ダイナミック帰宅
本当にお久しぶりです。
いつの間にかGWですね。
今月で新社会人になりましたが、そんな事で言い訳はしません。
あと、久しぶり過ぎて、もはや伏線をどこに配ったか忘れました。OTL
のんびりとした時間を過ごしていた俺にシュティが告げた。
《龍が一体と人間が一人、この領地に向かって来ています。速度はおよそ180km/h、到達予想時刻は10分後です。》
ちょっとまって、ねぇ、ものすごいまって!
は!?え?……龍と人!?意味がわからない……いや、意味はわかる!でもなんで龍と人!?
《主様、落ち着いてください。》
落ち着く!うん、わかった!
じゃあ、B–2を出そうか!!
《主様、落ち着けていません。
というよりも、それは空飛ぶ国家予算……もとい戦略ステルス爆撃機です。わたくしの演算能力を駆使すれば空対地用の爆弾も空中目標に命中させるのは可能ですが、せめてマルチロール機にしてください。》
いや、問題そこぉ!?
明らかに世界観ぶち壊すとかそういう事じゃないの!?
シュティの少々ズレた指摘に対して言い返すが
《……レシプロ機、陣地爆撃、空戦、地上機銃掃射。》
すみませんでしたっ!
俺には前科がry……
《割愛します。》
ひどいっ!?
《さて、落ち着きましたね。》
あっ……うん、ありがとう。
《はい。それでは、どうされますか?》
とりあえずルイスさんに報告しに行こうか。
ルイスさんならなんとかするんじゃないか?……面倒事に巻き込まれるのと目立つのは嫌だし。
《本音が隠せてませんよ。》
シュティだし別にいいかなって。俺の半身だし。
《光栄です。嬉しさのあまりに理性が消し飛びそうです。》
スキルに理性ってなんだ……まぁ、いいか。シュティなりの比喩表現だろ。
あまり時間がないのでシュティとの会話もそこそこに、フェルとサティに話しかける。
「すまん、ちょっと用事ができた。フェルとサティは部屋に戻ってくれ。方法はさっきと同じだ。」
「がう……」
「……グル。」
俺の言葉に対してフェルは寂しそうに、サティはいつも通りクールに返事をする。
「また後でな。」
その一言を機に転移を発動させる。今は説得する時間さえ惜しい。
–––シュン!
そして、フェルとサティを部屋に戻してすぐにリーシアが尋ねてきた。
「お兄様、どうかされたのですか?」
彼女の声には少し緊張感が漂っている。
俺の真面目な雰囲気を感じて何かを察したのだろう。聡い子だ。
「ん、ちょっとルイスさんに。」
「ご一緒させていただいても?」
「いいぞ。」
「ありがとうございます。」
その短いやり取りだけで俺とリーシアは何も言わずに立ち上がる。
「転移するけど驚かないでくれ。さっきフェルたちに使ったものだ。」
「はい。」
俺の注意喚起に対してリーシアは頷いて一言そう言った。
よし、シュティ。
《承知しております。領主のいる部屋の前に転移ですね。》
話が早くて助かる。
《これくらいの事であれば当然です。……では、参ります。》
ああ、頼む。リーシアに一言声をかけて返事をしたらすぐだ。
《承知しました。》
「リーシア、発動するぞ。」
「はい、お兄様。」
リーシアの返事を機にシュティが転移を発動させた。
–––シュン!
そして、瞬く間にルイスさんの部屋の前に俺とリーシアが到着する。
–––コンコンコン
俺はすぐさま扉をノックした。
「はーい?あいているよ?」
すると、中からルイスさんの声が聞こえてくる。
「失礼します。清水です。」
ルイスさんの許可を得た俺は矢継ぎ早に扉を開けて中へ入った。
「ん?シミズ君?どうかしたのかい?そんなに怖い顔をして……あれ、リーシアもいるんだね。」
俺を見た途端に不思議そうな顔をしたが、すぐに和やかに迎えてくれたルイスさん。
しかし、俺の隣にいるリーシアを見て少し意外そうな表情をする。
「はい、お父様。お兄様がお父様にご用がお有りのようでしたので私は付き添いですわ。」
「あはは、シミズ君。リーシアと仲良くなってくれて嬉しいよ。」
柔らかに笑うルイスさんはそう言ってより一層笑みを深めるが
「喜んで頂けたのは幸いです。ですが、今は緊急事態ですので歓談もほどほどに。」
「……シミズ君がそこまで言うなら相当な事なんだね。何があったんだい?」
表情が固い俺の言葉にルイスさんも表情を引き締める。
「ご理解ありがとうございます。
時間もないので単刀直入に言いますが、龍と人がこちらに接近してきています。あと、五分もあればここに飛来するでしょう。対処した方が良いのでは?」
「うん?龍と人?……あぁ、もしかしてその龍って黒いかな?」
俺の言葉にルイスさんは少し考える仕草を見せた後にそう聞いてきた。
シュティ、どうだ?
