手料理
たとえっ!前書きと後書きが薄ら寒いと言われてもっ!
私はっ!書くことをっ!やめないっ!
元ラガーマンのメンタル強度を侮ってはいけない。(戒め)
ラウと話をしたり、契約をしたりしているうちに夜が明けたので一度寝室に戻った俺。
ベットに腰掛けるとフェルが薄く目を開けてこちらを見る。
「くぁ……」
しかし、フェルは眠いらしく、一つあくびをしてまた目をつむった。
「はは……可愛いやつ。」
俺はそれを見て笑いながらゆったりと首元を撫でてやると
「クゥ……」
少し身じろぎして気持ちよさそうな声で鳴いた。
銀の毛並みがモフモフとしていて非常に良い手触りだ。体温もあったかいので是非とも頭を預けて眠りたい。
それにしても、やっぱり犬ってかわいいな……見てて癒されるし、甘えられても癒される……いや、この子は狼だけども。
《主様、ご報告がございます。》
そんな事を考えながらほっこりしているとシュティが話しかけてきた。
んー?どうした?シュティ。
《いえ、主様のスキルに関してなのですが。》
うん、それがどうした?
《スキルが増えました。それと権能が更新されています。》
……え?なんで?
《契約の影響です。》
マジか……で?どんなのが増えたんだ?
《ご覧頂いた方よろしいかと思われます。》
了解した、んじゃあ
「ステータス。」
《固有スキル》
・【全知全能】
・【権能】 劔
「うん?権能?」
《はい、権能です。》
あぁ、そっか、ラウは最上位神だから権能持ってるのか……ってあれ?なんでこいつだけ孤立してるんだ?
《はい、それは主様とラウ様の魂間での契約である為、性質上私でもそれに干渉する事は出来ません。いわば、完全に主様の魂に定着したスキルとなります。
それに対して他の権能はあくまでも『貸し与えられている』状態です。
私は完全に主様のスキルとなっておりますが、そこに権能が追加されている状態との認識でよろしいかと。
ちなみに私が定着している理由は主様がローナ様へ名を与えた時に、ローナ様が受け入れた事により成立した契約です。》
なるほど、それならこの権能だけ使い心地違ったりするのか?
……やっぱプロポーズみたいなもんじゃねぇか……やっちまった……事実上あの二人と重婚したようなもんじゃねぇか。
《それは権能の内容によりますが、私を介さずに直接使用するのでより感覚的に操作が可能かと。
それは今さらです主様。ローナ様に名を与えた時点で既に最初の契約は果たされていました。それに、あの少女との契約は主様が良いと仰ったからこそ私は契約を手助けさせて頂いたまでです。》
そうか。
……今は深く考えないようにしよう。二人の事は責任持つ、それだけは絶対だ。俺もあの二人の事は大切に思ってるからな。もし、あの二人が俺と離れたいと言った時はその時だ。
《もはやあの二人の答えは出ているようなものですからそれはないと思いますが……》
そうか?
《はい、あとは主様が覚悟を決めるだけです。》
……それで勘違いでしたー、とか赤面ものだから今の距離を保ちたい。
《チキンですね。》
うるせぇ。
《……本当は気づいていらっしゃるのに。》
さて、何のことだろうか。
とりあえず今は権能の内容を見てみるか。
【権能】《劔》
魔力を物質などに伝達し、術者の自由意思にて操作可能。
魔力を物質化することにより剣としての使用も可能
名は以下の通りである。
・《真名》フスティシア
「これは……」
《つまりは魔力を介して物を動かす事が可能だという事ですね。》
……それで森を作ることが出来たのか。
それに手が届きそうで届かないティッシュ箱をとるのにも使えるな。
《その様ですね。彼女は神でありながら精霊となります。精霊とは生命の具現化した存在ですので植物などとの親和性は非常に高い様です。
……それと主様、そのような事に権能をお使いになられないで下さい。》
なるほどねぇ……植物に魔力を伝達して成長を促したのか。
……やっぱりダメか。
《流石で御座います。おそらくはその通りかと。
はい、ダメです。これは神の権能です。そのような事に使われては権能も報われません。》
シュティもスキルだからその辺なにかしら誇りを持ってるのね……まぁ、それはそうと気が向いた時にまた今度使ってみるか……あ、いい事思いついた。
《何をなされるのでしょうか?
