神話の真実①
ユリアと並び歩いているとドニーズの煉瓦造りの家が見えて来た。リンはやはり魔女の家のようだなっと外観を見ても思った。
ローランが昨日と同じようにドアノックを叩く。
「ドニーズ」
「ローランかい? いらっしゃい」
ローランが呼びかけると中からドニーズの疑問を持ったような声が聞こえた。
「失礼します」
リンがユリアと中に入ると、ドニーズはユリアに焦点を合わせて固まった。
「昨日の今日ですみません。今日はお伺いしたいことがあって」
「それと手の傷の消毒な」
固まっているドニーズにリンがお伺いを立てるとローランが先に傷の手当てだとでも言うように、蒸れた包帯を巻いた両手を指した。
硬直を解いたドニーズがリンの包帯に目をやると即座にしかめっ面になり、手招きをする。
「何でこんな状態なんだい? 話も聞いてやるから、ほら、座りな」
リンはユリアと共にドニーズを頂点に二等辺三角形になるようにカウンターに着席した。ローランは棚に背をついて立っている。
「そちらのお嬢さん、ヘイサースユノーの生まれだね」
「何故わかるのですか?」
ユリアがドニーズに問う。
「ヘイサースユノーの国の生まれは焦げ茶色の髪と焦げ茶の眼が一般的です。なのに、何故? 私の髪色と眼の色は珍しい色です」
ドニーズはユリアの暗緑色の瞳の前に掌を受けるようにかざした。
「微かにまだ感じるね。でも、消えかけてる。せっかくの加護が」
ドニーズは手を戻し、リンに腕をカウンターに乗せるよう顎をしゃくった。
「その加護の気配はヘイサースユノー特有のものだ。髪と眼の色で判断したわけじゃないさ」
リンの腕の包帯をとき、傷の蒸れ具合を見て、「何でこんなことになるんだか」とドニーズは小姑じみた言い方をした。
「あの、ドニーズさん。こちらはユリアっていうの。一緒に『太陽の女神』のお話を聞きたくって来たんです」
ドニーズは、「いくらでも話してやるから、無茶ばかりするんじゃないよ」とカウンターの下から目を刺激する紅の液体を取り出した。
もしかしてそれを傷に塗るんじゃないかとリンが肝を冷やしていると、ユリアはその液体を見ながらもドニーズに話を振った。
「加護とはなんですか? 私は加護を感じたことはありません」
「呪いを唱えただろ。その時何かなかったかい? まぁ、黒髪のお嬢さんの加護は弱まってるからね、効果がわからないかもしれんな」
「私に太陽の女神の加護がついていると?」
ユリアの問いにドニーズは、「太陽の女神?!」と驚愕しカッカッカッと笑い始めた。まるで太陽の女神の加護等つくはずがないとでもいうように。
ひとしきり笑ったドニーズは、紅の液体が入った瓶の蓋をシュポンと抜いた。
「今何歳だい?」
「18歳です」
「もう60年も経つのか」
蓋を持ったまま目を細め、懐かしそうなような悔やんでいるかのような視線でユリアの黒髪を眺める。
「神話をねじ曲げてそんなに経つのか。本当の神話は私らの世代以降は誰も知らないんだろうね。なんせ、本は全部焼却されてしまったからね」
ユリアは息を飲むように話を聞いているが、リンは蓋を外した紅の液体の行方が気になって気もそぞろだ。
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