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102 なら、触れないでください


「メアリー」

 複数の貴族の領地の代官、コンラッド・タイラー。彼の婚約者のハリス・ペンティンスカがサラージュ城内の洋次のレンタル尖塔を訪れる前に吹き飛ばしたい疑問の鍵を握る人物。


「なんでしょう」

「あれ」

 香ばしい匂いがする。これってさっきコンラッドがメアリーにプレゼントしたお菓子の包みの匂いじゃないか。


「メアリー、実は」

「お聞きしたいことがあります」

 逆質問です。


「洋次は、コンラッド代官卿とどの様な相談をされていたのです」

「そ、そりゃあ」

「視線が泳いでます。それから例えメイドでも女性を目の前に頭を掻くのはエチケット違反です」

「ごめんなさい」

 それならメアリー。貴女と洋次の距離は、乙女としてどうよ。洋次が劣情エッチに負けたら、押し倒される距離なんだけど。


「表向きは歯の治療相談だよ」

「では、本題は?」

「うーん」

「ですから、視線を背けないでくださいまし」

 洋次の、マックス置き去りにされていた男の本能を刺激する匂い。メアリーの髪の毛がほんのちょーーーっと触れている感覚。


「コンラッドは、婚約者令嬢に手を焼いているらしいんです」

「手? 拷問ですか?」

「あ? その慣用句はオルキアにはないんだ」

 またまたまた異世界交流は難しい。例えナゾの翻訳能力が備わっていても、だ。


「ワガママに振り回されているんです。そこでカミーラとメアリーの協力が」

「いやです」


 即答即拒絶されました。


「もう〝こうこく〟など致しませんからね。風の便りも同様です」

「そんなにイヤですか。でも今回は」

「こ・ん・か・い・?」

 エルフのジト目。目力が強すぎて、巨峰連山すら動かざるが如し、だ。


「ペネ嬢の問題なんです。ほら、コンラッドと婚約している」

「それが令嬢と私にどんな関係があるのです?」

「大ありらしいんです。それが」

「また曖昧な物言いで私を」

「メアリー」

 カワイイの一言を我慢しました。白磁も土下座する透き通った美肌が朱に染まるくたい恥じらっている。

「その、私は気づかなかったんですよ、私は」

「なんです、その逃げ道だらけの言い訳」

「ペネ嬢が、そしてコンラッドによると羨ましいらしいんです。カミーラの白い歯が」

「洋次」

 言葉を切り裂くって表現が許されるなら、これだ。話の腰を折るなんて生温いものじゃない。


「牙がない真っ平らな歯は令嬢にとっては傷ですよ。それを非道い」

「その、他人は羨ましいんですよ。ペネにとっては吸血族の成人の儀式は未知の領域ですし」

「でも、でもです」

「そりゃ」

「触らないで」

 メアリーの肩を掴もうとして拒否られる。


「わかってます。無神経だって。でも私はモンスターの歯医者さんだし、ペネの問題も解決したいけど、一番の最も大事な宿題がなんだかを」

「なら、触れないでください」

「メアリー」

 今度は強引にメアリーを拘束する。男として乙女に失礼な行動をしているのは百も承知さ。



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