奇妙な事にはお使いになられぬ様にお願い申し上げます。》
ん?それは今日やるからわかるさ。
安心しろ、変な事には使わんさ。
《左様ですか。》
おう。それより権能の真名ってなんだ?
《真名は神名とも読むことも可能です。すなわち神は自身の名を使用する事でより権能との親和性を高めることが可能となります。
それ故に、より強力な物へと昇華させる事が出来ます。》
なるほど。とどのつまりこれは正義の劔ということか。
《左様です。》
能力は……
・権能《神名》フスティシア
いかなるモノも斬り捨て、いかなる魔法の干渉をも受け付けない。
シンプルだけど強いな。
《そうですね。》
よし、大体はわかった。後は権能の更新って何が更新されたんだ?これの事か?
《いえ、権能《眼》に追加された項目がございます。》
了解、見てみようか。
【権能】《眼》
・プロビデンス
・ラー
p.s.「こーゆーゲームっぽい追加要素あったら面白いよねーって事でやってみたんだ。どう?
うん、誰?
《この権能を与えた女神です。》
あぁ、けっこうお茶目なんだな……って、神様がやったらゲームどころの話じゃねぇ!?
てかなんであんたがゲームの内容を模してるんだ!?あんたたちがゲームのモデルにされてるんだ!逆だ!
《主様、落ち着いて下さい。まだ続きがあります。》
……嫌な予感しかしない。
p.s.「こーゆーゲームっぽい追加要素あったら面白いよねーって事でやってみたんだ。どう?
あ、そうそう。もしオススメのゲームとかアニメがあったら教えてね。
でも、モンスターハントするワールドゲームはもうやってるからね。これ面白いねー(^^)
グラフィックスも綺麗だし、最近では受付の人の騎乗スキルが発覚したりとか……もうダブクロには戻れないかなー」
……いや知らねぇよ!?俺はあんたの友達か!?俺もうそっちに居ませんから!地球のことなんて知るわけないだろ!?暇なのか?暇なんだな!?
ていうかあんたはこっちの世界でリアルモンスターハント出来るだろ!なにゲームやってんの!?
《主様、落ち着いて下さい。》
……すまん。
《あまり深く考えないことが賢明かと。》
……ああ、そうだな。もういいや、細かい事は気にしない。うん、キニシナイ。
《そうなさって下さいませ。》
おう……それにしてもねむ……くないな。ほとんど寝てないのに眠くないのはなんでだ?
《主様は人間をお辞めになられてるのをお忘れなのでしょうか?》
リ○イン片手にやってます。24時間戦えます!ってか?やかましいわ!
《主様は年老いた蛇でもなければ伝説の傭兵のクローンでもありません。》
いやなんでわかるの……あぁ俺の記憶読み取ったのね……今、何気に怖いと思ったぞ。
《ご安心を、常に記憶を閲覧させて頂いてるわけではありません。》
違う、そういう問題ではない。
もしかして天然入ってる?やっぱローナからの祝福だから引き継いじゃってる?
《ノーコメントでお願い致します。
ですが、私は主様をお慕いしております。》
……どうしてこうなった。変な方向に向かってどんどん進んでるよこの子。
《主様に名前を頂いた時から私はずっと主様だけの事を考えております。》
名前かぁ……そっかぁ……名前が原因かぁ……
《あの、主様?名前を取り消すなどという事はありませんよね?》
……そんな泣きそうな声で言われるとなぁ……?
もっといじめたくなるじゃないか。
《やめてください主様!お願いです!せっかく賜った名を失えば私は!わたくしはっ……!》
ゲスな表情を浮かべる俺にシュティは泣きそうな声色で懇願してくる。
ほう?失えばどうなる?
その内容にさらに加虐心がくすぶられた俺は彼女に問う。
《私の存在意義が消えてしまいます!私の存在を認め、主様がこの世に私の存在を確定させて下さったの大切な物です!ですから、どうかそれだけはっ……》
しかし、思った以上に必死な反応が返ってきた。
……うん、ごめんやりすぎた。名前を取り消すとかそんな事しないから……な?