《黒いですね。がっつり黒龍です。ちなみに、人は金髪碧眼です。》
よし、ありがとう。
シュティに確認を取った俺はすぐにルイスさんに答える。
「はい、黒龍です。それと、人物の方は金髪碧眼です。」
すると
「あぁ、やっぱりね……うん、ありがとう。シミズ君大丈夫だよ。それは杞憂さ。」
ルイスさんは何かに納得したように頷きながらにっこりと笑ってそう言った。
その様子を見た俺は至極当然であろう疑問をルイスさんに投げかける。
「どうして問題ないと言い切れるのでしょうか。何か根拠があるのですか?」
そんな俺の問いかけに対してルイスさんは嬉しそうに笑いながらこう答える。
「うん、それは僕と盟約を結んだ龍だからさ。乗っているのは僕の妻だよ。ほら、昼食の時に帰ってくるって言っただろう?
けど、君が僕たちの事を心配してくれるのは本当に嬉しい事だね。ありがとう。」
「……そうでしたか。では、要らぬお節介でしたね。」
俺は肩をすくめて笑う。
おかげで一気に肩の力が抜けた。
「あはは、そんな事はないよ。シミズ君が僕たちの事を少なからず考えてくれている事がわかったからね。嬉しいものさ。」
自虐を口にした俺に対し、ルイスさんがフォローを入れてくれる。果たしてそれがルイスさんの本心なのか、あるいはポーカーフェイスの社交辞令なのかは判別がつかない。
……今はただただ恥ずかしい。一人で勝手に焦ってこのザマだ。それに、よく考えたら金髪碧眼ってリーシアと特徴が一緒じゃん。
《申し訳ありません。わたくしが緊急性を考慮したばかりに主様にご迷惑をおかけしました。》
いや、シュティの判断は間違ってなかった。一人で早とちりした俺が悪い。捜索隊の時もこんな感じだった気がするし。
《ですが……》
何も言うな。押し問答はごめんだ。
《……承知しました。》
「という事は、お母様がお帰りになられるのですか。」
シュティと反省しあっていると、リーシアが嬉しそうに胸の前で手のひらを合わせながら言った。
「そうだね。今すぐにでもリアが帰ってくるみたいだ。シミズ君を紹介したらきっと喜ぶね。」
リーシアの言葉にルイスさんも和やかに微笑みながら言う。しかし、後半でなぜ俺に視線を移したのだろうか。
「ルイスさんの奥様ですか。お会いするのが楽しみです。あと、黒龍も是非拝見してみたいですね。」
ルイスさんの意図が読めぬまま俺は笑いながら応えた。
……あれ?今さらだけど、ルイスさんが龍と盟約を交わしてるって事はリーシアは生まれた時から龍が身近に居たって事だよな……?しかも、黒龍という男心を全力でくすぐってくるヤツが。
《そうなりますね。》
だとするとリーシアが魔獣を好きになるのも無理はないな。龍に比べたら魔獣なんざ大抵は可愛く見えるだろうし……あと、めちゃくちゃ羨ましい!
