101 他人の白い歯っていいな
「さてと閑話休題」
鳩を見送った洋次は依頼者と対面。
「具体的には、歯を白くするのが目的なのですか?」
再度着席する。
「いえ。実は、カミーラ嬢のような綺麗な歯になりたいと」
「一番困る要望ですね」
「はい、力及ばず。本官も可能な限りペンティンスカ嬢をホメておりますが」
「カミーラの歯じゃなければイヤだ、と?」
頷くとか同意じゃない。引力に負けて落ちた印象のコンラッドの頭部。
「それは永遠に不可能だよなぁ。まさか御伽噺みたいに首や歯の交換って次元じゃないし」
でも異世界。それは『剣と魔法』のセカイであり、科学の浸透性はまだまだ低い。
「これはカミーラちゃんのご出馬願うか」と呟いていたので、
「サラージュ次期当主嬢を如何致すので?」
「あ? いやその」
何回も何回も凝視注目していたわけじゃない。でも、記憶の引き出しを開ければカミーラの歯は眩しい純白だった。
「病弱の白に近いから、〝お兄さん〟逆に心配してたんだよね。それを羨む人も居るんだ」
「最も身近に何よりも大切なお方です」
「お方」
コンラッドは中央で人脈も厚い将来有望な公務員──官吏らしい。だから、ある種の政略結婚をするのかなと傍観していた。
「ワガママですが、それも私を頼る余り。叶うならば全力で援助を惜しみません」
コンラッドなりに愛情は持っている、打算だけの結婚じゃないのが洋次の背中を押す原動力になった。
「コンラッド・タイラーさん」
一度深呼吸。
「はて。先刻より継続して対面しておりまするが」
「はい。それでも確認します。私、板橋洋次は実際には多少知識のある子供です。チキュウでは。とてもとても歯医者ではありません」
「斯様に説明を受けた覚えがあります。為れどミーナー嬢の治療は」
「あれは石板の絶縁性を知っていれば困難じゃありません。サラージュの町の子でも可能です」
「ほほぅ」
やっぱりこの人、高級公務員だ。態度とか自説を曲げないとか。
「しかしですな。根本的にサラージュのみならず、オルキア、いえいえバナト大陸でも歯医者。歯を治療する専門家は存在しません。歯はあって当然、無ければ死。貴殿はその考えを打ち壊しました」
「まだ全然です。で、本題の綺麗な歯なんですけど」
「どのような方法で? 材料や道具の手配を、本官が猛烈に後押し致します」
「……引き受け前提なんですね」
少しガス抜けした。
「もちろんであります。おお、お話しの途中でしたな」
「安全な天然素材での美白を実施します。ですけど、カミーラと同じは多分、私が本物の医師でなくても不可能だと」
「何故に?」
「それは誰よりも美しいは困難だからです」
それが女心じゃないだろうか。と、彼女イナイ歴イコール年齢の洋次の邪推だった。