《……ほんとうでしょうか?》
あ、やべぇ。今さらだけど、これノリが完全にローナと同じだ。
あぁ、本当だ。自分で自分の右腕を折る奴がどこにいる?
《ふふっ……主様、それは身体の一部である右腕と比喩で使用される右腕をかけているのでしょうか?》
あ、ばれた?
《はい、非常に退屈ですよ。》
よろしい、ならばお前の名を泣き虫に変えてやる。
《申し訳ありませんでした!》
おう、素直が一番だぞ。ま、冗談だけどな。
《はい……ふふっ、ですが、やはり主様はお優しい方です。
そんな主様の一部であると認識して頂いているこの状況に興奮を禁じ得ません。》
え、何それこわい。
《ふふっ、冗談です。》
ぐっ、さっきの仕返しか……でも、よかった。普段から興奮されてると思うと気が気でないぞ。
……ちょっとだけ冗談に聞こえなかったのは気のせいだと思っておく。
《問題点がそこなのですか。》
ん?そうだけど?
《そうですか……ですが、私は永遠に貴方様の側に。》
ありがとうシュティ。
《私が望んでいる事ですので。》
それでもだ。お前は居なくならないでくれよ?……あの人みたいに。
《はい。主様は私が守ります。……必ずや。》
はは、えらい意気込んでるな?けど、頼もしいね。頼りにしてるよ。
《はい、お任せください。》
そんな訳でシュティとの関係を少し再確認した俺は数時間の仮眠をとることにした。
–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
ー数時間後ー
「う……はぁ……やっぱり睡眠は最高の贅沢だな。」
目が覚めた俺は伸びをしてからカーテンを開ける。
日がそれなりに昇っており、朝というには少し遅い。
「くぁ……わふっ。」
すると、フェルも目が覚めたらしくベッドの上であくびをし、俺に返事をするように眠気のこもった声で返事をした。
「おはよう、フェル。」
「わふ……クゥ♪」
挨拶しながら撫でてやると尻尾をパタパタと振り、ご機嫌な様子だ。
透明感のある鮮やかな明るい翡翠色の瞳で嬉しそうにこちらを見つめてくる。
さて、そろそろ下に降りようか。
「うし、朝飯にするか。」
「ガウっ!」
俺が笑顔でフェルに言うと、フェルもベッドから降りて元気に返事する。
「あ、おはようタケシ。」
「おにーさん遅いよー」
「おう、おはようさん。悪いな、ちょっとばかり寝てた。」
リビングに出るとローナもラウもすでに起きていた。二人はソファて紅茶を嗜んでいる。非常に優雅である。
朝(?)から美人と美少女に迎えられるとか最高だな。
「ところでローナはいつ起きたんだ?」
「うーん、ちょっと前かな。」
人差し指を頰に当てながら少し考えて答える彼女。
「そか、それならあんまり待たせてないようでよかったよ。」
彼女の言葉に安心していると
「おにーさん、わたしには聞いてくれないの?」
ラウは俺が聞かなかった事にご立腹なご様子。
むー、っと頰を膨らませている。
「いやだってラウはついさっき来たとかだろ?」
数時間前まで話してたんだぞ?流石にちょっとくらいは寝てるだろ。
「そんなわけないじゃん!ローナさんより早かったよ!」
しかし、俺の内心とは裏腹にラウは俺の言葉に立ち上がって抗議する。
「ええっと……なんかすまん。」
まさか寝てないとか言わないよね?もしかして精霊だから関係ない?