《あぁ……そうですね……》
俺の心の叫びを聞いて何かを察したらしいシュティはあからさまに諦めた口調で反応を示した。
「さて、それじゃあ僕とリーシアはリアの出迎えに向かうけれど……」
黒龍という単語に静かに興奮していると、ルイスさんがこちらに視線を移して投げかけるように言った。
「!…はい、お世話になっている方の奥様ですからわたしも同行させていただいても?」
視線の中にある疑問に気がついた俺はそれを拾って応えた。
「うん、お願いするよ。」
「ありがとうございます。」
「こちらこそ。」
そうして互いに笑いあいながら歩きはじめる。
……視界の端に映るリーシアが妙にニコニコと嬉しそうにしているのが少し気になるが。
––館の外––
「あ、もう帰ってきてるね。」
「そのようですわ。」
館の玄関から出てすぐに空を見上げて言ったルイスさんとリーシア。
「………は?」
つられて空を見た俺が目の当たりにした光景に、思わず声が出る。
それもそのはず、なぜならそれは巨大な影が館に向かって急降下してくる様だったのだ。
太陽を背に真っ直ぐに、まるで太陽の黒点が迫ってくるかのような大迫力で異様な光景。
「……」
「……」
しかし、その光景を前にしても動じていない二人の手前、俺一人だけ騒ぎ立てる訳にもいかず……ただ黙って見ているしかなかった。
––ゴォォォォオオオォォ!!!
やがて、爆音を撒き散らしながら空を覆い尽くすほど近くまで接近してきた時
「そろそろかな……」
「?……」
「よい、しょっと!」
「えっ……!?」
突然ルイスさんが空高く飛び上がった。
それも数mなどという生易しい高さではなく、確実に30m以上は飛んでいる。しかも、まだまだ上昇していく。
《魔法を用いた肉体強化による跳躍です。》
あっ、うん、ありがとう。
ルイスさんの謎の跳躍にシュティが説明を入れてくれたそのすぐ後、さらに驚きの光景を目の当たりにする事になった。
上昇するルイスさんの直線上にいる龍は空中で横回転し、その頭部から何かが落ちる。
「なんか落ちた……?」
「お母様ですわっ!」
俺の呟きにリーシアは弾んだ声で応えた。
ニコニコと嬉しそうな表情をしている。
「……えっ?」
「?、わたくしのお母様です。」
「あぁ……うん。」
素っ頓狂な俺の反応に不思議そうに首をひねるリーシアを見て、なんとなく諦めをつけて空を見上げる。
リーシア曰く、お母様らしいソレをルイスさんが抱きかかえるようにして受け止めた後、何事もなかったかのように地面に着地し、龍は再上昇していった。
……なんというダイナミックな帰宅なのだろう。
もっと別の方法はなかったのだろうか?
ただ、町が騒がしくないあたり、今の光景はよほど慣れ親しんだものなのだろう。
「ふぅ…ただいま。」
「あなた、ありがと〜。リーシアにもただいま〜、元気だったかしら〜?」
若干思考停止しながらジッとしていると、ルイスさんとその奥さんが地上に戻ってきた。
「はい!お帰りなさいませ!お母様もお変わりなく!」
そしてリーシアは嬉しそうに駆け寄っていった。
ルイスさんはいつも通りにこやかだが、その奥さんもかなりふわふわとした感じの『ゆるふわうふふ奥様』だった。さらに、超美人。
あと、デカい。なにがとは言わないが。
「あら〜?セル爺かと思ったら違うわね〜?どちら様〜?」
そして、顔を上げた奥さんは俺を見てすぐにそう言ってリーシアを後ろに隠した。
どうやら警戒されているらしい。
これは当然だろう。久しぶりに帰った我が家、そこに家族と一緒に知らない人物がいたら誰だって警戒する。というか、俺なら斬りかかる。
「初めまして。私、タケシ・シミズと申します。縁あってルイスさんに妻たち(予定)と共にお世話になっております。よろしくお願いします。
とはいえ、数日程度ですのでご安心下さい。」
奥さんの行動は最もだろう、と結論づけた俺は丁寧にお辞儀をし、敬意を払って挨拶をした。
「あら〜そうなの〜?」
「うん、そうだよ。」
奥さんがルイスさんに確認を取ると、ルイスさんが微笑みながら肯定する。
「あとね………」
そして、ルイスさんが奥さんに何やら耳打ちをする。
