさ。何の加護付きだろうが、加護が無かろうがお前はお前さ」


 ユリアの目尻に大粒の涙が溜まる。瞬きすると落ちてしまいそうな涙に抗うかのように、ユリアは喉で嚥下繰り返している。


「黒髪のお嬢さん、強く生きな。そして」


 ドニーズはユリアを見つめる。


「自分で歩きな。いつまでも運ばれてちゃいかん」


「はい」


 返事をしたのはユリアなのだが、ドニーズはリンに、「月の妖精の加護付きは一説によると太陽の女神の加護付きに惹かれるそうだ」と目を一度擦った。


「もう目が年老いて、月の妖精の柔らかい加護しか見ることが出来ない。それが悔やまれるよ」


 窓からの光が瓶に乱反射しているのだろうか。ドニーズは眩しそうに目を細め、リンには見えない光を遮りながら悲しそうに笑った。


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