《精霊も神も眠る必要はありません。娯楽です。》
マジかよ……
《それは主様もですが。》
やめろ、聞きたくない。
「……グル。」
シュティの何気ない一言に軽く凹んでいると俺たちの会話で目が覚めたらしいサティが俺の足下にきた。いや、サティのサイズ的に俺の側に来たと言うべきだろう。
「おはようサティ。」
「……グル。」
俺の挨拶にそっぽ向いて素っ気なく返すサティだが、真っ直ぐになった尻尾の先が少し前を向いている。ちゃんと挨拶してくれているというのがバレバレである。
素直じゃないねぇ……微笑ましいけど。
この通りサティは一見クールだが、フェルが寝てたりしてなおかつラウが居ない時は結構ガッツリ甘えてくる。
たぶんフェルにはお姉さんぶりたいんだろう。なんとも愛らしい。
「……グル。」
俺が笑いながらサティを軽く撫でてやると、『なに?』そう言いたげな瞳で俺を見た。ちょっとジト目な気がするが気にしない。
「いや、何でもない。」
「……。」
少し疑っているようだがそのうち諦めるだろう。
「あ、そうだ。サティ、フェル、飯だ。」
「ガウ!」
「……グル。」
朝ごはんをあげてないことを思い出した俺はいつも通りブロック肉を床に置いた。
二頭が食べ始めるのを確認すると俺たちの分も朝食を出すことにする。
「さて、朝飯はなにが食べたい?」
俺が二人に聞くと
「私はなんでもいいよ?」
「わたしはおにーさんが作る料理かな。」
ローナはおそらく言われると一番困るであろう返事を、そして、ラウがとんでもないことを言ってくれやがりました。
「えっ……」
俺がラウの言葉に固まっていると
「タケシ料理できるの?それなら私も食べたいっ!」
敏感に反応したローナが目を輝かせている。
あー、これはあれだな……断れないやつだ。だってローナの顔に『期待』という文字が浮き出ているのがはっきりと見える。
「おにーさん料理できるんだよね?」
問題発言して下さりやがったラウは単に興味本位らしい。……それなら仕方ないか。
「まぁ、多少はだけどな。誰でも作れる範囲だぞ?期待するなよ?」
ラウの問いかけに俺は出来るだけ期待させないように答える。
「うん、おにーさんが作ってくれるならなんでもいいよ。」
「私もラウちゃんに同じく。」
俺の返答にラウとローナは微笑みながらそう言った。
「……わかった。それなら作るから少し待っててくれ。」
「ありがとー」
「楽しみねラウちゃん。」
断りづらい状況になり、とりあえずテキトーに作る事になってしまった……なにを作ろうかな。
「……味噌汁と卵焼きだな。あと白米と漬物。」
一応は朝食の時間帯なので軽めのものにしよう。
「ラウ、ローナ、卵焼き作るんだけど塩と砂糖どっちがいい?……ってわかんねぇか。」
つい卵焼きに入れるのは塩なのか砂糖なのかを聞こうとしたが、そもそも異世界の料理だ。
いくら創造神と最上位神とて一世界、それも一国家の料理など知らないだろう。……あれ、じゃあなんでアニメ知ってる最上位神居るんだ?後でローナに聞いてみよう。
あ、でも卵焼きって醤油とかもいいよね。ネギ入れたり、明太子入れたりとかレパートリーが結構広い割に作るの楽だし。
話がそれたな。さて、二人に説明しようか。
「あ、私は砂糖がいい。」
いやわかるんかい!ローナさんやっぱパネェっす。
しかもあの人と好みが一緒というのがまたなんとも言えない……
「りょ、了解。」
ローナの返答に驚きつつも了承すると
「なにか選べるの?」
ラウは普通の返事をしてくれた。よかった……
「あぁ、しょっぱいのと甘いのどっちがいい?」
「うーん……どんな料理かわかんないから決めづらいよ……」
俺が彼女に聞くと当たり前の返事が返ってきた。
そりゃそうだよな、俺にとっちゃ親しんだ物でもラウにとっては初めての物なんだから。
「そか、ならどっちも作るからちょっとずつ食べてみてから好きな方を取ってくれ。」
「……いいの?」
「おう、もう片方は俺が食う。」
「ありがとうおにーさん。」
「なに、気にしなさんな。」
百聞は一見にしかず、という事で作って食べさせた方が早いと判断したので砂糖入り二つ、塩入り一つの合計三つを作る事にした。
今回作るのはシンプルに卵と塩か砂糖だけの卵焼き。あ、やっぱ出汁も入れよう。出汁巻きになるけど大して変わらんからいいか。
味噌汁はかつお節と昆布で出汁をとってから味噌を溶く。具材は……豆腐とネギ、ワカメでいいか。
味噌は米味噌を使用。
漬物はすでに漬けられている状態の白菜にゴマとかつお節、醤油を和えた物。
白米は炊飯器で炊く。
あ、よく考えたら塩分濃度が凄いことになる……ま、いっか。味噌汁でなんとかしてもらおう。それに二人とも神様だからたぶん大丈夫だろう。
「それじゃあちゃっちゃと作ろうかね。」
調理器具は一式キッチンに備え付けられているのでそれを使う。
手は清潔にしたから、いつでも始められる。
よし、始めるか。
まずは味噌汁。
味噌汁は鍋に水と昆布を入れて弱火で沸騰寸前まで放置する。目印は気泡が出てきたくらいかな。
沸騰寸前まで温度が上がったら深めで目の細かいザルに入れたかつお節を鍋に投入。ザルを使ったのはかつお節をそのまま入れると濾すのがめんどうだから。
本当はかつお節が沈むまで放置するので、ザルを使うと見分けがつきにくいが、その辺は完全に感覚だ。
その途中でアクが出るのでそれを取って再沸騰するまで加熱する。だいたい2、3分くらいかな?