「あら、あらあら……そうなのね〜、納得したわ〜……あらあらあら〜、うふふふは……それは嬉しいわ〜」
すると、それを聞いた奥さんは一度納得したように頷いた後、リーシアと俺を交互に見ながら微笑みながら近くまで歩み寄ってきた。
「初めまして〜、わたしはアリシア・リンドブルムよ〜。これからよろしくお願いね〜」
俺の目を見ながらふわふわとした雰囲気で挨拶をしてくれた。
アリシアさんは身長が170cmほどで、高身長の美人。リーシアと同じ金髪碧眼だが、大人の色香を纏いながらも優しげな雰囲気と瞳をしていて、おっとりとした印象を受ける。
「よろしくお願いします。」
今度は軽くお辞儀をしながら笑みをたずさえてこたえた。
「素直でいい子ね〜、わたし嬉しいわぁ〜」
花を振りまくような笑顔のアリシアさん。
近くで見ると確かにリーシアと似ている。リーシアがリラックスしてる時の雰囲気が一番近いかな。
……それにしても、この見た目と雰囲気で飯マズか………どう見てもいいお母さんなんだけど。
いや、まぁ、クミさんも見た目にステータスガン振りしてたから驚きはしないぞ。
ただ、クミさんと違って自覚症状がないというのが末恐ろしいが。
そんな事を考えていると
「あら〜?わたしの顔に何かついてるかしら〜?」
反応の薄い俺に対してアリシアさんが首を傾げながら聞いてきた。
「あ、いえ、すみません。やはりこの美しさはリーシアのお母様なのだな、と。」
「あら〜お上手ね〜、人を褒めながらリーシアちゃんを口説くなんて〜」
「……はい?」
俺の口からとっさに出た言葉を受けたアリシアさんはゆるくふわふわとした雰囲気でそんな事を言い出した。
「無自覚なのね〜……うふふ、これからリーシアちゃんが苦労するかもしれないわね〜」
リーシアに視線を移してどこか嬉しそうに笑うアリシアさんに俺は戸惑う。
「えっと……さっきから何を……?」
俺はリーシアを口説いた気などさらさらないのだが。
「気にしなくていいわよ〜」
困惑する俺をよそに、ふわふわとした雰囲気を漂わせながらも掴みところのないアリシアさんはにこにこと笑みを浮かべている。
「それより〜、館に戻りましょ〜?シミズ君の奥様方にもお会いしたいわぁ〜」
「うん、そうだね。」
「はい、お母様。」
「あ、はい。わかりました。」
そして、アリシアさんの発言により俺たちは館へ戻ることになった。
「………」
ルイスさん一家が館に踵を返した時、俺は少しだけ空を見上げて権能《眼》を発動させ、黒龍にピントを合わせる。
そこには悠々として堂々たる黒龍が空を征服しているかのように舞っていた。
「………」
か、かっけぇぇぇっっっ!!!
なにあの超絶カッコいい生き物!!俺もあんなカッコいい生き物と友達になりたいんだけど!!
それを見た俺は表にこそ出してはいないが、内心ではめちゃくちゃはしゃいでいた。
《ふふふっ、やはり主様は可愛らしいお方です。》
そんな俺に対してシュティが我が子を見守る母親のような発言をする。
……すまん。少しはしゃぎ過ぎた。戻ろうか。
シュティの言葉で少し冷静さを取り戻した俺は気恥ずかしくなり、ルイスさんたちの後を追う。
《はい♪》
嬉しそうなシュティのその言葉が妙に頭の中で響いた。
ー館の中ー
館に戻った俺たちはアリシアさんの要望もあり、ローナとラウ、ベルをダイニングルームに呼んで紹介を済ませた。
「あらあら〜♪こんなに美しい方々が妻だなんてシミズ君も隅に置けないわね〜♪」
「うふふ、いえいえ、その様な事はありません。わたしはただタケシの魅力に惹かれただけですから。
それに、タケシはあまり器用ではありませんよ?」
「うんうん!おにーさんってば普段はかなり鈍感だよねー!たまに鋭いけど、大事な時しか発揮しないし、ああ見えてけっこうイジワルだもん。」
「あらあら〜ローナさんもラウちゃんも大変ね〜」
「わ、わたくしだって!先ほどまで頭を撫でていただいておりました!」
「あらあら〜、リーシアちゃんも少し見ない間にすっかり乙女ね〜」
すると、どうだろう。
この人たち、一瞬で仲良くなった。
おにーさんってばビックリー!
