思い出は輝く
その日のお昼の勤務でサイモンはいつも通りの時間に現れた。
時間はおやつ時でカイルがよく訪れていた時間だ。
「いらっしゃいませ。いつものでしょうか?」
リンが笑顔で接客すると、驚いたような表情をした後にニッコリ口角を上げ、
「はい、いつもので。覚えられてしまいましたね。」
と言ってお金を支払い席へ歩いていく。
注文を飛ばしながら、他の客の接客をする。サイモンが歩いて行くところを見なくてもどこに座るかわかる。
カイルがよく座っていたカウンターに必ず座るからだ。
「マリナさん!すみません。少しで良いのでカウンターの方に行きたいのですが。」
リンがマリナに頼むと快く接客を代わってくれた。リンはポケットに入れた飴玉の小瓶を軽く握りしめ、サイモンへと歩いて行く。
「サイモン様。」
リンが声をかけると、蜂蜜のパンケーキを食べていたフォークをガチャンとお皿に落とした。
「ああ、すみません。少し考え事をしながら食していましたので、はしたないところをお見せしました。」
アイスコーヒーをこめかみを抑えながら口に持っていく。
「サイモン様。冷たい物を飲むとツーンと頭が痛くなりますよね。蜂蜜のパンケーキは少し多すぎるのではないでしょうか?」
サイモンは苦笑いしながら「残さず飲食していたのですが、バレていましたか。」と答え、
「ですが、どうしても足を運んでしまうんです。お察しの通り、カイル様が心配で…いや、自分自身がカイル様に何もして差し上げられなかったことが心残りでして。」
「私、そんなサイモン様に特効薬をお持ちしました。」
握りしめていた飴玉の小瓶をポケットから出し、カウンターに置く。
「私の母は青い花を見ると私を見ているようで幸せな気持ちになると言っていました。サイモン様にとってそれが、蜂蜜のパンケーキとアイスコーヒーなのはわかりますが、ここではカイル様がご乱心になったので苦い思い出ばかり思い出すのではと。」
そう言いながら、小瓶を光が刺す方へ翳し、
「見て下さい。カイル様の色です。実はこの飴玉、ただのレモンと林檎とソーダの味の飴玉ではないんです。」
サイモンの手に握らせる。
「おまじないをかけました。『ありとあらゆる幸福を』と。この色を持つカイル様とこの飴玉に癒されてほしいと思った方に。」
リンがサイモンの反応を伺うと、
目を瞑り額に手をやって、
「こうして目を瞑ると今でも幼い頃のカイル様を思い出すのです。素直で明るくてやんちゃで聞かん坊でした。麦の栽培を学ぶ為の留学も私とカイル様が決めてしたことなのです。あの時に戻れたならと思いました。」
と語り、目を開きリンを見て言う。
「しかし、リン様と出会い留学前のカイル様が時折り顔を出すようになって正気ではなかったのだと勝手に解釈したのです。…しかし、カイル様は正気でした。旦那様の仰る通り、甘えと逃げだったのだと思っています。それに今は気づいていらっしゃるでしょう。」
飴玉の小瓶を光に翳し、
「それでも、不安なのです。サンセーレに本当に染まってしまい帰国しないのではないかと。それならば、それでいいのです。…本当に、カイル様にとって生きやすいのであれば。」
カイルを思い出しているのだろう。
そのサイモンの顔はまるで、
「子離れできない親のようです。」
思わず口に出してしまったが、
サイモンは「そのとおりです」と苦笑し、
「烏滸がましいですが、子離れできない親のような気分なのです。」
遠い目をしながら小瓶を握りしめている。
「ですが、この飴がなくなる頃には子離れしようと思います。踏ん切りをつけなければなりません。私もカイル様も。もう、カイル様は幼い子供ではないのですから。旦那様もそれを願ってのことでしょう。」
サイモンは少しすっきりしたような顔でアイスコーヒーを一口飲んだ。
やはり、頭が痛くなるようでこめかみを抑えている。
「心配性なお父様と威厳があるお父様、2人もいてカイル様が羨ましいです。」
そんなサイモンを見てリンが笑うと、「そんな風に言って頂けて光栄です」と言いサイモンも笑った。
サイモンはしばらくパンケーキを食べに来ないだろう。飴玉をひとつずつ頬張りながら、子離れするのだ。思い出はいつだって輝いている。
ーーそれでも、今を生きなければ
リンは自分自身にも言い聞かせた。
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