沸騰したら火を止めてザルを取ってお終い。
かつお節のカスが心配なら濾し布とかで出汁を濾す手間をかけてもいい、というかそっちが正解だと思う。
というわけで、出汁完成。
あとは具材を入れて味噌を溶くだけなのだが、その前に少し出汁を拝借する。ちょっと多めに作ったので少し取り出しても特に問題ない。
あとはさっき言った通りに具材入れて味噌溶くだけで味噌汁の完成。うん、やっぱすぐ終わるわ。
はい、次。
本当は出汁巻きと味噌汁は同時進行でもいいが、出汁巻きは何個か作るし、時間に押されてる訳でもないのでのんびり作る。
四角い卵焼き用のフライパンに油をひいて、フライパンを温める。
その間にボウルに卵を4〜5個入れて泡立て器で混ぜ、塩か砂糖、しょうゆとみりん、そしてさっき作った出汁を少し入れる。出汁を入れすぎないように注意。これも分量は感覚。
分量とかはトライ&エラーで覚えたので細かい事は覚えていない。
フライパンが充分に温まっているのを確認したら少しずつ卵を敷いていき、半熟になったらやぶれないように層を形成していく。あと、気泡ができたら必ず箸で潰す事と一つの層ごとに油を拭き取って、油をひきなおす作業もやる。
めんどくさかったら油をひきなおすのはしなくてもいいが、後始末で苦労するか、卵が油まみれになるのでおススメできない。これは経験則。
それと、気泡を潰すのは卵焼きの中に空洞ができる原因になるからだ。
卵を使い切ったら好みの焼き加減にして火を切り、巻きすにくるんであら熱を取るために放置する。
そして同じ手順でもう二つ作ると、出汁巻き三つ完成。
あとは白菜の漬物にゴマとかつお節にしょうゆをかけて漬物も完成。
白米?といで炊く。
はい、お終い。
これは味噌汁を作る前にやっておいた。ちょっと固めに炊いたくらいで特に言う事はない。
あとは……うん、卵のあら熱を取る以外にやる事がない。
そうだな、冷や奴でも付け加えようか。
とは言っても豆腐出して付け合わせを自由に選んでもらうだけだけどな。
豆腐は出汁を使うもよし、しょうゆに好きな調味料を使うもよし、ポン酢でもよし……ほんとになんでも合うな。
俺はそんな事を考えながらボーっと時間を潰して過ごしていた。
……よし、卵のあら熱も取れた事だし二人に声をかけよう。
「ほい、とりあえず冷や奴と味噌汁置いとくからな。白米と出汁巻きも持ってくるから席に着いて待っててくれ。」
「あ、うん、わかったー」
「はい。」
どうやら二人はソファで談笑していたらしく、俺が声をかけると二人はすぐに立ち上がって席に着いた。
そうしてテーブルに全員分の朝食を並べると
「わぁ、おにーさんすごい!」
「ほんとね、すごいわ。」
過剰な反応をもらった。
今回のメニューは
【白米・白菜の漬物・出汁巻き・味噌汁・冷や奴】
の5種類。ちょっと少ないかもしれないが別にいいだろう。
それにしても褒められるというのはやはり嬉しいものだ。
「いや、一応は誰でも作れる範囲だからな?」
しかし、あくたでも一般レベルではあるし、品数も少ないのでちょっと引け目を感じる。
「そうなの?でも、わたし全く料理とか出来ないからじゅうぶんすごいよ!」
だが、ラウは目を輝かせてそう言った。
「えぇ、そうよ。私も料理は出来ないから……」
するとローナもそれに続く。
うん、まぁ、君たち作る必要ないもんね。それに重役だしね、うん。
「そうか、まぁ、味は普通だと思うから期待しないでくれよ?」
気を取り直して彼女たちに念を押すと
「えー、こんなに美味しそうなのに?」
「やめろ、ハードル上げるな。」
きっちりフラグを立てられた。
不思議そうに聞き返す彼女のそれは本心なのだろう、しかし、それはやめてくれ。いや、ほんと切実に。
「ともかく、冷める前に食べてくれ。」