やっぱり、話せる女性のコミュニケーション能力って怖い。
あと、リーシアはなぜそこで張り合おうとするんだ。ローナとラウの視線が怖いからやめなさい。ベルに至っては『うわぁ……やりやがったコイツ』って目をしてるから。アレ、完全に侮蔑の視線だから。
あとね、ルイスさんとアリシアさんはそんなニコニコしないで?なんでそんなに嬉しそうなの?ねぇ?
「失礼します。紅茶と茶菓子をお持ちしました。」
居心地の悪さを感じてそわそわしていると、どこからともなくセル爺さんが紅茶を携えて現れた。
「ありがとう、頂くよ。」
「あら〜ありがと〜」
「ありがとうございます、セル爺。」
「わたしも頂いても?」
「もちろんでございます。」
「あ、わたしもー」
「承りました。」
セル爺さんの登場によって一気に場が和んだ。
……いや、もとから和気あいあいと楽しい雰囲気だったけど。なんか俺に対する視線が怖かったから……
それはともかくセル爺さん、ファインプレー!心からありがとう!
セル爺さんに感謝しながら柔らかくなった雰囲気に胸をなど下ろしていると
「シミズ様はいかがなされますか?」
セル爺さんが俺にそう聞いてきた。
「ぜひとも頂きます。」
「はい。………ふふ、貴方様もご苦労が絶えませんなぁ。」
俺がすぐにお願いすると、セル爺さんは返事をして紅茶の入ったカップを目の前に差し出し、老成した紳士の深みのあるダンディな顔立ちをフッと緩めて片目を閉じ、俺にだけ聞こえる声量で呟いた。
「あはは……ご配慮、痛み入ります。」
なんとか苦笑しながらそう返したが、セル爺さんのThe・大人の魅力に同性であるはずの俺ですらクラッときた。ダンディウィンクの破壊力は計り知れない。
俺が女性なら本気で惚れる自身がある。
つうか、セル爺さんといいルイスさんといい!あんたら揃いも揃ってかっこよすぎだよ!イケメンすぎるよ!
「いえいえ、わたくしはただの使用人。感謝して頂くことは何もしておりません。」
そして、笑みを携えたまままこの対応である。
俺も歳を重ねた時にこうなりたいものだ。
《主様は見た目の歳はとれませんけどね。》
おいやめろ、言うな。自分で言いながら気がついたよ。中身しか成長できない事は。
《黒龍を見て大はしゃぎする方が成長ですか。》
男はいつだってロマンを忘れないんだ。少年の心を常に持ってるだけだよ。
《大抵の殿方はそうおっしゃいますね。》
そりゃ、言い訳の常套句だからな。
《左様ですか。》
シュティと脳内会話をしながら紅茶に口をつける。
なんだかホッとする味だ。
そうして温かみのある紅茶の味で心穏やかな気分に浸っていると
「それにしても〜なんとなく嫌な予感がして帰ってきたら〜、リーシアちゃんに良い人が出来ているのだもの〜、帰ってきて正解だったわ〜。
知らないままだったらお料理が振る舞えなかったもの〜、今日はわたしが作るわね〜」
アリシアさんが唐突にそんな事を口にした。
「あ、お気遣いなく。十分すぎる程に歓迎していただきましたので……」
事前に飯マズなのは知っているので、覚悟を決めて『ありがたく頂く。』と言えばいいのだが、ひとまずはルイスさんの胃の為に一度だけダメ元で断りをいれてみる。
自分から進んで胃に穴を開けたい人は居ないだろうし。
……視界の端でルイスさんがほんの僅かな希望を持ったかのような表情をみせているのが、なんともいえないもの悲しい気分にさせられる。
「それはダメよ〜?わたしからも何かしないと気が済まないもの〜」
すると、アリシアさんはそう言って俺の提案を受け流した。
礼儀云々など考えずに普通に断るのもアリだったが、流石の俺も初対面の人の純粋な厚意を無下にはできない。
まぁ、今後交流する可能性のない人物なら一切の迷いなく断るのだが。
《ひどい人ですね。》
うるせぇやい。
「そうですか。では、ご厚意に甘えさせていただきます。」
シュティの言葉を一蹴しながらアリシアさんにそう言うと
「そうそう〜、素直が一番よぉ〜」
アリシアさんは実に嬉しそうに笑みを深めて頷いた。
そうしてアリシアさんの手料理を食べるという未知の拷問を執行される事になった俺とルイスさん。
期待の表情から一転、少しシュンとしたルイスさんの反応は、まるで構ってもらえない子犬を彷彿とさせる。
そういえば、料理つながりで一つ思い出した事がある。
「あ、そうそう。すっかり忘れてしまっていたんですがお土産があるんでした。」
「え?わざわざ?そんなに気を遣わなくていいのに……」
俺の言葉にルイスさんが驚きと申し訳なさを滲ませた表情で応えた。
「いえいえ、せっかくお世話になるのですから何かしなくては私がローナ達に怒られますよ。」
俺は苦笑しながらルイスさんの表情を和らげようと試みる。
「あはは、そうなのかい?……君も大変だね。」
すると、ルイスさんは困ったように笑う。
ローナとラウが『怒ったりしない。』と少し不服そうな顔をしてこちらを見ているが、気にしてはいけない。
すまん、言いたいことはわかるけど我慢してくれ。
ていうか、二人とも不満そうな顔してても可愛いぞ。クセになりそう。
《嫌われますよ。》
それは嫌だな。今後は控えよう。
《やめないのですね……》
まるで小学生男子みたいだろ?
