甘いケーキ
内勤に就き半年が経った。
仕事の段取りも随分掴めて来た。
ヅッタは言葉尻は厳しいがいつもリンが成長できるように課題を与えつつ見守り、困っていると手を貸してくれる。
もうすぐ外勤が始まる時期に差し掛かる。
その前にと休暇にユリアと町に出てお茶をしようと話した。
今日はいつもよりおしゃれをして出かけようと、薄い水色のワンピースを着て髪にはイミテーションパールのバレッタを付けた。
「リン!楽しみね!服よく似合ってるわ!私はどう?」
ユリアが目の前でクルッと一回転すると、深い青色のAラインワンピースが揺れる。ユリアの黒髪とバランスがよく上品な印象になっている。
「すごく似合ってる!」
そういうとユリアは腰に手を当て胸を張って「お店で一押しさせれたんだもの」と得意げに言い、
「ケーキ楽しみね。あー、苺のにしようかしら?それともブルーベリー?」
今から行くお店に想いを馳せ始める。
「ふふっ、今から迷ってどうするのよ。」
リンがユリアの手を引いて「早くいきましょう」と歩き出す。
街を歩いていると、騎士が巡回している。
皆、一応に背が高く良い体格をしているが身のこなしがスマートだ。
「ねぇ、リン。次は外勤じゃない?騎士の方達にも逢えるのよ!素敵よね。」
ユリアが騎士に熱視線を送っている。
「そう?私は、あまりタイプではないわ。」
「嘘?!なんで?」
ユリアが首がもげるのではと思うほど早く振り向き、迫ってくる。その圧に押され、
「え、それは、その」
答えたいが思い当たる節が沢山あり過ぎる。ロザリーを振った二股男もマリウスもカイルもどちらかと言えばお姫様を助けるキラキラした騎士みたいな外見だ。そう、見た目が好みではない。嫌な思い出とも重なって見えて好ましくないなとぼんやりと思ったが何と言おうか。
「ほら、なんだか軟派そうじゃない?」
頭を高速回転させて出した答えはザックリとしたものだったが、リンの答えを聞いたユリアは「うーん」と唸った後、
「絵本に出てくるキラキラした物腰の柔らかい王子様か騎士みたいよね!」
と同意しながらスキップするような足取りで歩く。
「ユリアはキラキラの王子様みたいな人が好きなの?」
「そうよ!自国の偉そうな権力者は論外なの。優しい紳士じゃなきゃ嫌だわ!」
それはリンも嫌だなと思った。主に思い浮かべたのは家長制度の自国で浮気をしても責められない男性だ。
「紳士でも浮気する人は嫌よ。硬派で優しくて見た目がキラキラしていない人がいいわ。」
ユリアは「私は見た目が王子様みたいな人がいい!」と金髪の騎士に目線を送りながら話している。
お店に着き席に座っても話は止まらない。
「外勤では騎士の方が駆けつけて救助したり、逆に負傷していたりするわけじゃない。そこで恋に落ちちゃったらどうしよう!」
完全にユリアは騎士を狙うつもりだとリンは思った。
「ねぇ、リンはどんな人がいいの?」
ケーキのメニュー表を捲りながらユリアが尋ねる。
「そうね、厳格な家長タイプは好きじゃないし、かと言って軟派な人も嫌なの。見た目は…」
いくら考えても全く男性の良いところが浮かんで来ない。金髪青眼は嫌だな、線が細い人も嫌だ、お金持ち過ぎるのも嫌だ、上から目線で物を言う人はごめんだ、と嫌なタイプは沢山浮かんでくる。
好ましいタイプは浮気をせず誠実で優しい人という余りにもぼんやりしたことしか思い浮かばない。
好ましいと思った実例がないのだ、きっと。
リンは自身をそう解釈した。
「タイプ思いつかない?私はとりあえず苺のケーキにするわ!リンは決まった?」
頷くとユリアが「すみません」と店員を呼んでいる。
「お待たせ致しました。ご注文は?」
黒いエプロンを腰に巻いた店員が腰を少し折りながら注文をとる。
「苺のケーキと本日の紅茶をお願いします。」「私はブルーベリーのケーキと本日の紅茶をお願いします。」
「かしこまりました。」
店員が去って行くと、
「今の方は?」
ユリアが突然話を振って来た。
「え?!ごめんなさい。エプロンが黒だったことしか覚えてないわ。」
「興味持ってよ!」
ユリアがプンプンと擬音か聞こえるかのような怒る表情をしたが急に空気を噴き出して笑った。それを見てリンも笑う。
今日のケーキは特別甘くて美味しい。
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