「はーい。」
「わかったわ。」
これ以上フラグを乱立されてはたまらない、の一心で話の軌道修正に成功した。
「あ、そういえばラウは箸使うか?」
今、思い出したのだがラウは箸の練習をしていたのだ。
「使う!」
俺の問いにラウは元気にそう答える。
「使えるのか〜?」
俺がにやにやしながら箸を渡すと
「ふっふっふっ、おにーさんを待ってる間はずっと練習してたんだよ?もうバッチリ!」
誇らしげにラウは少ないソレを張ってそう言った。
「それならまたご褒美あげないとな。ちゃんと使えてたらの話だけど。」
また何かしらのスイーツをあげる必要がありそうだ。
「ほんとう!?ありがとう!……あと、おにーさんまた失礼なこと考えた?」
本当に嬉しそうに表情をほころばせたあと、ラウは急に真顔になって質問してきた。
わぁーお、急に真顔になったよこの子。正直めっちゃ怖い……ていうか何度このやりとりをしてるんだまったく……
「さて、なんのことやら……ローナはフォークでいいか?」
ラウから逃げるようにローナに話しかけると
「ううん、私もお箸がいい。」
彼女もまた箸を希望した。
「使えるのか?」
「わかんない。でも使いたい。」
「オーケー、それならほい。」
「ありがとう。」
そう言う彼女に俺は
(創造神が四苦八苦する姿が見れるかもしれない……)
そう考えて箸を渡す。
どうやら興味本位っぽいので彼女にはとりあえず普通の箸を渡した。もし練習したい様なら彼女の分の箸も作ろう。……ローナなら自分で作れるか。
「じゃあ、食べるか。」
「うん。」
「はい。」
「「「いただきます。」」」
三人の声がそろい、手を合わせた……待て、ラウはともかくなんでローナが知ってる?
「ローナ知ってたのか?」
「え?なにが?」
俺が驚いてローナに聞くと彼女は何も疑問に思っていないらしく、何を聞かれたのかすらわからないようだ。
「いやほら、今俺とラウが手を合わせてただろ?ラウは知らなかったのに何でローナは知ってたんた?」
「あれ……なんで……?」
俺が質問の意図を説明するとローナも心当たりがないらしく、首をかしげている。
「無意識にやってたみたい……なんでかしら?それにすごく懐かしい感じがして……」
「……そうか、まぁ、そういう事もあるんじゃないか?とりあえず食べよう。」
「うん。」
そんなこんなでみんなで朝食を食べ始めたのだが……
「うーん、わたしも甘い方が好きかな。」
ラウに塩入りと砂糖入りの二つを一切れずつ食べてもらうと、彼女も甘い方がいいらしい。
「美味しいわ……それにやっぱり懐かしい?」
ローナは俺の料理に謎の懐かしさを覚え
「え、ローナさん初めてなのにお箸使えるんだ……」
やっと箸が使えるようになったラウはローナがいとも簡単に箸を使いこなしているのに若干凹んでいたり
「みそしる?っていうのすごくいい香りだね……」
「すごくホッとするわ。漬物も美味しい。」
味噌汁が好評だったりと俺にとって嬉しい事ばかり言ってくれる。
「それは良かったよ。」
嬉しさに頰をほころばせながら俺は言った。
久しく忘れていた。誰かのために料理を作ってそれを食べてもらう楽しみというものを。
今度はもっと美味しい物を作ろうかな。
その日の朝食はいつもよりも美味しく感じたのは気のせいではないだろう。
「「「ごちそうさまでした。」」」
やがて食べ終わると
「美味しかったよおにーさん!ありがとう。」
「タケシ、ありがとう。」
二人は美しい笑顔を浮かべてお礼を口にした。
「お粗末様でした。」
俺はそれがなによりも嬉しく、なんとも言えない温かい気分になった。
「ねぇ、タケシ。」
「うん?どうした?」
俺が皿を片付けているとローナが話しかけてきた。いったいなんだろうか?