でも、あの二人のちょっと困った顔とか不満そうな顔を見るのってなんか愉しいんだよ。可愛いから。
《思いっきり惚気でわたくしは悲しいです。》
え?悲しみ要素ないよね?
《わたくしの事を言及していただいておりません。》
欲しがるねぇ……えー、どうしよっかなー?
《……主様は意地悪です。》
その声色が聞きたかった。
《………》
ふはは、墓穴を張らないように黙るのも可愛いぞ。
《………》
あ、スネた。
スネちゃったシュティに『少しやり過ぎたかな。』と思いつつも、ルイスさんに意識を向ける。
「ところでルイスさん、肉とかを解体する場所ってありますか?」
ひとまず、モノを出す為には広い場所が必要だ。
「うん、それくらいならあるけど……それがどうかしたのかい?」
俺の急な質問にルイスさんは不思議そうに答えた。
「少しだけ借りますね。」
「いいよ。」
「ありがとうございます。」
「セル爺。」
「かしこまりました。」
ルイスさんとセル爺さんのやり取りは、まさに阿吽の呼吸。
ここまで信頼関係の構築が成されている主従もそうそういないのではないだろうか。
「こちらです。」
「ありがとうございます。セル爺さん。」
「いえいえ、わたくしもシミズ様が何をなさるのか興味がございます故。」
「あはは、期待して頂いてるのはありがたいですが、本当に大した事じゃないですよ。」
「ますます楽しみですなぁ。」
「あはは、参りましたね……」
二人で談笑しながら部屋を出ると
「お兄様!わたくしもご一緒しますわ!」
リーシアが背後からぴょんと顔を覗かせて言った。
「えっと……リーシアには少しショッキングかもしれないぞ?それにお母さんと話さなくていいのか?」
今から魔獣の解体するんだけど……
「お兄様と一緒なら関係ありません。」
「話聞いてた?」
「関係!ありません!」
「えぇ……」
「ほっほっほっ……いつの間にかお嬢様も強かになられましたなぁ。」
戸惑う俺を余所に、その会話を聞いていたセル爺さんは感慨深そうにシワを深めて呟いている。
「到着しました。」
少し歩いて通されたのは厨房らしき場所の横に設置された解体場だ。
「ありがとうございます。」
俺はセル爺さんに礼を言ってから作業台の前に立った。
「お兄様は何をなさるのおつもりなのでしょうか……」
「楽しみですなぁ。」
「お兄様はいつもわたくし達に驚きを下さいます。」
なんか後ろで期待してる声が聞こえてきてやりづらい……まぁ、うん、気にしても仕方ないか。
諦めた俺はインベントリを開いて【どすこいベア(肉)】を選択し、解体台に出現させる。
これは以前、フェルと狩りに行った時にフェルがたった一撃で仕留めたモノだ。
まさか首筋を噛みちぎって一撃で倒すとは思いもよらなかった。フェルは意外と強いのである。
フェルの意外なまでの強さを実感したあの時を思い出しながら台に視線を落とすと不自然な点に気がついた。
「………あれ?もうブロック肉になってる……しかも部位ごとに丁寧に捌かれた後だ。あ、内臓もある。」
そう、仕留めてからはインベントリに放置していたどすこいベアが綺麗な肉塊へと変貌を遂げていたのだ。
インベントリの中では時間経過という概念が存在しない。つまりは、仕留めてすぐの状態じゃないとおかしい。
しかし、今は食える内臓と各部位ごとに捌かれた状態。
え?どうして食える内臓とかわかるかって?