「ええっと……その、また、作ってくれない?タケシが作ってくれる料理がいいの。」
ローナは少し恥ずかしそうにはにかみながらそう言ってくれた。
本当に嬉しい事ばかりだ。
「わたしもおにーさんの料理また食べたい!」
それにラウも反応して同調する。元気だなぁ……ほんと、神様には見えない。
「ああ、いいぞ。」
「ありがとう。」
「ありがとうおにーさん!」
二人のお願いに俺が了承すると
「やったわね、ラウちゃん。」
「そうだね、ローナさん!」
二人は手を取り合って喜んだ。
そこまでして喜ばれると恥ずかしいんだが……でもまぁ、ありがたい。
「こっちこそありがとな。」
俺は彼女たちに礼を言う。
「え?なんでおにーさんがお礼を言うの?」
「たしかにそうね。私たちのお願いを聞いてくれたのはタケシなのに。」
俺の言葉にキョトンとした様子でそう言った彼女たちに
「さぁ?なんでだろうな?」
俺は笑いながら話を流してソファに移動する。
「変なおにーさん。」
「すごく気になるわね……」
彼女たちも同じようにソファへと移って俺の発言を訝しむ。
彼女たちにとっては不思議なのだろう。
だけど、もう自分のためにしか料理を作る事しか出来なかった俺に、もう二度と訪れることのないと思っていた事を望んでくれた。
誰かの為に何かが出来る。
料理という形で喜んでもらえる。
それがひどく嬉しかった。
自分が作った物を美味しいと言ってもらえる喜びをふたたび俺に与えてくれたのはこの二人だ。
恥ずかしいから言えないが、俺はこの二人の笑顔が好きだ。
その眩い笑顔を俺が咲かせる事が出来るのならこれ以上のことはない。
だから、せめて感謝だけでも伝えようと思った。
何も伝えられなかった無念と後悔をもう二度として味わわないためにも。
「教えてくれないの?」
ローナは我慢できなかったらしく上目遣いに聞いてくるので
「お前ら可愛いなって思っただけ。」
「っ……///」
「……おにーさんそれはずるいよ。」
言い方を変えて正直に言った。
だって嘘つくなって言われてるし、俺自身ちゃんと伝える事は大切だと知っている。
「今日は午前はゆっくりして、午後から狩りに行くか……フェルー、サティー、おいで。」
顔を赤くして黙り込んだ二人をよそに俺はフェルとサティを呼ぶ。
「ガウ!」
「……グル。」
尻尾が千切れんばかりにブンブン振りながら側に来るフェルに、ゆったりとした足取りで呼びかけに応えるサティ。
「よしよし、いい子だ。」
「クゥン……♪」
「……。」
それぞれ頭を撫でてやるとフェルは立った状態で手を押し返す勢いで頭を当ててくるのに対し、サティは寝そべってからそっぽを向いて大きくゆったりと尻尾を左右に振るだけで特に反応を示さない。
だが、たまにこっちを向いてゆっくりまばたきするので嫌ではないらしい。
「今日は森の中を探索がてらに狩りをするぞ。フェルとサティはどうする?」
「ガウ!ガウガウ!」
俺の質問にフェルは『行きたい!』という思いが伝わってくる程に目を鋭く光らせて吠えた。
「おけおけ、サティはどうする?」
そのやる気に苦笑しながらフェルを落ち着かせてサティにも聞いてみる。
「……グル。」
すると、サティはどうやら乗り気ではないようで、そっぽ向いたまま気の抜けた声で返事をした。
「よし、それじゃあフェルと俺で行こうか。」
「ガウ!」
俺の言葉にフェルが元気に返事をした。
そんな訳で午後はフェルと共に狩りに出かける事になった。
「そういえばローナ。」
一つ書き忘れていた事があった。
「ん、なぁに?」
俺が声をかけるとフェルを撫でながら反応するローナ。
「ラウは地球のこと知らないのに別の最上位神は地球のことを知ってるのはなんでだ?アニメとか。」
さっき浮かんだ疑問をぶつけると
「あ、それはね。ラウちゃんはこの世界だけを担当してもらってるからなの。他の子たちには別の世界もたくさん担当してもらってたから知ってるんだと思う。」
そんな答えが返ってきた。
「そういうことか……じゃあ、なんでラウだけこの世界しか担当してないんだ?」
「それはラウちゃんが一番熟練の子だから。一人でなんでもこなしちゃうからこの世界はほとんどラウちゃんに任せっきりなの。
他の子たちは経験を積んでもらうためにたくさんの世界を見せて勉強してもらってるの。」
「え、マジで?」
「うん。」
俺があまりの驚きに聞き返すとローナは肯定するだけ。
「……あれが?」
「うん。」
箸を使いこなしたご褒美のケーキを幸せそうに頬張っているラウを指差して聞くと、ローナは一つ頷くだけだった。
「ちょっとおにーさん!あれ、は失礼だよ!わたしはローナさんの次に古い神様なんだよ!?」
それを聞いていたラウは手を止めて抗議してくるが、頰についている生クリームで台無しだ。
「いや、なんか意外だったからな……すまん。」
だが、流石に申し訳なくなった俺は素直に謝った。
「反省したらその印にケーキもう一個ちょうだい。」
するとラウは本音を暴露する。
「まさかケーキが食べたいだけか……?」
「っ、そ、そんなことないよ?」
俺の発言にビクッと反応して否定する彼女だが、まるで誤魔化せていない。
図星じゃねぇか。やっぱこの女神ダメだろ。
「……でも、まぁ、確かに失礼だったのは認めるよ。ほい。」
「あ、ありがとうおにーさん。」
「おう。」
自分の非を認めてとりあえずケーキを渡すと
「いいなぁ……」
ローナがケーキを見てそう呟いた。
流石に自分で出せ、とは言えない。
「ああ、いいぞ。ほい。」
「わ、ありがとうタケシ。」
俺がケーキを渡すと彼女は嬉しそうに微笑む。
やべぇ、マジで可愛い。
「あー!ローナさんずるい!」
それを見てラウが不満そうに言ってくるが
「やかましい。ラウには二つやっただろ。」
「むー、そうだけど……納得いかないよ。」
「これから欲しい時にあげるから。」
「ならいいよ!」
すぐに鎮静化した。ラウはけっこう現金である。
まったく賑やかな場所だな……けど、悪くないな、こういうの。
ラウとローナ、サティとフェルが居るこの空間がとても好きだ。
そんな思いを胸に秘めながら俺たちは賑やかな午前を過ごした。
作者「リアルが忙しかったです。遅くなりました。
忙しかった理由は『明日から学校、終わらぬ課題』で察して下さい。」
隊長「趣味にばっかり時間かけてるからだ。学生の本懐を忘れたか?」
作者「そういう訳じゃないけど楽しいからつい。」
隊長「それとラガーマンとは?」
作者「ラグビー選手のことです。中学の部活でやってただけですけどね。」
隊長「あぁ……それがどう繋がるんだ?」
作者「これは智翠館とか仰星とかに行った先輩がボランティアで一緒に練習した時の発言です。
『自分をいじめ抜く事に快感を覚えよう。』
『自分に対してドSになれ、ドSな自分に対してドMになれ。』
こんなのが居る場所で部活なんぞやってたらメンタル強度なんて嫌でも上がりますよ。
しかも普段の練習も大学生がやってるのと同じメニューですし。何度心をへし折られたことやら。」
隊長「世界は広いな……」
作者「ええ、ほんとに。(遠い目)」