そりゃあ、これ見よがしに肉の上に【肉の部位名】と【食用】なんて表示されてたら誰だってわかる。
………って、あ、これやってくれたのシュティか。
《はい。》
気がきくな。シュティ、本当にありがとう。
捌く手間が省けたし、苦労せずに済んだ。
《これくらいは当然です。感謝されるべくもありません。
それに、わたくしが好きでやっている事ですので主様がお礼を口にされなくても構いません。》
そか、なら俺もシュティの事が好きで勝手に感謝してるんだ。気にするな。
《あ、ダメです。すごくキュンキュンします。悶えていいですか?いいですよね?》
ははは、面白いこと言うな。スキルがどうやって悶ええるんだ?
《具体的には今すぐにでも実体化して地面でゴロゴロ転がりたいです。》
体が汚れるからやめなさい。
あと、実体化して俺から離れられると困るからやめて。魔力とか制御できる自信がない。
《実体化してもわたくしの役割は変わりませんよ?実体化する分の負担はわたくしが請け負います。リソースは有り余ってますので。》
え、そうなの?……ちなみに今ってどれくらいのリソース使ってる?
《2割程度です。寝転んでテレビ見てるレベルですね。》
思ってた以上に余裕であるじさまはビックリ。
《お陰様で暇すぎてこうして主様とお話しする以外に楽しみがありません……ですから、出来る限りの事はわたくしが行います。》
……なんか、ごめん。
ちょっとふざけてぞんざいな扱いしてたけど、改めるわ。シュティは世界最高のスキルだ。
《ふふ、ありがとうございます。やはり、貴方様で良かった。》
………不覚にも割と本気で可愛いと思ってしまった。
そんなこんなでやる事がなくなった俺は振り向いてセル爺さんに声をかける。
「あの、これどすこいベアの肉と食べられる内臓なんですけど……どこに置いたらいいですか?」
「少々お待ちを。」
「わたくしも見たいです。」
俺の言葉を受けてセル爺さんとリーシアはこちらに歩み寄り、肉と内臓を観察する。
「ほぉ……これはまた良い物ですな。」
「わ、わたくしには食材の良し悪しはわかりませんが……これは新鮮だと一目でわかります。」
「シミズ様、本当に頂いてもよろしいのですかな?」
しばらく吟味した後、セル爺さんが良い笑顔で尋ねてくる。
「えぇ、もちろんです。その為に仕留めたので貰っていただかないと困ります。」
俺は笑いながらそう答えた。
「それではありがたく頂戴します。
とはいえ、せっかくシミズ様から頂た物を奥様が使われるのは少し気が引けますので明日以降に。」
「そうですね。お母様ですとこのお肉を刺激物にしてしまいます。」
苦笑する二人に
「あはは……ご自由に、としか。」
俺は気の利いた一言も言えない。
アリシアさんはダークマター製造機か何かですか?
「今日にでもおわかり頂けるかと……」
「……お兄様、どうかご無事で。」
………やっぱ、やめときゃ良かったかもな。
リーシアの純粋な心配とセル爺さんの苦悩の声に俺は今になって少し後悔するのだった。
作者「お久しぶりですね。隊長。」
隊長「ついに1ヵ月以上の更新なしという記録を更新しやがったな。」
作者「うん、やっちまったぜ。言い訳はしないよ。
あとね、感想で【のんびり要素少なくね?】的な事を指摘して頂いたので思い返してみたら『確かにそうだ!!』と納得しました。
シリアス嫌いなのにシリアス多めというこの矛盾……ひとまず、もう少しギャグ&ラブコメ要素を取り入れて様子を見ましょう。」
隊長「貴様の性格が真面目だからな。ふざけるにしてもさじ加減が下手なんだ。馬鹿者が。」
作者「ほんと、真面目に生きてて得した事ないんだよね……」




